ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

BI版「蝶々夫人 宇宙編」@あうるすぽっと(東池袋)

230325

この青島広志先生、2000年代初期に千駄ヶ谷二期会スタジオで先生が主宰するオペラ講座シリーズに出たのをきっかけに以来、コロナ期を除いてほぼ毎年、なんらかの演目を聞きに行っています。今回は青栁・江口夫妻同時出演とも重なり、楽しみに出かけました。

毎回奇想天外な企画・構成をされるのが、この先生の持ち味、それを楽しみに、主に高齢者がせっせとホールに足を運ぶことになります。なんと言っても、開演前から先生のおしゃべりがそこここで炸裂し、歯にきぬ着せぬといいますか、時にこちら側が心配になるほど赤裸々な内幕を語りますが、これが実に面白いのです。

ただ、昨日はさすがに昨今のポリコレ規制やセクハラ問題が多く取り沙汰されることが増えているご時世を慮ってか、いささかトーンが落ちたように感じられ、それが少し残念です。

なんたって、いつも驚かされるのは、公演回数と出演者の数!先生の心遣いで、どんな端役であろうと、なにか見せ場を作ってあげようとされますから、どんどん長くなります。

今回もほとんど正味3時間半近くでした。蝶々夫人とは無関係の歌が随所に入り、またピアノ演奏あり、寸劇ありのごった煮状態。時として、はてさて、これは???というような芝居もあるのですが、そこはたまたま自分が知らないだけと諦めるしかありません。

伴奏陣もこうして見るとそれなりに豪華と言えます。小編成だからこそ、いい演奏者をうまく集めているようです。指揮には人気急上昇中の鈴木恵里奈さん、まるで宝塚の男役で、ご自身でも男っぷりを強調しているほど。

演奏するピアニストの後ろにさらにお二人のピアニスト、副指揮者の姿もあり、こうしたスタッフ陣の充実ぶりもあいまって、@¥7,000のチケットを完売してもなかなか元が取りにくいと述懐し、しきりに支援金募っておられました。

今回はずーっと応援している青栁・江口ご夫妻登場ですから、とりわけ二人の演技に集中していました。コロナ禍で演奏活動の空白期間が長かったので、モチベーションも下がるし、出演機会も激減するだけに、声帯維持が大変だったことは容易に想像できます。その間の努力の結果がこうして久しぶりの公演になるともろに出てくるものでしょう。

その点、お二人とも、以前と変わらず歌唱も演技も、台詞回しの滑舌も絶好調でしたね。つぐみさんはお身体も見事にシェイプアップされていたように見えました。冒頭、地球から遥か何十億光年かなたの宇宙からの場面、ピンカートンの祖母と母が「赤いサラファン」を歌いながら、縫い上げているのが真っ赤なふんどし!後にピンカートンがこれを銀色の宇宙衣装の上に付けて登場して爆笑を買います。

ケイト役(4人いる筆頭)の二美さんは、舞台手前で死のうとしている蝶々さんを尻目に後ろの方でちゃっかりとピンカートンといちゃついたり、ここはあえて嫌味たっぷりの演技でした。蝶々さんの横山美奈さん、ひさしぶりにお聴きしましたが、やはり以前と変わらず高音域までよぉく響かせて健在ぶりを見せつけられました。

それにしても順番は何ヶ所か入れ替えていましたが、有名なアリアはすべて歌っていたと思います。日本語とイタリア語が入り混じっていて、これはこれでなかなか面白く聴きました。あれはわざとなのか、たまたまなのかよく分からないところもありました。有名なアリアであればあるほど原語が染み付いていますからね。

カーテンコールでは、タイトルロールの横山さんがなんども涙を拭っていた姿が印象に残りました。青島ワールド常連のみなさんが多い中で、なんとピンカートンの青栁さんは初めての参加と知って、ちょっとびっくり。

この世界は青島広志先生がお元気な限り、延々と続くものと期待しています。ばかばかしいほどトンデモオペラなのですが、その世界を知ってしまったファンは、これからも集うことになるでしょう。

蛇足ながら今日のホール、”あうるすぽっと”はその名が示すように池袋にある豊島区の施設ですが、初めて参りました。メトロ東池袋駅の真上にあるので、それなりにアクセス、悪くないことを知りました。また一つ、初めてのホールに来られてよかったです。