ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「REALISM 現代の写実 - 映像を超えて」@東京都美術館

171230 姉に勧められて、上野まで見に行ったのがこれ。

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詳細はPRESS RELEASEに譲るとして、⬇︎いきなりこれにはびっくり!

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小森隼人の作品だが、こうした題材を世に広く知らしめたフランドル派の細密静物画顔負けの作品で、右手厚手カーペット(?)の質感に至っては、かのフェルメールも脱帽しそうな出来栄え。

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この古い家具や錫製のポット、ロイヤルコペンハーゲン風の陶器などの質感の圧倒的な迫力にはほんとに驚かされる。

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ちなみに、これは1630年代の代表的な細密静物画、ウィレム・クラース・ヘダの「鍍金した酒杯のある静物

この人は徹底的にこうした当時を彷彿とさせるような静物画にこだわっているようだ。一方、こちら

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どちらかと言えば、女性的な優しい感覚で迫るのが塩谷亮

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いずれも、写真を使って制作しているが、写真を超えているところに真価があるのか。光源なども自由に変化させて、写真よりさらに真に迫ろうということだろう。

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反対側の画室に回ると、写実でもかなり趣の異なる世界が。

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工場跡地のような作品ばかり描いた橋本大輔

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核戦争の果ての都会の風景とでも言おうか。廃墟ばかり描いた元田久治。東京ドームと脇に立つ東京ドーム・ホテル。

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東京駅だけ残して、手前の丸ビルなどは跡形もない。

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こちらは渋谷の俯瞰図。左手前は銀座線。中央を横切るのが山手線。奥に109ビルが見える。なんとも恐ろしい風景だ。

地下3階の反対側の画室では、「近代の写実展」が無料で同時開催されていた。(上記PRESS RELEASE参照)超細密な世界を凝視してきた目には、こういう普通の絵画を見るとなぜかホッとする安らぎを感じた。

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時間と体力が残されていれば、⬆︎ここにも寄ろうかと思っていたが、今日から閉館。また文化会館の向こう側の上野の森美術館の「怖い絵」展は、来るときにチラッと見えたが、長蛇の列だったから、もとより最初から行くつもりはない。

 

 

 

 

年末に第九を聴くのは久しぶり

171229 昨年末は自分が合唱団の中で歌っていた杉並公会堂で、予定されていたマエストロが登場しないという前代未聞の”事件”があり、忘れ得ぬ演奏会となったが、今年はじっくりと聴く機会があった。

今回はそれこそ一音も逃すまいという意気込みで、一心不乱に聞き入った。普段、眠気を催す3楽章も、こんなにも美しい調べの連続だったかと感心するほどだったし、こんなところで、長く美しいピッツィカートが入るんだなど、新しい発見も。

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地元(蒲田)合唱団仲間がソプラノで出演するということでのご招待。2階の最前列の中央、真正面にマエストロが見える位置に陣取る。

この管弦楽団、初めて聴くが、⬇︎こういう内容である。

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コントラバス奏者から指揮者に転じた(依然コントラバス演奏も続けているそうだが)古澤直久が率いるオケで、最終行に、プロアマ奏者混合の新形態オケとある。団員リストにはその区別がないから、どなたがプロかアマかは判断不可。いずれにしても、確かに珍しい編成の楽団である。

今日はご自身が専門とする楽器ゆえか分からぬが、コンバス10本並べた。全員独式の持ち方。ホルンも6管編成。前に4人、後ろに2人という布陣。通常だと前列の客席から見て右端が1番だと思うのだが、今日は2番の女性が難しいパートをほとんど吹いていたのは、いかなる事情なるや。ついでながら、この奏者、2階席からでも目立つべっぴんさん。

ほかに、ちょっとしたハプニングというか、珍しい光景が2度ほど。最初は、多分体調問題だろうと思うが、1楽章前半で早々と男性チェリストが退場。1楽章終了時点で戻って来たが、マエストロから目で訊かれたのだろうが、なんども「もう大丈夫です!」という風に首を振っていた。

2度目は、1楽章後半、ティンパニーの連打の場面で下手からぬーっとパーカッショニストが現れ、なにげにティンパニーに近づいて、立ったままで連打のお手伝いをしたこと。よほど強力な連打をマエストロが要求したということか。珍しい光景だ。

さて、第1部では、多分、この若いマエストロが個人的に好きなのだろう、ジョン・ウィリアムズの「スーパーマン」と「スター・ウォーズ」のテーマ音楽を演奏、2曲とも金管の吠え方に特徴があるが、普段、映画館で大音響で聴いているせいか、「あら?」というほどで、もっと吠えまくってくれないかと感じたのは私だけか。

それと、「スター・ウォーズ」演奏直前、弦の大部分の奏者とトロンボーン奏者がLEDで赤、青、緑のライトを予め弓(トロンボーンは管の側面)に両面テープで貼り付けていて、細いコードでつないだ脇腹付近のスウィッチを入れると一斉に輝き、ちょっとしたどよめきが。こういう演出はなかなか楽しくていいものだ。

このホール、音響がいいのか悪いのかよく分からない。自分の聴力が衰えたとは思いたくないのだが、なんとなく全体的に響きが弱いように感じられた。オケも合唱団もバランスが素晴らしいだけに、ちょっともったいないような気がしてしまった。

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ソリスト陣では、唯一知っているのが澤崎一了(かずあき)。何度か聴いている。アルテ・リーベの空間では彼の音量は拾いきれない。7月には東京文化会館小ホールでの日伊コンコルソでオペラアリアを3曲聞かせてもらって、すごい歌手がまた一人出現して嬉しく思った。この時は惜しくも優勝は逃したものの、第2位と五十嵐喜芳賞をもぎ取ったのだから大したもの。

今日のような大きな会場で聞くと、やはりとても自然で、柔らかな発声が小気味よく響いた。この人、図体の割にはにかみ屋という風情、大変腰が低く、ファンをとても大事にしているようで、気軽に写真撮影になんども応じていた。気は優しくて力持ち?!

他のソリストの方々もみなさん、持ち場をしっかり守っていらして、安心して聴いていられた。典型的な沖縄の姓をお持ちの照屋博史はバスというより、ハイバリに属する声質と思った。例のちょっと長いパッセージ、und freu-denのファなどは軽々と出すのだが、欲を言えば、出だしの O Freun-deや、最後のvollereなどは、もう少し重みが欲しいかな。

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#83 文中敬称略

 

これがないと年末の気分になれないもの

171226 ローマに40年も在住していた親友のSIくんが年末になると決まって用意してくれるのが、これ!

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イタリア人にはお馴染みのパネットーネだ。パネットーネと言えば、ミラノのモッタ社のものが最も有名だが、これはバウリ社のもの。他にもヴェローナ産のパンドーロという、ドライフルーツを含まないクリスマス菓子もある。

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我が家では、カミさんも娘もそれほど興味がなく、毎年、ほぼ一人で食べてしまう。

ほのかなオレンジの香りが漂う、イタリアの代表的な銘菓の一つ。ブリオッシュ生地にドライフルーツを混ぜて焼き上げたもの。これがないと年の暮れという感じがしないから不思議だ。完全に我が家の風物詩化している。

「ヒトラーに屈しなかった国王」

171226 原題:KONGENS NEI(国王のノー、ノルウェイ語)

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こういう立派な元首をいただいた国民は幸せだ。本作を見ていて、日本と共通する部分もあるのだが、決定的に違うところが、国王が敢然とナチスにも、また政府に対しても自分の意思を伝えて、その通りにさせたことだろう。また息子でもある皇太子に対しても「自分たちは国民に選ばれた王室であることを忘れるな。すべて祖国のためである」と諌める場面も涙を禁じ得ない。

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⬆︎逃げ延びた先にナチス爆撃機が襲いかかり、国王も皇太子と必死で逃げ惑う。

エスかノーかと迫るヒトラーに、ノーと言えない内閣と国境の町での粗末な集会場で対峙、こんな大事なことを我々だけで密室で決めてしまったら、後でどう国民に説明するのだ!この一言がまた泣かせる。密室政治がはびこるどっかの国とはえらい違いである。

1940年4月9日からわずか数日しか本作では描かれていないが、そこでノルウェイの将来が決定したと言っても過言ではない。結局、ナチスに国土を踏みにじられ、王室も英国に一時亡命するが、5年後、ナチスが崩壊し、国王一家は熱狂的に国民に迎えられる。この時のホーコーネン7世はすでに老齢で、腰痛をおして戦火を逃げ延びる経験もする。

現在は、映画では5歳児ぐらいに描かれている孫のハーラル5世が国王。この一家、もともとはデンマークから1905年にノルウェイに請われて元首として入国した。

この辺り、日本人にはなかなか理解しずらいが、ヨーロッパの王室同士は婚姻による結びつきが深く、この時もホーコーネン7世の兄はデンマークの国王であった。

映画の後半で、駐ノルウェイのドイツ公使が国王との直接交渉をヒトラーから直々に命命令され、協定書をつきつける。だが、国王が一向に署名しないのに、業を煮やして「お兄様がなさったように」と言った瞬間、「私は私だ!」と激怒する場面が描かれている。⬇︎ついでだが、この公使、署名が取れなかったことで東部戦線に飛ばされ、ソ連軍の捕虜になりシベリア送りになったそうだ。

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本当に誰からも敬愛された国王だが、雪の中、避難しようと立ち寄る先に、それと知らぬ2等兵の若者が検問しようとする場面がある。窓を開けた国王を見た瞬間、若者はまるで映画スターを見るような眼差しになり、「ああ、王様!」と一言。さらに「国王のために頑張ります!」と言うと「いや、祖国のためだぞ!」と優しくたしなめる。

言われた2等兵は負傷するが、今も生きているそうだから、これは実話に近い挿話だろう。

#92 画像はIMDbから

「否定と肯定」

171222 原題:DENIAL(否定)英米合作 110分 監督:ミック・ジャクソン(74歳、英国人「ボディガー」1992)原作:デボラ・リップシュタット

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久しぶりに観た重厚な法廷ドラマ!ホロコーストが実際に起きたことを証明しないと敗訴?そんなバカな!!と思うが英国の法律ではそうなんだから、米国人の被告が驚くのも無理はない。

これ、実話に基づく作品ということで、見どころ多し。法廷ドラマゆえに退屈するかと覚悟して行ったらと、んでもない!ずーっと画面に釘付けになり、最後の判決がどうでるか、すっかり被告側に感情移入してドキドキして幕切れを見守った。

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歴史学者と名乗りながら、ろくに裏も取らずにホロコーストはでっちあげという論理を展開する⬆︎アーヴィングという英国人を自著の中でこっぴどく批判したら、逆ギレして名誉毀損で訴えられてしまったユダヤ歴史学者、デボラ・リップシュタット(演じるレイチェル・ワイスも、英国籍ながらハンガリーユダヤ人。Weiszというスペルでそれと分かる。まさにぴったりの役どころ)

英国の王立裁判所で裁かれることになり、彼女には英国の大弁護団がつくことに。しかし、自分の証言はもとより、ホロコーストを生き延びた生存者を出廷させないとする英国の弁護スタイルについていけず、イライラがつのる。それでも英国の裁判だから、自分の主張は引っ込めざるを得ず、最後は、彼らに委ねたおかげでギリギリで勝訴をかち取るまでの息詰まる展開を描く。

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アウシュビッツガス室の検証まで敢行して、アーヴィングとの論争に備える緻密極まるバリスター、リチャード・ランプトン(トム・ウィルキンソン)の弁舌が冴え渡る場面が最高の見せ場。ちなみに劇中、法廷でのセリフは一字一句すべて実際の記録に基づいて用意されたという。

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主役の二人も含め、ほぼ英国人俳優で占められているが、ワイスは米国人役だから当然として、ウィルキンソンスコットランド人という設定ながら、ハリウッド映画の出演が長くなり、米語に近い発音になってしまっているのが、ちょっと残念。

#91 画像はIMDbから。