ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「私は、ダニエル・ブレイク」

170511 原題:I, DANIEL BLAKE(「私、ダニエル・ブレイク」で微妙にニュアンスが異なる) 英仏ベルギー合作。監督:ケン・ローチ(81歳、「麦の穂をゆらす風」2006、「天使の分け前」2012)

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いかにもケン・ローチらしい、骨太の、社会派ヒューマンドラマ。舞台は、スコットランドに近い、北部イングランドニューカッスルという中都市。59歳のダニエル・ブレイク(デイブ・ジョーンズ)、最近、連れ合いを亡くし、子供もいないので、一人暮らし。これまで大工仕事一筋で生きてきたが、心臓病で医者から仕事を止められていて、暮らし向きはよくない。

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今日も職安を訪ねても、典型的なお役所仕事で、まるで温かみのない扱いに、イライラは募るばかり。手順の説明を受けても、なかなか飲み込めない。大工一筋で生きてきたから、パソコンの知識はゼロ!なのに、必要書類はパソコンからとか、言われて、もう破れかぶれな、荒んだ気持ちに。

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そんな折、二人の幼子を連れたシングルマザーのケイティ(ヘイリー・スクワイアーズ)が、同じように職安スタッフに冷たくあしらわれているのを見かねて、口を出し、スタッフを罵倒する騒ぎを演じてしまう。

すっかりケイティ親子に同情したダニエルは、何くれと助言を与えたり、自分の大工の腕を生かして、家の修理をしてあげたり、徐々に親しくなっていく。

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ある日、一緒に近くのフードバンク(低所得者を対象に、自治体が食料品や日常品を配給するシステム)を訪れる。親切に接してくれるスタッフの目を盗んで、思わずその場で缶詰を開けて、食べ始めるケイティ。慰めるダニエル。涙にくれる母親を呆然と見つめる幼い二人。

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とうとう堪忍袋の緒が切れたダニエル、職安の建物の壁にペンキで自分の訴えを大書、すると周辺から大声援が飛ぶ、「そうだ、そうだ。もっとやれー!」

その後、面談で出頭したダニエルは、付きそうケイティを残してトイレへ。そこで心臓発作であっけなく亡くなる。教会では一番安上がりの「貧者のための時間帯」、午前9時から質素な、形ばかりの葬儀が行われ、最後にケイティーが挨拶。それは、ダニエルが残した手書きの文章を読み上げるため。

「私、ダニエル・ブレイクは、怠け者でもタカリ屋でも、物乞いでもない。私は国民健康保険番号でもエラー音でもない。私は人間で、犬ではない。当たり前の権利を要求する。敬意ある態度というものを。私はダニエル・ブレイク、一人の市民で、それ以上でも以下でもない。税金もきちんと納めてきたし、これまで堂々と誇りを持って生きてきたのだ。どうか、人間らしく尊厳を持って扱ってほしい」と。

この作品見ていて思い出すのは、同じくイギリス映画で、13年に公開された「お見送りの作法」だ。そこでは、孤独死した老人の葬儀を黙々と誠実に行なっていたある公務員が主人公で、本作とは正反対の内容だった。

かつて、「ゆりかごから墓場まで」と謳われた英国の福祉制度も、現状はこのザマで、ある部分、我が国の実情とオーバーラップしているようだ。

ところで、主人公役のデイブ・ジョンソンも、ケイティ役のヘイリー・スクワイアーズも日本では知られていない。それもそのはずで、これまで日本公開の作品が皆無だからだ。二人とも、テレビや舞台では相当活躍しているようだ。特にジョーンズは元々は喜劇役者らしい。

#26 画像はIMDbから。