ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「闇の列車、光の旅」

100709 TOHOシネマズ・シャンテ 原題:SIN NOMBRE(名もなき人々) 墨米 96分 脚本・監督:ケーリー・フクナガ 出演: エドガル・フローレス、パウリナ・ガイタン(二人とも出演経験のほとんどない新人)f:id:niba-036:20100710131639j:image
赤貧洗うが如き貧困のまま一生を送るのか、それとも自分や家族の命を犠牲にしてまで、そこから脱出するのか。そんな究極の選択しか残されていない中米ホンジュラスに住む底辺の人々。そこには、我々、一応富める世界の方に入る日本人には、到底窺い知れない壮絶なドラマがごく日常化しているようだ。

ケーリー・フクナガは日本人とスェーデン人を親に持つ日系人。そんな世界に大きな関心を抱いた監督は、自ら移民列車の屋根に乗ったり、地元ギャング団に身を置き、彼ら特有の言語を学んだりと、緻密な準備をしたとか。本作への並々ならぬ意欲が窺える。そうした貴重な実体験を通して描いたドラマだけに、本作の迫真性には一味違ったものがある。

ホンジュラスから新天地アメリカを目指す人々の群れの中に、父親や叔父と一緒に逃避行を決めた少女サウラの姿。照ろうが、降ろうがひたすら列車の屋根の上で耐えるしかない、悲愴な行軍だ。

一方、不本意ながらギャング団に身を置くカスペルは、カリスマ的ボスのリルマゴに大切な彼女を奪われただけでなく、殺されてしまう。それでも我が身を守るには彼のいいなりになるしかない。ボスが目をつけたこの逃避行の一行から、金品を奪うために列車の屋根へ。不運にもサウラがボスの目にとまり、レイプされそうになる。元々が善良で、しかも自分の彼女を惨殺された怒りがおさまらないカスペルは、ボスの首に躊躇なくマチェートを振り下ろすのだった。
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追われる身になったカスペル、もうこの先どうなっても構わないやけっぱちな気持ちと、逃げ切れるかも、という気持ちが交錯している。そんな中、図らずもレイプされずにすんだサウラは、ワルぶりながらも善良そうなカスペルに次第に惹かれて行くのだった。

夜の闇を切り裂いて、轟々と列車は新天地向け驀進していくが、その先にあるのは光なんだろうか。一人であれば、身軽にどうにでもなれたものを、助けたばっかりに、気づいてみれば二人行。かよわい女連れで、国境の川を渡りきれるのか。必死の追っ手をかわしきれるのか、終盤はハラハラドキドキの連続。これが初の長編作品とは、フクナガ監督の力量に脱帽。

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