ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ノマドランド」@Amazon Prime Video

220522 NOMADLAND  2020 米 1時間47分 監督・脚本・編集:クロエ・ジャオ

2008年のリーマンショックの煽りを受け、一切合財失った60代の女性ファーン、亡き夫との思い出のキャンピング・カーでノマド(”遊牧民”)として逞しく生きる姿をヴィヴィッドに描きます。共演にはこれまた演技派のデイヴィッド・ストラザーン

主人公ファーンを演じるフランシス・マクドーマンドは実に3度もアカデミー主演女優賞を取り、さらに本作では製作(共)としても受賞という快挙達成で、いかに優れたプレイヤーかが分かります。

また監督の中国出身のクロエ・ジャオは監督賞、作品賞、編集賞脚本賞と4部門でオスカーを獲得するという離れ技を達成。出身国ももちろん喜んだんでしょうが、彼女は現体制には反対しているので、中国での本作公開はありません。こういうところが一党独裁の弊害が色濃くでますねぇ。

本作では実際のノマッドが実名で多数登場、マクドーマンドの演技があまりにも巧みゆえに、彼らにはまったく違和感がなく、中には最後まで彼女が自分達の仲間の一人と信じて疑わず、ハリウッドの女優であることを知らなかった人までいたということですから。

こういう役を演じきれるハリウッド女優はまあいないんでしょうねぇ。よくぞジャオ監督もキャスティングしたものです。間違いなく秀作です。

ところで、リーマンショックで実際に一つの町が消えました。この映画の舞台である、ネヴァダ州の砂漠にあったエンパイアという町です。ここはUSGと略称されるUS GYPSUM(石膏、ギプス)の採掘工場の、まあいわば企業城下町として存在していたので、工場撤退で、住人も消えたわけです。会社が提供していた社宅には2011年までの使用許可が出ていたようですが、結局ゴーストタウンに。ただ、現在は別の企業が進出して復活しているようですが、人口はまだ100人程度とか。なんとはなしに、「幸せの黄色いリボン」を思い出していました。

「見知らぬ乗客」@Amazon Prime Video

220520 STRANGERS ON A TRAIN 1951年 1時間40分、米、監督はアルフレッド・ヒッチコック。原作はパトリシア・ハイスミス(「太陽がいっぱい」)、脚本にはなんとレイモンド・チャンドラーの名前!ただ、ヒッチと相性が悪く途中で降板したとか。

あの時代にこんな日本語のポスターがあったなんて!

「ワーナー最高大作、近来稀なる会心作!」が、すこぶる大時代的です。なぜか、形容詞のgoodにまでSが付いちゃってます。形容されるmoviesに合わせたんでしょうか。まるでラテン系言語のようで、面白い!

ヒッチのいたずら。Lを入れると”見知らぬ人”が絞殺魔になっちゃいます。

妻と離婚協議のために列車で移動中の主人公ガイ(ファーリー・グレンジャー)がたまたまそばに座ったブルーノ(ロバート・ウォーカー)から馴れ馴れしく話しかけられます。ガイはアマチュアながら、名の知れたテニス・プレイヤーで、妻との離婚協議中であることとか、付き合ってる女性アン(ルース・ローマン)のことまでゴシップ紙に載っていて、ブルーノはその事実を知っていて、突如恐るべき提案をします。いきなり初対面でここまで深入りする展開てあり?とかなり違和感もちますねぇ。

初対面で一緒に飲んだり食べたりしますかねェ。この時点で怪しむべきです。
これはイニシャル入りのガイのライター(1950年でRONSONのライターがあったんですね)を見つめるブルーノ。このライターがのちのち重要な役割を果たすことになります。

最初はとうぜん取り合わないのですが、ブルーノの執拗さに辟易しながら別れます。

ガイが下車するときに乗り込むコントラバスを抱えた乗客がヒッチです。

テニスラケットと鞄を持ったガイがヒッチと目を合わせていますね。この場面だけはヒッチの娘(バーバラ役のパトリシア・ヒッチコック)が監督したとか。彼女、昨年亡くなり、これで本作の関係者はすべて故人となった由。

その後、なんとブルーノは提案通り、ガイの妻を遊園地の中で絞殺します。

絞殺される瞬間のミリアムが下に落ちたメガネに映り込みます。
ヒッチはこの場面のために特大のメガネを作らせたようです。

ブルーノがガイに出していた交換条件は日頃折り合いの悪いブルーノの父親の殺害で、そんなことは引き受けられないとガイは断固拒否するのですが、家の図面やら殺害に使うピストルまで送りつけられ、進退極まります。さ、どうなるんでしょうか。

愚亭の姉が大好きだったルース・ローマン。別段、どうというほどの女優ではありません。撮影中、ファーリー・グレンジャーは彼女にずいぶん嫌がらせをしたようですし、ヒッチも彼女が気に入らず、別の女優を使いたがったのですが、ワーナー側が契約中の女優だからという理由で彼女を”押しつけた”らしいです。そういう裏話があると、ちょっと彼女がかわいそうではあります。

アンの妹バーバラを演じたヒッチの娘、パトリシア。存在感ほぼなし。

ラストのメリーゴーラウンドのシーンは圧巻でした。ワンカットで取り切ったとか。今ならCGで簡単に撮影できるのでしょうが。実際にメリーゴーラウンドを作らせ、高速回転させて撮影。迫力満点、ヒッチの面目躍如ってな終わり方でした。

ところで、ロバート・ウォーカーですが、本作のクランクアップの8ヶ月後に急死します。アル中気味で、その治療薬の副作用が死因だったとか。32歳の若死にでした。ジェニファー・ジョーンズと学生時代に知り合い、幸せいっぱいでしたが、プロデューサーのデビッド・セルズニックからジェニファーを奪われた格好で、気の毒でした。

もう一つ。原作のハイスミス、当初は本作の出来栄えに好意をしめしていたらしいですが、その後、原作を何箇所も変更したこと、例えば、ガイの職業を建築家からテニスプレイヤーにしたり、最後のシーンも大幅に作り替えてたことに相当不満を鳴らしたとか。キャスティングも気に入らなかったようです。ヒッチはガイにはウィリアム・ホールデンを想定していたのですが、やはりワーナー側の主張でグレンジャーに変更されたそうで、ま、それにしても裏話満載の作品です。

第32回小澤一雄展@ギャラリーR(高円寺)

220519昨年11月に続いて高円寺にある同じ会場で開催中の個展へ。この人の画風はまことにユニークで諧謔性に溢れていて、ほんと心惹かれてしまいます。見る人に自然に笑みがこぼれます。今回も素敵なご招待状が届きました。GRAZIE, MERCI, 謝謝!

裏面は⬇︎

線描画の多い中で、こんなことも。

ベートーベン、バッハ、モーツァルト。下にある陶器類は奥様の作品です。

フッフッフ、いかにもアマデウスって感じ

モーツァルトが辿った旅。ドイツ語が母語なので、地名すべてドイツ語表記。

すべて愚亭も一度は行ったことのある町ばかりで、嬉しくなりました。

小澤さん、私よりはお若いですが、どのくらい若いかは知りません。

 

ふとテーブルの上を見ると、ヴァイオリンが。そうなんです、この展覧会、先生と親しくなった音楽家が時折、会場を演奏会にしてくれるのです。今日は、この方!

ジュリアード首席卒業というだけで、実力のほどが知れるというもの。

通りを往来する人たちもなにごとと覗き込んだりしていきます。

バッハ無伴奏ソナタ1番の1楽章と2楽章、イザイのソナタ2番を楽しみました。

演奏シーンの動画です。

 

次回も楽しみです。








 

「ドン・カルロス」@METライブビューイング

220518

壮大のきわみ!METライビビューイングの凄さ、改めて。

多分、この作品、数回しか、それも遠い昔に見た程度です。そもそも公演自体が少ないですから。これをMETライブビューイングで見られる幸運に恵まれました。仏語版は実に正味3時間半以上、休憩時間やインタビューなどの時間を含めると、5時間近く映画館にいることになり、これは愚亭には新記録です。この長さですと、たとえばワグナーの「ジークフリード」などでは、5千円以上となるところですが、本作は@¥3,700とお手頃なのです。長さだけで値決めしているわけではなさそうです。ヴェルディよりワグナーが高い?んなわけないっすよね。



さて、ヴェルディの23作目となるこのオペラ・セーリアはまごうことなきグランド・オペラの傑作中の傑作でしょう。個人的にはイル・トロヴァトーレの方が好みですが、本作もそれ以上の出来栄えでしょう。パリ・オペラ座からの依頼なんで、元々フランス語版として作られ、後にイタリア語版、それもやはり3時間半は長すぎるとのことで、短縮版も作られたようです。冒頭のフォンテーヌブローでのドン・カルロスとエリザベッタの出逢いや途中のバレエシーンをカットしたりと。しかし、今回見たのはすべてオリジナル通りで公開されました。それだけでも価値があると言えます。

普段イタリア語版で鑑賞していると、なんか違和感でもあるかと思ったら、んなわけ、ないです。本来は逆に考えるべきでしょう。カルメンをイタリア語版で鑑賞したことがありますが、それこそ違和感、たっぷりでした。

親父のフェリペ2世に、自分が愛するエリザベッタを奪われる形になった息子のドン・カルロスにして見れば、とても自分の居場所なんかないです。そこを救ったのが王の忠実な臣下ロドリーゴで、二人は大親友なのです。でも、ロドリーゴは策士で、親友のふりをしていただけかも知れません。フランドルを救うことに命をかけていましたから、ある意味、カルロスを犠牲にしていた可能性があります。しかも、王からはエリザベッタとカルロスの関係を監視せよと厳命されてましたし。

数ある名二重唱の中でもとりわけ秀逸なDio, che nell'alma(共に生き、共に死ぬ」と義兄弟の契りを結ぶドン・カルロスとロドリーゴ。いやあ、これほど名唱は滅多に。

結局史実では、王から監禁され23歳で獄死というから、なんとも哀れです。しかも、近親結婚を繰り返してきたハプスブルグ家ゆえなのでしょう、青い血が流れているなどと言われ、彼も一種の不具で、もともと長生きはできなかったらしいです。ちなみに、彼の死から数ヶ月後にエリザベッタも病死しています。なんとも悲しい話ではります。

ブルガリア人、ソニヤ・ヨンチェヴァ演じるエリザベッタの素晴らしかったこと!

愛する人が突如自分の息子になってしまい、戸惑いつつも運命に従いフェリペ2世に妃にならざるを得ない苦悩をめいっぱい表現していました。低音から超高音までまったく無駄も無理もない流れるような歌唱は、ちょっと他の追随を許さないという近寄り難い雰囲気でした。

昨年夏、やはりMETライブビューイングで見た「ポーギーとベス」でもその歌唱力と演技力には脱帽でしたが、このフェリペ2世役もあたり役。

この人の存在感、凄いです。エリック・オーウェン本人がまたチャーミングな人柄らしいです。王の苦悩する姿、表情がやきついています。後半4幕で歌う「一人寂しく眠ろう」はまさにゼッピン、拍手とブラーヴォ、鳴り止まず。

タイトルロールのマシュー・ポレンザーニは名前からして分かるように、イタリア系アメリカ人。明るく、ハリのあるリリコ・スピントで、この役はもうこれ以上ないほどピッタシ!ロドリーゴとの相性もバツグンでしたねぇ。

他にロドリーゴをやったエチエンヌ・ドゥピュイ(フランス系カナダ人)、エボリ侯爵夫人のアメリカ人、ジェイミー・バートンのものすごい響きの奥深い発声のメゾ・ソプラノ、そして忘れてはいけないのが大審問官を演じたバス・バリトンジョン・レリエ、この人もカナダ人ですが、まだ50になったばかりで、なんと堂々とし演技と歌唱でしょうか。しかも目力と存在感には圧倒されました。なんで50になったばかりであんな雰囲気が出せるのか。

こうして主要6役に当代最高の歌い手を揃えたからこその大成功でしょう。それと、やはり今回も舞台の見事なこと!METライブビューイングを見る楽しみの大きな要素でもあります。よくここまで、と毎回感心するしかない美術部門の活躍でしょうね。

そう言えば、今回の放映時間が長くなったのは途中にウクライナ支援の動画が挟まったりしていました。国歌を歌ったり、ベートーベンの第九の終演部の演奏(字幕にはありませんでしたが、メゾはエボリ侯爵夫人をやったジェイミー・バートンテノールポーランド出身のピヨートル・ベチャワでした。ソプラノとバスはわかりませんでした。

それと、冒頭、METライブビューイングの宣伝動画が毎回映るのですが、そこにはもうアンナ・ネトレプコの姿はありませんでしたね。ちょっと寂しいです。ヴェレリー・ゲルギエフ同様、プーチンと仲良しという理由で、メトは外したのです。もったいないことです。

なお、画像はMETライブビューイングの公式HPからお借りしました。

 

「ボテロ展 ふくよかな魔法」@Bunkamura(渋谷)内覧会へ

220517

今回も運よく内覧会にお呼ばれしましたので、渋谷へ出かけました。展覧会の概要はこちらの公式HPを➡︎みどころ

この名前、まったく知りませんでした。でも、画風を一目見て、俄然興味をもちました。なんとも言えない雰囲気のある絵ばかりです。こういう作風の画家って、これまでそれほど見た覚えがありません。ちょっと肉厚に人体を描くのはメキシコのケイロスに似てもなくもないかなと思ったら、24歳の時にメキシコに移住して、その影響は受けたのは事実のようです。

また、彫刻を見ても、フランスのアリスティッド・マヨールの作風との共通点などもあるように感じました。とにかくなんでもぽっちゃり、ふっくら、丸っこくしちゃうんです。ただ、顔などは、目鼻を中央にちっちゃく集中させる傾向があるのと、一貫してどれも喜怒哀楽なしの無表情なんです。そこがまたえもいわれぬ気持ちにさせてくれるようです。

この人、1932年生まれで現在90歳で健在です。生まれは南米コロンビアの、麻薬カルテルでよく名前が出てくるメデジンです。20歳まで過ごしたようですが、その後、前述の通りメキシコに移住したり、ヨーロッパ(マドリッド、パリ、フィレンツェなど)で古今の名画を鑑賞したり模写したりして、次第に自分の作風を確立していったようです。

ちょっと見にくいですが、拡大して見てください。彼の年代記の概要はこうなります。

まるっこくなっていったきっかけはマンドリンを描いていた時にサウンド・ホールをたまたまちっちゃく描いたところ、閃いたらしいです。本人が語る動画が会場で流されていました。

マンドリンの穴を小さく描いたら、楽器が爆発したような感じがしたとか。

冒頭、岡田学芸員から概要説明がありました。この作品は「コロンビアの聖母」。涙が盛大で汗のようにも見えるのも面白いです。手にしているのは青いリンゴ。抱いている坊やは幼児キリストでしょう。手にしているのはコロンビアの国旗です。

17歳の時の作品「泣く女」、既になみなみならぬ才能を感じさせます。

モナリザの横顔 2020

「馬に乗る少女」'61

「庭で迷う少女」'59

「キリスト」2000。この人にかかるとキリスト磔刑もこれ、この通り!
これも体全体に比して足が極端に小さい!

これなども”傑作”です。やはり足がどうしても小さく描かれます。バーレッスン中のバレリーナ 2001年

「結婚したて」2010。一見するとマネの「草上の昼食」みたいにハレンチに見られそうですが、この人の作風では、そんなふうにはまったく感じられないところがボテロ・マジックなんでしょうか。

会場で配布された”すごろく”!これが実にうまく作られていて感心しきりです。


今回、主催者さんの特別のはからいで、どの作品も一点撮りがOKという太っ腹ぶりを見せていただきした。ありがたいです。会期は7月3日までです。日本人にとっても珍しいコロンビア出身画家の大変愉快な作品が70点も揃った貴重な機会、見逃す手はないでしょう。