ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」

180531 KUBO AND THE TWO STRINGS 米 103分 アニメ 2017秋日本公開 製作・監督:トラビス・ナイト 

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立て続けに日本を舞台にした、それもストップ・モーションのアニメを見るとは思わなかった。解説によれば、これもまたトラビス・ナイト黒澤 明の作品から想を得たとか。

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殺された父が遺してくれた魔法の武具を探す、過酷で孤独な旅に出るKUBO、途中から母の化身と思われる厳しくも優しいサルと、父の化身にしては、少々おっちょこちょいのクワガタの助けを借りて、見事に復讐の本懐を遂げ、両親に再会するまでの話。

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古い日本の描写がどのシーンもまことに巧みであり、ちょっとした驚き。そう言えば近年のハリウッド作品には、SF作品も含めて、日本の景色(過去も現在も含めて)実に多く取り入れられていることに気づく。単なる偶然だろうか。

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上のシーンは、「インディー・ジョーンズ 失われた聖櫃」へのオマージュであろう。

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さまざまな日本人らしき顔も、相当研究した結果、特徴をコミカルに捉えて生み出した造形力にも脱帽!

原題の2本の弦が何を指しているのかと思って見ていたら、父母の髪の毛2本に自分の分を足して三味線の弦としていることが終盤にやっとわかる仕掛け。

#45 画像はIMDbから。

「ゴッホ 最期の手紙」

180531 LOVING VINCENT 英・ポーランド合作 脚本・監督・編集:ドロタ・コビエラポーランド、女流監督)

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アルルの郵便配達人の息子、アルマンが父からの依頼で、ゴッホが弟テオに宛てた最期の手紙を届けるべく、パリに向かい、ゴッホが最晩年を過ごしたオーベール・シュル・オワーズ村でゴッホを知る人々に会い、彼の死の謎を探ろうとするミステリー仕立てのアニメ。

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アニメとは言うものの、これがゴッホ風の油絵の動画だから、実に面白い。ゴッホ好きにはたまらないだろう。なにせ125人もの画家が、実写フィルムから起こした原画にゴッホ風の味付けをほどこし6万枚以上もの油絵を実際に描き、それをアニメにしたというから素晴らしい!この作品、ゴッホが見たら、何と言うかと想像すると愉快である。

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作業した画家の6割は女性だったそうだ。彼らもきっとこの滅多にない制作は楽しんだことだろう。

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確かにゴッホの死に方は謎に満ちている。近くの麦畑へ、最後となる一枚「カラスのいる麦畑」を描いている最中かどうかは不明だが、ピストルで腹部を撃ったところまでは間違いない。負傷したまま自室のある旅籠、ラブー亭の自室へ戻り、駆けつけたテオの介護も虚しく、数日後に死去。

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当時のラブー亭

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現在のAUBERGE RAVOUX。2階の一室がゴッホの住んでいた部屋。愚亭も一度見ているが、粗末なベッド、小さな文机、洗面台があるだけの殺風景極まりないもので、アルルの例の黄色い家の部屋に比べて、色のまったくない、塞ぎ込みたくなるような環境。

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タンギー爺さん

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愚亭の好きな女優の一人、アイリッシュシアーシャ・ローナンゴッホ風にアニメ化されるとこの通り。

#44 画像はIMDbから。

「ゲティ家の身代金」

180530 ALL THE MONEY IN THE WORLD 米 133分 監督:リドリー・スコット

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1973年に起きた誘拐事件をベースにした実録もの。リドリー・スコットらしい作り込み方に十分共感する。

冒頭シーンはフェデリコ・フェッリーニの「甘い生活」へのオマージュであることは明白。モノクロで、雑踏するヴィア・ヴェネトを移動カメラで捉える。大型アメ車が走行しているのは、ちょっと雰囲気を損なうが。そこを後日誘拐される当の人物がうろつくシーン。

さて、実際の主人公である世界的な大富豪、ジャン=ポール・ゲティは1948年の中東石油で大儲けをする。

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⬆︎撮影はサウディでなくヨルダン。

この人物、稀代のドケチ野郎で、それを示すシーンが何度か登場する。それが物語の伏線にもなっている。夜の女が出没するカラカラ浴場付近をぶらつく孫の3世、女には引っかからないが、誘拐犯にまんまとワーゲンのヴァンに引きずり込まれて、目指すは南伊のポテンツァ郊外のアジト。要求金額は1,700万ドル(今の金額で20億円ぐらいかな)

大騒ぎとなり、さっそく1世の出番!むらがるメディアに対して、一言「びた一文も!」。これにはさすがにあっけに取られる記者たち。孫が14人もいるから、前例は作りたくないというのを理由にはしているが・・・。

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⬆︎囚われの身となった3世。演じているのはチャーリー・プラマーと偶然おじいちゃん役のクリストファーとは同姓だが、姻戚関係はないそうだ。

既に2世とは離婚している3世の母親、アビゲイルミシェル・ウィリアムズが好演)が、結局この後、犯人側とほぼ単独で交渉することに。途中から、1世の警備担当、元CIAのチェイスマーク・ウォルバーグ、この役のためにかなり減量)が交渉に加わるが、1世、2世、ついでにローマ警察もクソの役にも立たない。本当にイタリアの警察ほど当てにならないものはこの世でも少ないかも。

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長期化に嫌気がさした犯人側、なんとマフィアに人質を売り飛ばしてしまうからすごい話だ。マフィアらしい手口は、人質の耳を切り落として(このシーンは正視に耐えられない)、郵送してくる。これにはさすがの1世も動かざるを得ないが、400万ドルまで値切り、ほとんどは節税対策として、そして一部はアビゲイルに貸付けるという、なんともあざとい手法を案出するから驚く。

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耳を切り落とされた3世と、犯人の中ではかなり同情的だったチンクワンタという役を、いつもダンディーな役回りのロマン・デュリスが演じている。うまくはまっている。

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リドリー・スコット監督とクリストファー・プラマー(89)。元々はケビン・スペイシー(58)が演じることになっていて、撮影もあらかた済んでしまっていたのに、セクハラでひっかかり、急遽プラマーにお鉢が回ったといういわくつきの作品。どんな演技をしたのか見たいものだが、まあ、プラマーで正解だったのでは?

実話と最も異なる点は、映画では、事件解決と同時に1世が亡くなるのだが、実際は3年ほど生存したらしい。

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1世がなくなり、財産整理に没頭するアビゲイル。1世が収集した古代ローマの彫刻群に囲まれているが、そこに亡霊のごとく1世の黒大理石の胸像が現れギョッとするところで、ジ・エンド。

#43 画像はIMDbから

「犬ヶ島」

180529 原題:ISLE OF DOGS 米 101分 原案・製作・脚本・監督:ウェス・アンダーソン(49歳、「ムーンライズ・キングダム」2012、「グランド・ブダペスト・ホテル」2014)まさしく鬼才と呼ぶにふさわしい映画人の一人だろう。これまでの作品でも、本作同様、監督だけでなく、複数の役割もこなしている。ストップモーション・アニメとしては2作目(前作ファンタスティックMr.Foxは見ていない)

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よくこんな映画、創ってくれるよなぁと思える、まことに奇想天外な作品である。とりわけ犬好きファンにはたまらないだろう。まず、舞台が未来の日本に設定しているところが面白い。

冒頭いきなり軽快な和太鼓のシーンでワクワクさせられる。そして、面白いところは日本人(らしい人物も含めて)には日本語で喋らせ、犬たちは英語でという組み合わせで、それぞれのセリフに互いの字幕が入るという寸法。

犬たちの声をやっている俳優たちのなんと豪華多彩であることよ!監督の声がけで、ほぼヴォランティアで集まったというから、これも驚きである。どの犬をどの俳優が喋っているか、確認してから、もう一回じっくり見てみたい。一回だけではもったいない。

冒頭に出てくる侍は、どう見てもあれは仲代達矢(「」)だろうし、音楽も「7人の侍」から取っていて、黒澤明へのオマージュであることは明白。

犬たちの作り込みもまた素晴らしい。アルパカの毛を利用したらしいが、ストップモーションとしての価値を大いに高めている。CGでは表せない世界観が見事だ。670人の製作スタッフが13万の作画をして作り上げたという。

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蔓延する犬の病気から人間を守るために犬をことごとくゴミの島(犬ヶ島)へと隔離する政策をメガサキ市の市長が打ち出し、どんどん犬をその島へ送り込むのだが、この市長の養子のアタリが自分の愛犬までその犬ヶ島へ捨てられたと思い、単身飛行機で島へ向かい、そこでさまざまな犬たちとの交流を通じて、成長していく話。

原題のISLE OF DOGSは素早く発音するとI LOVE DOGSに通じるとしてこのタイトルにしたと言われているが、残念ながら、邦題ではこの含意が利かない。

#42 画像はIMDbから

「モリのいる場所」

180528 99分 脚本・監督:沖田修一

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まあ、なんともほんわかした、癒される作品だ。

熊谷守一(1880-1977)が晩年過ごした練馬区の自宅での暮らしぶりを、淡々と描いた作品。1973-75頃の設定と思われるが、この頃だともう90歳を超えたいたことになる。両方の手に杖を持って、よろよろという動作ではあるが、その割に結構若々しい。

外出は一切せず(劇中では、30年、家から外に出たことがないと)、日がな一日、鬱蒼とした20坪ほどの草ぼうぼうの庭で、小動物、虫、鳥を観察しながら過ごすのが日常。たまに人が訪ねてくる程度。

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冒頭シーンは昭和天皇と思われる人物の顔を正面から捉えたまま10秒以上。しばらくして、後ろを振り向き「これは何歳の子供の作品ですか?」と侍従に尋ねるという塩梅。それほど、熊谷の晩年の作品は枯れているが、無駄を一切排除したモダンな抽象画という風情。

有象無象が家を訪ねてきては、勝手に食事したり酒を飲んだりするのが、守一は独り黙々、我関せずと過ごす。ただ、肝心なことにはきちんと対応していたことが描かれる。

隣地にマンション建設計画が持ち上がり、日が当たらなくなるからと当人たちはもちろん反対だが、美術愛好家たちも立て看板を周辺に立てて応戦。建設側の関係者が談判に来ることも事前に計算していて、自分はトイレに隠れ、奥さん(樹木希林)に対応させる。

一緒に訪ねてきていたマンションのオーナーがトイレに入ろうとして、守一と鉢合わせ。そこで息子が描いた下手くそな絵を見せにくると、言下に「下手です。上手は先が見えるからいけません。下手でいいのです。それも絵ですから」と超然として、相手をケムに巻く。

またある日、宮内庁から文化勲章叙勲を伝える電話が。すると、「そうなると、またいろんな人が来るだろう?それに袴とか穿いたりするのも面倒だし」と断ってしまう。

ま、こうしたエピソードには事欠かなかった、まさに仙人というような人物だったろう。

この監督が多分好きだったんだろうと思われるが、ドリフターズの話が出てきて、来客者同士で盛り上がり、最後に天井から大きなタライが大音響と共に落ちてきて、下にいた来客者がひっくり返るというシーン、要るのかなあ、こういうのは。

#41 画像はALLCINEMA on lineから