ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「野火」

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塚本晋也による製作・監督・編集・主演作品。10年も暖めていたとか。当時のことを知る人も高齢となり、今、作らねばという執念で、必死で製作費を捻出して、やっと完成にこぎつけた由。市川 崑監督による作品とは異なる視点で作ったとのことだが、市川作品は見ていないので、なんとも。ついでに、大岡昇平の原作も読んでいない。

レイテ島での、悲惨と言うか、酸鼻を極める状況下で敗走する日本兵の、それこそ人肉にまで手を出すほどの、人間として極限状態まで追い詰められた姿を、最新の映写技術を駆使して描いた力作。

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肺病に侵されている田村一等兵塚本晋也)は、所属部隊からは野戦病院行きを命じられ、負傷兵で満杯の病院からは追い出され、行くあてのない身。敗残兵が集まれば、もはや食糧の話しか出ない。

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それでもあらかじめ決められた集合地点に向け、夜間の匍匐前進を試みるも、米軍の罠にはまり、十字砲火を浴びせられ、ほぼ全滅。奇跡的に生き延びた田村にも明日はない。

このシーンの凄まじさは、D-Dayにオマハビーチに上陸を試みた「プライベート・ライアン」以上で、低予算でありながら、よくぞ!という印象。

願わくは、田村一等兵だが、塚本晋也がもう少し減量して演じて欲しかったなぁ。肉付きが良く、いかにも健康そうな皮膚感が、ちょっとリアリティにかけていたのが残念。

ガダルカナルの一木支隊の戦いや、白骨街道とまで言われたインパール作戦など、すこぶる悪名高き作戦は、特に陸軍には数知れないが、これもそんな中に含まれるのかも知れない。そうした歴史を知らない若い人たちにも是非見てほしい作品である。

なお、野火とは、地元原住民が日本兵のありかを米軍に知らせる狼煙であったか、単に原住民がトウモロコシの殻を焼く野火か、二通りに使われているようだ。

#60 画像はALLCINEMA on lineから