240525 ヘンデルが1741年 56歳の時に作った最後のオペラです。大した評判を呼ばなかったこともあって、この後はオペラに情熱を失い、オラトリオへシフトするといういわく付きの作品で、当然日本でも上演機会はごく限られているようです。そんな貴重な機会でもあり、今日のパーシモンホールは満員の大盛況でした。
愚亭もまったく情報の持ち合わせもなく、チケットを買っていたのですが、終わってみれば大満足でした。
オペラと言えば、どうしてもヴェルディだ、プッチーニだ、ドニゼッティだのって、イタリア人のものばかりを聞きに行っているわけですが、たまにこうした典型的なバロックオペラを聴くと、いわばオペラの源流により近いわけで、なにもかも新鮮に響きます。
ギリシャ神話をベースにしていますから、それほど複雑な相関関係もありませんし、登場人物もごく限られている点では、とてもわかりやすい展開と言えましょう。
あえて言えば、アキッレが前半は女装して登場、後半はもうバレちゃったからいいかとばかりスカート(パニエ)を脱ぎ捨てて、勇ましくトロイの合戦に向かうというあたりがやや異色の展開かも知れません。
タイトルロールのデイダミーアはスキュロス島の王様の娘で、王様が匿っていたアキッレとは恋仲、なんとかアキッレを自分のところに引き留めておきたい気持ちとギリシャのために人肌脱がせたい気持ちの狭間でおおいに揺れ動くという悩ましい心理状態にあります。
この辺は、歌唱面でも微妙に演じ分ける必要があり、七澤 結さん、大変だったでしょう。まだ歌唱面では発展途上感もありますが、演技力もありまた可憐な舞台姿もあり、まずまず立派にこなしたのではないでしょうか。
彼女をはじめソリスト6人は一定以上の力量を示したと言えます。バレエダンサーが多く配されて、動きの激しいシーンが多く、歌手たちも、ダンサーたちとの絡みで、フリの難度が高く、その点でも厳しかったと思われます。
演出の中村 蓉さん、公演に先駆けて同じ劇場で行われたMo.鈴木とのトークショーでも感じましたが、若々しく奔放な演出・振り付けは成功したと思います。加えて、舞台装置デザインがシンプルかつスタイリッシュでたびたび演出を引き立てることに大きな効果を生んでました。
また出番は3回だけでしたが、合唱団の存在も大きかったと思います。後半開始まえに、オケの後、舞台すぐ下に一列に並んで、鹿の角を頭部につけての見事な合唱を2曲、そして終幕時にこんどは舞台に一番近い左右2階席に陣取って重要な歌唱を響かせてくれました。
後半はとくにメリスマが顕著な歌唱が多く、ヘンデルらしさというのでしょうか、バロックの醍醐味を心ゆくまで堪能できました。鈴木一族のバロック力に改めて感服した次第です。