ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「急に具合が悪くなる」@TOHOシネマズ大井町

260622 日仏独ベルギー合作 3h19m!!仏語タイトル SOUDAIN  英語タイトル ALL OF SUDDEN 脚本(共)・監督:濱口竜介 原作:宮野真生子磯野真穂

カンヌ映画祭で、主演の2人、岡本多緒ヴィルジニー・エフィラが主演女優賞を取った作品です。かなり話題になりましたね。日本人が主演女優賞取ったのは初めてだそうです。

長いです!疲れます!テーマが暗くて深刻だからです。でも、やはり傑作には違いありません。もともと哲学者と文化人類学者が死生観を巡って交わした往復書簡をベースにしているから、無理もありません。

濱口竜介監督は、これをパリ近郊と京都に移し替えて撮りました。マリー=ルーは、パリ近郊の介護施設の所長、一方の真里はガンに蝕まれながらもパリの小劇場での演出をやっています。

偶然、2人が出会います。どちらも相手の言語に精通していますから、会話は日本語になったりフランス語になったりしながら、途中からはそれぞれが母国語でやりとりしていきます。本作では”言語”が持つ意味合いがとても深くしてあります。

マリー=ルーはユマニチュードという、「見る」、「話しかける」、「触る」、「立つ」を基本にして、入居している要介護者を普通の人間として接しようとする手法を編み出しますが、それは、金銭的にも、また現場の介護者にも相当の犠牲を払わせて初めて成立するような、いわば理想の形ゆえに、さまざまハレーションを生み、彼女は悩みます。

多緒はいつ発作が起きてもおかしくないほどのステージ(本作のタイトルの由来)なのですが、とりあえず今日も小劇場「テアトル13」の会場で、役者の清宮吾郎(長塚京三)の(日本語とフランス語、日本語部分には字幕が)一人芝居を舞台袖でスタンバイ。終演後、客席との質疑の時間が設けられています。

会場にいたマリー=ルーが突如日本語で質問し、それに真里が日本語で答えます。内容がかなり込み入っており、会場から「フランス語で!」の声が。真里が要約しようとすると、吾郎は止めます。翻訳しなくてもなんとなく感じ取れればそれでよし、という姿勢です。

実はこれが大きなテーマになっています。中盤で、魂の響き合いを感じた2人が、休憩室でコーヒーを淹れる前にと、真里が前置きして、まるで大学の講義のような、かなり高度な内容の話を白板を使って展開しますが、これが長い!この部分をカットしてすこしでも短くできなかったのかと、多少イラつきながら見ました。

しかし、濱口竜介監督にとっては、カットできなかったんでしょうね。これが終盤の展開に大きな効果をもたらすのですが、それは見終わって初めて感じることでした。

2人はその後、一緒に真里の故郷、京都へ。古い民家で数日過ごします。そこで、突然足裏マッサージを互いに始めたり、夜明け前に見晴らしの良い高台へ来て、夜明けと共に用意していたカップヌードルを啜る場面など、秀逸の一言!

国宝」を超える長尺ものですが、それ以上の感動を覚えました。いずれ配信されるかもですが、これもやはり無理してでも映画館で見てこそ、と思いました。

長塚京三、ひさしぶりに見ましたが、やはり随分老けました。歩き方や所作の一つ一つにそれは現れました。仏語、見事でした。彼の場合は、もともと出来たようですね。

ヴィルジニーも多緒も、それぞれ本作のために日本語・仏語を猛特訓したそうです。濱口メソッドとも言えるようなやり方だそうです。プロの凄さ、まざまざです。2人は英語はできるので、撮影時以外は2人は英語で会話していたと思われます。

それから忘れてはいけないのが自閉症スペクトラムである、吾郎の孫、智樹を演じた黒崎煌代(こうだい)が素晴らしい演技で、圧倒されました。もしかして、本物の患者が演じているのかと勘違いしたほど。

蛇足ながら、パリの一部も登場しているのですが、観光的なパリは一切出さなかったのは素晴らしい判断だと思いました。