ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ」

201122 THE PRICE OF DESIRE(欲望の値段)ベルギー/アイルランド合作 108分 2014 脚本・監督:メアリー・マクガキアン

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日本では2017年に公開されたらしいが、まったく知らなかった。

この地味な内容ゆえ、公開されたという記憶もないし、おそらく不入りではやばやと公開を切り上げたのではと疑う。そもそも主役となるアイリーン・グレイ(1878-1976)という人物が日本ではほとんど知られていないし(と自分には思えるが・・・)、この邦題でなければ、自分も見ることがなかったという作品。

あくまでも主人公がアイリーン・グレイだから、邦題とはうらはらにル・コルビュジエ(1887-1965)は添え物的にしか登場しないのには、がっかりする。でも、アイリーンという女性がいかに優れたアーティストかを知れたのは収穫。

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自作の家具に囲まれるアイリーン(Orla Brady)

彼女は建築家というより家具デザイナーとしての名声が高く、たまたま恋仲になった相手ジャン・バドウィッチが建築家・評論家であったことから、進められるままに建築・設計にも関心を示し、当時独特の理論(建築五原則など)で先鋭的な作風で知られていたル・コルビュジエを彼に紹介され、その謦咳に接し、触発されてコードダジュールのル・キャップ・マルタンに完成したのが、バドウィッチと一緒に住むための住宅、その名もE-1027。⬇︎

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2人の頭文字の一つと、それらを数字に置き換えて並べたもの。これがル・コルビュジエの痛く気にいるところとなり(そりゃ彼の理論が盛り込まれているからね)、ここに何度も足を運ぶし、この前の海で泳いでいて溺死するというおまけ付き。(自殺説も)

映画の冒頭は、アイリーンの作品の一つ(椅子)が競売に付され空前の1950万ユーロで落札される場面。ラストは、片目を失明した後も創作意欲が衰えず、その作業中に心臓発作で倒れるシーン。

ベルギーとアイルランドの合作というのも珍しいがアイルランドはアイリーンの故郷であることから。それにしても、映画の中の会話がひんぱんに英語と仏語が入れ替わるというのは、一体どういう意図か。

余談だが、愚亭が現役時代、海外建築視察団の添乗員としてあちこち見て回った中に、ル・コルビュジエロンシャン礼拝堂が含まれていて、団員が最も楽しみにしていた旅程中のハイライトだった。ところが、道中手間取り、どんどん日が暮れてきて撮影できなくなったらどうしようとドライバーを必死に急かすが、田舎道だからどうにもならず、不安と必死で戦いながら、ひたすら前方を凝視するのみ。くれなずむ丘にやっと見えてきたのが、これ!

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 幸い、撮影も滞りなく済んで、ホッとした一幕。その日の夕食で飲んだビールの美味しかったこと!

「アラビアの女王 愛と宿命の日々」

201122 QUEEN OF THE DESERT 米/モロッコ合作 2017 128分 脚本・監督:ヴェルナー・ヘルツォーク

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実話に基づいた作品。このような女性がいたことすら知らなかった。資料によれば、彼女はイギリスの考古学者・登山家・紀行作家・情報員となっている。

女性の地位がまだ低い時代にあって、高い教育を身につけたものの、周囲から却って煙たがられ鬱々とした生活。耐え切れず、ペルシャ公使だった伯父を頼ってテヘランへ。そこの3等公使館員と親しくなるも、相手が急死(自殺?)。

以後も男運には恵まれず、生涯独身で中東で研究に没頭する。当然、誰よりもアラブ事情に詳しくなり、政治力も発揮するが、彼女をスパイとして利用とするイギリス政府の意向に従うことなく、むしろアラブ側に同情的に振る舞う。「アラビアのロレンス」のT.E.ロレンスとも親交があり、共通点も。

日露戦争直前の日本にも2度来訪しているというから、当時としてはよほど世界中を動き回っていたことが窺える。もし男性だったら、あるいは中東の歴史に影響を及ぼした可能性もなきにしもあらずだ。

この時代、オスマントルコの衰退により、英仏が中東への覇権争いの真っ只中、フセイン・マクマホン条約やサイクス・ピコ協定など、悪名高き英国の3枚舌外交にはロレンス同様、一貫して批判的だったことだろう。

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砂漠のシーンが美しい!

こんな凄い女性をニコール・キッドマンが鮮やかに演じていた。ただ、残っている写真によれば、不美人というほどではないしても、ごく普通の女性であり、キッドマンほどの美女が演じるのははなはだリアリティに欠けるが、まあいいでしょう、映画だから。

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撮影中のヴェルナー・ヘルツォーク監督。

これまで数々の輝かしい作品を残してきたヘルツォークの作品としては、やや凡庸であるのは否めない。同じ砂漠を舞台にしたデイヴィッド・リーンの「アラビアのロレンス」には遠く及ばない。

「ドローン・オブ・ウォー」

201122 GOOD KILL 米 2015  102分 脚本・監督:アンドリュー・ニコル

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今では広く知られたことだが、こうした無人機による爆撃が普通に行われていることに改めて戦慄を覚える。当然、巻き添えで一般市民、とりわけ子供が犠牲になることも避けがたく、遠く離れたところにある作戦司令室で引き金を引く人間が正気でいられるのは難しい。

主人公のイーガン少佐(イーサン・ホーク)もそんな1人。車で20分ぐらいのところにある、そこそこ立派な軍用宿舎に家族と共に生活できているし、ほんのわずかな距離に不夜城ラスベガスがあるという、かなり恵まれた環境にある。

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しかし、元々は空軍飛行士である彼には、飛ぶことこそが自分に与えられたミッションと信じて疑わないから、今の境遇は、周りから羨まれようと耐えがたい。しかも、毎日のように無人機からの空爆で人の命を奪い続けるのだ。それが米国の敵、アルカイダであろうと。

自問自答を繰り返す日々、愛する妻も答を用意できない。ある日、どうしても引き金を引けない彼は、手元の機器の故障と偽って攻撃の機会を逃す。見ていた上官にはバレバレで、当然の処分が下り、ふんぎりをつけるきっかけにする。果たして、彼の望む日常は戻るのだろうか。

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原題のGOOD KILLとは任務完遂と意味するコールサイン。なんともはや・・・。

それにしても、朝から、あるいは運転しながら、スミルノフウォッカ)のボトルをラッパ飲みするのには呆れてしまう。イーサン・ホークの冷めた演技が光る。撮影はモロッコの砂漠とニュー・メキシコ、そしてラスベガス。

「ロンドン・フィールズ」

201121 LONDON FIELDS 英米 118分 2018/10 監督:マシュー・カレン

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タイトルと舞台(ロンドン)、それにキャスト陣に注目して見始めたが、展開がもたもたで、なんどもやめとうとしたが、結局最後まで見てしまった。時間の無駄だったかも。アンバー・ハードの魅力、ビリー・ボブ・ソーントンの演技、ジョニー・デップカメオ出演など、それなりに見所は。

劇中、ミャンマー人家族として、名前がエノラ・ゲイと少年(リトル・ボーイ)と主人公が紹介する場面があり、こういう特別の名称を軽く扱うことに日本人としては当然ながら不快感を持ってしまう。

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ほかに、ダーツ競技のシーンが面白かった。イギリスでは、スヌーカー(ビリヤードの一種)と並んで人気スポーツの代表格で、よくテレビ中継もされていたし、パブには必ずダーツが出来るようなスペースが設けられていたのを思い出す。501という競技が早く501点ピッタリにした方が勝ちという、なかなか味のある競技。

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ジョニー・デップの怪演ぶりも見どころの一つ。

予知能力を持つニコラ(アンバー・ハード)が、ほどなく自分が殺されると予知、その相手と思しき3人の男性に自分から近寄って、まあ一種の運試しをするという趣向。意外性のある結末。

元々はデイビッド・クローネンバーグ監督が2001年に映画化をスタートさせたが、様々な事情で降板、以後10年も棚晒しのままで、やっとマシュー・カレンが撮ることが決定。だが製作側と揉め続けたいわくつきの作品。また、本作撮影中にアンバー・ハードとジェニデが別れるきっかけとなったというから、映画そのものより撮影時のドタバタで話題性を高めたようだ。

 

「アンセイン 〜狂気の真実〜」

201120 UNSANE 2018 米 98分 監督:ティーブン・ソダバーグ

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ティーブン・ソダバーグにしては、やや粗っぽい展開で、不満が残る。

主人公のソーヤー(クレア・フォイ)はストーカーに付き纏われ、精神的に追い詰めらる。近所の心療施設に相談に行ったことで、彼女の運命は大きく変わることに。自殺を考えたことがあると気楽に打ち明けたことから、ある書類に形式的だからとサインしたため、無理矢理その場で入院させられ、地獄の1週間となってしまう。

保険金目当ての悪徳施設だが、想像を絶する扱いに命の危険に晒されるソーヤー。なんとストーカーは身分を偽ってこの施設のスタッフとなり、彼女に接近するのだった。

なんとか無事に退院でき、以前の仕事に戻り、どうやら出世までしているようだが、実はまだ彼女の精神状態には正常とは言えないものが残滓のように。

いわゆるサイコ・サスペンスで、怖さはたっぷり味わうことができる。主演のクレア・フォイが役になりきっており、なかなかの演技力を発揮する。これに負うところは少なくないかも知れない。

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確かにiPhoneで撮影している!

撮影日数、わずか10日間というのもすごいが、全編iPhone 7で撮影したことにも驚く。言われなければ気づかないほど見事な映像である。

このタイトル、Unsaneだが、手持ちの大英和辞典にも載っていない単語。一般的にはInsaneで、なぜ辞書にもないUnsaneを選択したのか、ソダバーグに聞いてみたい。マット・デイモンカメオ出演しているのが意外だった。