ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「連隊の娘」@日生劇場

241110上演回数の比較的少ないオペラを見に行きました。愚亭にとっても初見です。

このオペラの話題性はトニオが1幕の終わりで歌う"Ah, mes amis, quel jour de fȇte"でしょう。ハイC9連発ですが、しばしばアンコールもあるので、18連発!普通のテノールには過酷ですが、こういう高音を得意とする歌手にはごく普通のようです。

ちなみに、これだけ話題性の高いアリアなのに、手元にある音楽之友社の「名曲解説全集」のこの項で、一言も触れていません。執筆の宮澤縦一さんには響かなかったな?

メトで話題になったメキシコ人のハビエル・カマレーナ、超高音を得意とする常連、ペルー人出身のフアン・ディエゴ・フローレス、やはりリリコ・レッジェーロのイタリア人、アントニーノ・シラグーサなどなど、YouTubeでも聞けますので、聴き比べも一興かと。

今回は最前列で、Mo.原田がよく見えましたので、このアリアの終盤になると、トニオ役の小堀勇介さんに「もう1回、行ける?」みたいなアイコンタクトがありました。拍手が鳴り止む前に、マエストロが「アンコール!」と告げて、聴衆はもちろん大喝采

この歌を聴いてしまうと、悪いですが、あまり期待にそわそわするようなアリアはもうないんですよね。それが本作の人気のない所以でしょうか。タイトルロールのマリーの素敵なアリアがいくつかありますが、単独で演奏会で選曲されることは稀ではないでしょうか。

それと、歌なしでセリフだけの芝居が延々とあります。これ、結構退屈します。日本語ならまだしも全編フランス語ですからね。演じる歌手達もさぞ大変だったことでしょう。いっそ「こうもり」や「メリー・ウィドウ」のように歌以外は日本語って方がいいように思いました。

そんな事情も踏まえてなのでしょうか、舞台はよく使われる表現ですが、まさにおもちゃ箱をひっくり返したという表現がぴったり!ついでに衣装もカラフルかつ奇抜で、これは楽しめました。粟国さんの演出も大変よかったです。

下は開幕直後の舞台です。背景はジグソーパズル風になっていて、ところどころ埋まっていない箇所があって、そこから顔がのぞいたりします。右側の大きな木目調のクマもうまく作られています。

左はベルケンフィールド夫人の鳥木弥生さん。「美術展ナビ」からお借りした画像

中央はトニオの小堀勇介さん。青いマッチョ衣装がいいです。

マリー(熊木夕茉)とシュルピス(町英和)

ジグソーパズルの穴から顔をだすシュルピス

めでたしとなる終演部、トニオもマリーも純白衣装に。

原田慶太楼さん指揮の読響、すばらしかったです。本作には7分ほどの序曲が演奏されますが、冒頭、いかにもアルプス風のホルンソロがかなり長く続きます。これ、聴く側もちょっと緊張するほど、高低差のある難しいパッセージでしたが、見事な演奏でした。カーテンコールにホルン他、ソロのあったチェロ奏者たちも加わったのは結構珍しい光景でした。

おもちゃ箱の設定ですから、合唱団が扮した兵隊や小間使たちもみんな人形の動きだし、メイクもそれっぽくしてあって、口の両脇にはわざわざ黒い線まで入れる徹底ぶり。合唱はソロ活動もする集団、C.ヴィレッジシンガーズですから、そりゃもう、大変お上手でした。

タイトルロールの熊木夕茉さん、荒削りながら見事な演唱でした。これがオペラの初舞台だそうで、高い将来性を感じました。トニオの小堀勇介さんはなんどか舞台を拝見していますし、安定感抜群。シュルピス役の町英和さんは、多分初めてお聞きしましたが、歌も演技も素晴らしいものでした。

侯爵夫人の鳥木弥生さんは、今更言うことはありません。歌がすくなく延々仏語セリフばかりで、ちょっともったいなかったです。この方、仏語も堪能なので、それほど苦労されなかったかもです。

2時開演、5時ちょっと前終演で、休憩20分ですから、正味2時間半を超える、結構長い作品でした。