ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「存在しない南」@イタリア映画祭2014

240726 IL SUD E' NIENTE (南部はなんでもない)2013 イタリア  1h30m

イタリア映画祭2014出品作。現在、旧作として配信中。終了間際なので、見ることにしました。旧作なので視聴料は千円です。

まあまあ、期待通りの出来栄えでしょうか。ちょっと全体的に言葉も”音”も少ない、大変静かな作品ですが、それだけに訴える力があったのかも知れません。

舞台はイタリア半島のつま先、最南部に当たるレッジョ・ディ・カラッブリアという、貧しい地区。メッシーナ海峡を隔て、シチリアは目と鼻の先です。映画では標準イタリア語が話されていますが、本来なら、かなりの訛りの強い方言のはずです。

主役は17歳のGraziaと称する女性。父Cristianoと二人暮らしですが、近くには祖母もいて時折、様子を見にきます。父親は街で小さな魚屋をやっています。実はもうだいぶ前のこと、この家の長男、つまりグラーツィアの兄、ピエトロが家から消えます。父親も祖母もその詳細をグラーツィアに明かしません。

兄を慕っていたグラーツィアは、以来、無口で陰気な娘になり、家でも外でも言葉すくなで、学校ではそれゆえにいじめに遭っています。でも根はしっかりしているので、発達障害というようなことではないのです。でも、成績はふるわず、落第寸前。

徐々にに、ピエトロ失踪の謎がわかりはじめます。こんな土地でもマフィアが幅を利かせていて、クリスティアーノは彼らに借りがあり、なんとか精算して北伊へ行って出直したいと考えていますが、祖母にもグラーツィアにも反対され、向かいに住む恋人にも愛想を尽かされ、にっちもさっちも・・・でも、ラストはスカッとしますよ。

一貫して無愛想なGraziaを演じるミリアム・カールクヴィスト、イタリアとスェーデンのハーフですが、すこぶるボーイッシュで、冒頭、クローウアップで登場したときは、男の子かとおもったほどです。

親父役は苦み走ったハンサム男、ヴィニーチオ・マルキオーニ、つい最近、「トスカーナの幸せレシピ」で見たばかり。ここでは、お先真っ暗な一家の長を見事に演じています。

この自虐的なタイトル、南部イタリア人なら気を悪くすること必定。でも、そういうことなんです。南部イタリアは、本当に何もないところで、人口減に悩み、住人は子供と年寄りばかりになりつつあります。ろくな産業はありませんし、観光資源も皆無ですから。Il Sud è niente、「存在しない南」とは、まさにその通りなんですね。

「THE FALL 警視ステラ・ギブソン」@AmazonPrime

240824 原題のTHE FALLは一般的に落ちるの意味ですが、ここでは、T.S. エリオットの詩から取られたとのことです。本作の前に見たFALLはまさに落下そのものの意味でしたが。

英国のTVドラマシリーズで2013-2016に放映されました。今回は現在配信中のシーズン1(全5話)のみ視聴しました。イギリスの刑事物は好みなんで結構数多く見ていますが、本シリーズはトップ3にランクされる出来栄えです。

主役はDSU-Detective Superintendent、日本語では警視に当たるポストにいるステラ・ギブソンジリアン・アンダーソン)。聡明で、人使いは上手いし、私生活では自由奔放、色気もたっぷりという存在。彼女が小気味よく事件を解決していきます。

それにしても、独身とは言うものの、捜査中に昼間現場で見かけた若い警察官をひっかけますかねぇ〜。これにはさすがに引きます。しかも、後日、この若い警官が自宅前で射殺され、捜査に当たった同僚男性刑事に、軽率さを咎められると、「男が女をひっかけても、その逆ヴァージョンが気に食わないって言うわけ?」と返すのには呆れます。

ちなみに、彼女と仲の良い法医学者でもある同僚に、Departureで主役を張ったインド系のアーチー・パンジャビさんが登場しています。

シーズン1では、いきなり残念な殺しの場面が。舞台は北アイルランドの首都ベルファストです。先に犯人を出してしまう倒叙方式が取られています。普段は子煩悩な父親ですが、実は異常なほど残忍な正確な持ち主。

事件解決のためロンドンの警視庁からステラが特別に呼ばれて陣頭指揮に当たるわけです。次々に若い女性がターゲットにされ、いわゆる同一犯人によるシリアル・キラーとして特別捜査班が設置されます。ミュージック・マンという、なんとも長閑な名称です。

犯人ポールを演じるジェイミー・ドーナン、見るからにアイリッシュと思ったら、設定舞台となるベルファスト出身でした。長身、鋭い眼差しと髭面なんで、素顔がよく分かりませんが、一応イケメンということらしいです。

日頃から身体を徹底的に鍛えています。とりわけ膂力が並外れていて、普通の若い男性ではなかなか太刀打ちできません。まして女性など、一撃というわけです。こうして犯行を重ねながらも、ほんのわずか人並みの優しが残っていて、己が手にかけた女性の中にたまたま妊娠中の女性がいたら、後悔の念を綴った手紙を捜査本部に出すと言う、致命的なミスをします。

シーズン1では、捜査線が一気に縮まったところで、終わります。シーズン3までつかまらずに持つのでしょうか。配信され次第、視聴予定。

「FALL/フォール」@AmazonPrime

240722 2022 1h47m 米 原題そのまま 製作(共)・脚本(共)・監督:スコット・マン

アマプラは1作終了間際に次作(その人がどんな作品を観たがっているかアルゴリズムで計算済み)を右下隅にアイコンで表示するのですが、愚亭の場合はほとんど無視しています。本作は偶然見事にひっかかりました。

一つには↑のポスターがうまいです。これはCGショットでしょう。まんまとひっかかりました。青空に太陽が光っていて、頂上から一人が下をハラハラして、もう一人が登ってくるのを待つ。登りに使ったハシゴはガラガラ音を立てて落下して、空にはハゲワシが舞っているという構図!実際にはありえないショットですから。

冒頭は1組の夫婦と女友達、計3人でロッククライミングのシーン。もうすでにこの時点でハラハラ・ドキドキの連続です。実はそこで一旦見るのを諦めました。しかし、どうにも気になって、結局見ることになりました。

このロッククライミングベッキーの夫が落下、亡くなります。それから1年経過しても、ベッキーは立ち直れません。そんな時、事故の時に一緒だったクライマー仲間のハンターがベッキーをなぐさめるつもりで、荒野の真ん中に立っている600mの鉄塔に登ってみないかと誘います。

ここからが、さぁ、どうなるでしょう。最初は渋っていたベッキーも意を決します。登ってはみたものの、さて降りようとしたら、あちこち老朽化が激しい鉄塔、錆と劣化で、さっきまであったハシゴが・・・?

あとは知恵と体力と運で勝負が決まります。空にはいつのまにかハゲワシが。食べ物などとっくになくなり、頼みの水もペットボトルが1本、それもてっぺんから何メートルか下のアンテナのところにひっかかったバッグの中。スマホもこの高さだと電波が飛ばないのです。

ユーチューバーとして日々、動画投稿を続けるハンターがもちこんだ小型ドローンを飛ばして、なんとか下界の人間にSOSを届けようとするのですが、どれもこれもうまくいきません。万策尽きてしまうのでしょうか。

これだけの内容を飽きさせずに見せる脚本の出来は大したもんです。山の上に30mほどの鉄塔を作って撮影し、またグリーンの背景前でのセット撮影も組み込んだそうです。それにしても、この二人の体当たり演技は素晴らしかったです。よほど鍛え上げて撮影に臨んだことでしょう。

稲城市民オペラ第8回公演「カルメン」@稲城中央文化センターホール

240721

一昨年の大事故(転倒による脳挫傷ほか)から奇跡の復活を果たした江口二美さんはすでに復帰されていますが、今回はご自身大好きな演目とあって、初めて稲城まで参りました。

 

第8回ということですから、相当年季の入った合唱団でして、プロの歌手たちとうまく融合して素敵な舞台を作り上げていました。手作り感がたまりませんね。また演出の馬場さんが器用な方で、プログラムデザインや舞台のデザインを手がけられたとか。

小編成のオケもMo.竹内の下、大編成かと勘違いをするほど、見事な演奏を聞かせてくれました。あれで金管まで加わると言うことないのですが・・・。原語上演で、字幕も出していました。なまじ日本語上演よりはるかにこの方がいいですね。

またフラメンコダンサーが参加されて、雰囲気を大いに盛り上げられていました。なかなかの演技でした。

さて、主要キャスト陣、江口二美さんについては、さんざんこのサイトに登場いているので、細かいことは省くとして、さすが得意とする演目だけあって、見事な歌唱と隙のない演技で、聴衆を魅了されました。もうすこしブラーヴァがとんでも良かったのですが、私もうっかり忘れて後半では少しは声を出したのですが、風邪で完全な鼻声で、不発でした。

ドン・ホセの望月光貴さん、巨体でしっかり存在感をアピール、声もよく出ていました。最高音もそのままの勢いを維持すれば言うことなしです。ミカエラ川上真澄さん、純真な田舎娘、ミカエラに相応しい素敵な声でした。

エスカミリオはなんども聴かせてもらっているベテラン

さん、安心して聞いていました。終幕の本格的な闘牛士の衣装が立派でした。雰囲気もたっぷり。エスカミリオは例の闘牛士の歌のほかには大した出番がないのが、ちょっと残念ですかね。

Mo.竹内とオケメンバーに舞台上からも拍手。

 

「マダム・バタフライ」@東京文化会館

240719 久しぶりに映画以外の記事です。

デビュー以来、ずーっと応援している高橋絵理さん登場とあって、早くからチケットをゲット。前から4列目左セクション右端とベスト・ポジションで観劇。話題の宮本亜門演出、KENZOのコスチュームをたっぷり堪能しました。

宮本亜門の新解釈はある程度事前情報を仕入れていたので、興味津々で幕が上がるのを待ちました。病室、病臥しているのは晩年のピンカートン、かなり悪そうです。親族・関係者が別れを告げる中で、最後に登場するのが蝶々さんとの間にできた一人息子、Dolore(悲しみ)→Gioia(喜び)です。

病室は右端に引っ込み、開幕です。ダンサーのChion演じるこの青年、終幕まででっぱなし!セリフもない、もちろん歌もないのですが、表情だけで演技するわけで、なかなかの大役です。宮本亜門に認められて出演することになったようです。

この後は、型通り進行していきます。蝶々さん登場の付き人たちの衣装がKENZOの手になるもの、つい先日、METライブビューイングで見たばかりの中国人デザイナーのものと比べるまでもないですが、やはりセンスの違いを感じました。やはりこの演目だけは日本人がやらないとダメですよ、そりゃ。ま、マエストロはエッティンガーでいいですが。オケは輝いてましたね。

1幕60分の後、25分の休憩を挟み、2,3幕は休みなしで進行します。一旦、幕を閉じますが休憩なし。

高橋絵理さんは今更、何も言うことはありません。見事な蝶々さんでした。演技もすばらしかった!やはり絵になりますね、こういう人が演じると。相手役のピンカートンを演じた古橋郷平さんもよく踏ん張っていました。上背があり小顔なので、見栄えすること!高橋絵理さんとよく釣り合っていました。シャープレスの与那城 敬さんも身長が高いのですが、古橋郷平さんと並ぶと普通に見えちゃいます。

1番の見せ所、聞かせどころ、「ある晴れた日に」は、なんと舞台中央にある蝶々さんの自宅の1室だけ、可動式の小屋にしてあり、サイドのはしごで、屋根に登れるようなしつらえです。ちょっと危ないかなと思ったのですが、そこは若いから苦もなく上がり、そこで歌うのです。いろいろ考えています。

そしていよいよクライマックス、自刃の場面へと。これがまた一段と凝っていて、一般的には後ろ向きが多いのですが、宮本演出では、正面向いています。本作での一番の名曲とも言われるAddio fiorito asilを松葉杖姿のピンカートンが涙ながらに歌います。

カバーをされたソプラノの鈴木麻里子さんによれば、このプロダクションで一番金銭面で貢献したサンフランシスコオペラのこともあり、ピンカートンをどう描くか、迷いがあったとか。

さらにさらに・・・ここから先は敢えて触れないでおきましょう。