ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「こうもり」@アプリコ大ホール(蒲田)

240831&240901 大田区が鳴りもの入りで2019年度に始めた、足掛け6年に及ぶプロジェクトの最終章です。

本来の計画では、2020年春、コロナ蔓延直前に駆け込み公演となった「はじめのいっぽ」(1時間の短縮版)から3年目に本公演にこぎつける予定でした。予定通りでしたら、愚亭はこの本公演に乗るつもりだったのですが・・・体力のことを考えて、断念しました。第1弾の合唱仲間が多数乗っていることもあり、今回は2公演とも見ることに。

赤い線でマークしたイベントには愚亭も参加しました。

なんと言ってもソリスト陣の充実ぶりには目を瞠るものがあります。よくぞこれだけのスターを集められたものと、公演プロデューサーの吉田貴至さんには敬意を評する次第です。

2組ともまさに甲乙つけがたい布陣で、この辺りの組み合わせの妙といいますか、采配の見事さにも敬服しました。ただ、両日の入りにははっきり差が出ていた(楽日は6割程度?)のは、やや意外というか残念でした。それにしても、台風も微妙にそれてくれて助かりましたね。

初日、最前列、つまりオケピットのすぐ後ろに陣取りました。愚亭はオペラは耳より目で楽しむ方を優先するので、できるだけ前の席を取るのを常としています。開演時間に、マエストロが身を屈めるように指揮台へ。普通はスポットライトを浴びつつ、拍手で指揮台へという流れなのですが。

案の定、音が鳴る前にちょっとした寸劇が用意されていて、ファルケ池内響/黒田祐貴)が地元ネタをふんだんに盛り込んで笑いをとります。登場した地元ネタは、ユザワ屋、弁当の鳥久、黒湯温泉などなど。大袈裟な身振りと台詞回しで受けていましたね、両日とも。

幕が上がると、まあなんと立派な舞台でしょうか!!オシャレで、しかも精緻に作り込まれていて、こりゃ相当高くついたんでしょう。アイゼンシュタインの邸宅の居間で、まずは女中のアデーレ(宮地江奈/湯浅桃子)の登場となります。・・・という具合に紹介していくときりがないので、あとは簡単に。

ここはアイゼンシュタイン夫人、ロザリンデ(砂川涼子/小林厚子)、そして昔の恋人アルフレード西山紫苑/澤崎一了)が演唱する場面です。アルフレードは本来軽い役で、見せ場も少ないのですが、あえて彼に多く出番を作っているのが分かります。この作品、テノールの出番が少ないせいでしょう。

アルフレードはオペラ歌手という設定なので、セリフの合間合間に超有名オペラのアリアをちょこっと歌わせます。そして、室内の壁面にオリジナル歌詞と日本語訳が投影されるという仕掛け。これは大受け、感心しました。なんとしゃれた字幕なんでしょう。

しばらくすると主役登場です。アイゼンシュタイン(大沼 徹/又吉秀樹)はテノールまたはバリトンが演じますが、今回は二人ともバリトン。尤も又吉さんは近年テノールからバリトンに転向されていると聞いてますので、本役にはうってつけかも。

なんたってAまで出すようですから、けっこう大変です。そして二人ともカッコイイだけでなく、高い歌唱力に加えて軽妙な演技も求められますから、やはり大役です。

さて、お待ちかね合唱の出番は1部の後半、1時間もすぎたあたり、オルロフスキー侯爵のパーティーからとなります。実に華やかな展開です。初期段階で多少なりとも合唱団の1員として関与した愚亭としては、団員の大半は知ってますから、「待ってやしたァ〜!」ってところでしょうか。

ただ、想像していたより照明の当たり具合が合唱団には控えめであり、愚亭は最前列にいながら顔がよく見えないという具合でした。2日目は2階のバルコニー席最前列でしたが、オペラグラスでしっかりと一人一人表情など確認でき、別の楽しみ方を満喫。

初日の公爵は山下裕賀さん、楽日は井出壮志朗さん、つまりメゾ・ソプラノとバリトン、という組み合わせ!同性同士で高い・低い声部の組み合わせはあると思いますが、男女が同じ役を演じるのはやはり珍しいでしょうね。(しかも男声の場合はカウンターテナーテノールとの指定があるのに、バリトンですよ!)ともあれ、私には男性の方がしっくりきました。両組を見たいと強く思った動機はまさにそこでした。

そして休憩後の第3幕は1幕の舞台装置をうまく活かして刑務所長フランクの部屋です。この幕が上がる前に、幕の前で看守フロッシュが結構時間を取って軽妙な寸劇を演じるのです。今回はベテランの志村文彦さんが持ち前の軽妙さで演じられました。普段から面白いキャラなんで、この役にはぴったり!ハゲを自虐ネタにして、さんざん笑わせてくれました。

この幕ではなんと言っても刑務所長フランク(山下浩二/大川 博)のよっぱらい芸とでもいうのでしょうか、所作振る舞いがいちいち滑稽でして、体型からしてこの役にはぴったりの二人のこれぞ至芸!が見もの!大いに笑いを誘いました。

ま、これまでの夫婦の騙し合いや、こうもり博士ことファルケの復讐などが3幕で解決となり、「すべてはシャンパンの泡のせいだ!」という苦しい言い訳をするアイゼンシュタインのセリフが終わると、後ろの幕がとっぱらわれて合唱団全員が再び登場となりすばらしい大団円で盛り上がって幕!

最後に、もちろんマエストロ柴田真郁が振った東京ユニヴァーサルフィルも素晴らしかったのですが、高岸未朝さんの演出が冴え渡っていました。「はじめのいっぽ」のみの短い経験でも感じましたが、合唱団員一人一人のクセとかキャラとか含めた個性をまるまる読み込んだ上で演技や立ち位置、セリフ回し、カップルの組み合わせなど、実に細かく指導されますからね。

いやぁ、今更ながらオペラって、総合舞台芸術であることを実感して、降り出した雨の中、蒲田駅へと急ぎました。

初日組

楽日組