260616 PRIMAVERA(春、「四季」の1曲目)伊仏合作 2026 1h50m 監督:ダミアーノ・ミキエレット(初監督作品)

先に言いますと、これは傑作です。久しぶりに、骨太の作品を見ました。しかも、初監督作品というから、びっくりです。
このダミアーノ・ミキエレットという人物、オペラの演出家でつとに知られています。日本でも何度か彼の舞台を、主に二期会が公演しています。愚亭も2018年のプッチーニ三部作と、今年2月の「カヴァレリア・ルスティカーナ」と「道化師」の2本建を、彼の演出で鑑賞しています。その時の自分のブログを見ると、いずれも絶賛しています。
そんなオペラ演出家が初めて撮った映画がこれです。素晴らしいの一言!この人、実はヴェニス生まれというから、ヴェニスのことは知悉しているんですね。だからこそ、こんな作品が生まれたんだと思います。
全編、どんよりと鉛色の空のヴェニス、陰惨で、じめっとした感覚が画面に溢れています。これがカラッと晴れたヴェニスだったら、本作の舞台としては、ちょっとサマにならなかったでしょう。
ヴェニスに実際にあった(14世紀創設、現在は跡地がホテルに)捨て子の養育施設、ピエタ慈善院が舞台です。冒頭、かなりショッキングなシーン(子猫を袋詰めにして運河に投棄)が。これが、ラストシーンと実にたくみに呼応していることが、あとでじわじわっと分かります。
この慈善院にある日、ヴィヴァルディ(ミケーレ・リオンディーノ)が赴任してきます。彼は作曲家、演奏家の他に、カトリックの司祭としての顔も持っていました。結構世渡りは上手い方だったようです。
孤児たちを指導し、いっぱしの演奏家に育てていく過程で、とくに音感がよく(絶対音感かも)、見栄えもよかったチェチーリア(テクラ・インソーリア)に目をつけます。いきなり、第1ヴィアオリンの地位を与えたりして、本人も周囲も驚きます。
しかし、目をつけたのは、そこだけではなく、彼にはどうも野心がありあり!結局のところチェチーリアを利用しようって魂胆であることが、徐々に分かってきます。ま、話はこの程度にしておきましょう。
ところで、原題にもなっているプリマヴェーラは言わずとしれたヴィヴァルディの作品では最も知られた「四季」の冒頭部分ですが、視聴者がこの曲を聴くのはずーっと後段です。
ミキエレットの、この辺りの呼吸は見事というほか、ありませんね。なるほど、ここでかぁ!とため息でした。計算され尽くしていると感じました。
しかし、作曲した作品から受ける印象とは異なり、本人はかなり山っ気があったようで、その落差が愉快でした。
ラスト、洋上で舟に揺られながら、脱走に見事成功したチェチーリアの清々しい笑顔がすごく心に残りました。しかし、身寄りもなく、金もなく、果たして・・・?でも、そんなことは、どうでもよいのです、この時のチェチーリアには。ついに勝ち取った自由、それこそが何よりも渇望していたことですから。
この女優、もちろん知りません。イタリア映画はよく見る方ですが、新人なのかも。滅多に聞かない珍しい!姓も名も。テクラ・インソーリアだなんて!(笑)
ヴィオリン、彼女はもちろん他の出演者も相当猛特訓したようです。実際に登場する俳優たちの演奏をそのまま音源として使用したとありますが、本当にそうなら、素晴らしいことです。(でも、多分違うと思いますね)
見ていた思ったのは、全体的に「アマデウス」によく似ている作品だということです。もしかしたら、ミキエレットさん、意識していた可能性は十分ありますね。そもそも、ヴィヴァルディではなく、チェチーリアが主人公、まさに「アマデウス」で、サリエーリの視点でモーツァルトを描いていたところに共通しますから。
それと絵画的なセンスでも、かなりの共通点が見られました。そこも興味シンシンでした。

