ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「関心領域」

240530 THE ZONE OF INTEREST  2023 英国 1h45m 監督:ジョナサン・グレイザー(ロンドン生まれの英国人、59歳)

久しぶりに日比谷のシャンテシネへ。大学のクラス会の後、夜のコンサートまで時間が空いてしまったので、映画を見ることにしました。お昼の席では、睡魔に襲われないようにあえてアルコールを控えたのに、あまり効果はありませんでした。

ホロコーストをテーマにした作品は数知れませんし、愚亭も興味のある話題なので、随分これまで見てきましたが、これは確かにかなり異色作です。

冒頭、グレイ一色の画面、不気味な音が響きます。これが30秒も続くかと思われます。ちょっといきなりうんざりです。本作は徹底的に音にこだわっていることがわかります。

やがて小鳥のさえずりが混じってきて、のどかな田園地方で川遊びする一行が映し出されます。このシーンも長いです。これから描かれる家族の日常生活の一端はこうなのだよ、と印象付ける手法でしょう。

やがてこのナチ高官の一人であるルドルフ・ヘス一家の日常が描かれ始めます。壁のすぐ向こうには惨たらしい光景が日々継続されているのに、こちら側はなんとも長閑な、そして贅沢な景色です。

空が青ければ青いほど、芝生が緑であればあるほど、対比があざやかという訳です。なんたって、塀の向こうには時折銃声が響き、ユダヤ人満載の列車の音や黒い煙が、かすかに聞こえ、垣間見える仕掛けです。

この邸宅の主人公ヘスは人事異動で、よそへ行くので、この邸宅を後にすることになるのですが、妻は一度手に入れた贅沢な日常を手放したくない一心で、周囲に当たり散らします。塀の向こうのことなどこれっぽちの関心事ではないのです。

収容所が描かれないだけに、銃声、蒸気機関車の響き、もしかしたら黒い煙はガス室から吐き出されている煙かも知れません。観賞者はただ想像するのみです。そこが却って恐ろしいです。監督もそこを狙ったのでしょう。

ラストは冒頭と同じ、再びモノクロームの画面と不気味な不協和音で幕となります。期待しすぎたのか知れませんが、ちょっと残念な作品でした。