ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「最後の忠臣蔵」

f:id:grappatei:20101209184534j:image:left101208 ヤクルトホール
腹は古式にのっとり真一文字に深々と深々と切り裂いた。あとは切っ先を左頸動脈に当てて引けばいい。

今まさに長くもない人生の幕引きを迎え、武士としての矜持を厳然と守り抜こうとする。その強い一念で、何とかこの瞬間を迎えることができた。失いかける気力を振り絞り・・・・脳裏に去来するのは、今日まで16年間、殿(大石内蔵助)との固い密約で、自分の命を賭けて育て上げた殿の隠し子可音(かね)の、乳飲み子から成人するまでの、あらゆる場面の一こま一こま。今はただその達成感・充実感と、今日無事彼女を豪商へ嫁がせた安堵感が、徐々に冷たくなっていく身体を満たしているのだった。


めでたき婚礼の席をひそかに抜け出た瀬尾孫左衛門を不審に思ってぎりぎりで駆けつけた寺坂吉右衛門の介錯を振り切って・・・。
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まー、しかし忠臣蔵を扱った映画って、一体どれほどあるのだろう。愚亭も結構見ている。まずは平均的日本人ということか。これまでの作品と異なり、いきなり討ち入りシーンが冒頭に来る。四十七士討ち入り後、更には切腹後の話だ。泉岳寺にある墓は46人分。討ち入り後に抜け出したのは寺坂吉右衛門。殿の厳命により、遺族を一軒ずつ訪ねて、金銭面を含め彼らの面倒を見よとのことで、今やっと46軒目を探し当てたところから始まる。
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実は、もう一人、殿から密命を受けた者が。瀬尾孫左衛門と言う。彼の場合は討ち入り前に逐電し、京都近郊の隠れ家に住む内蔵助の側女とその娘の元へ急ぐ。世間のとりわけ、浅野家家臣一党から糾弾され続けるのは同じだが、瀬尾の場合は討ち入りに参加すらしていないことから、一段と辛辣に見られ、16年間味わった悲哀と詳しさは言語を絶するものであっただけに、今この大任を無事果たした喜びもまたひとしおであった。

役所広司が巧い。元々、役者になるつもりもなく、仕事がなく、たまたま無名塾に入ることになったと言う。それがどうだ、今や間違いなく日本を代表する男優の一人。
寺坂役の佐藤浩市も勿論悪くない。他に伊武雅刀、片岡仁左衛門、笈田ヨシなど、芸達者が脇を固めている。
可音役の桜庭ななみ、それなりに出演作品も多いようだが、まったく愚亭は知らなかった。初々しい感じがよく出ている。安田成美、少し老けたが、品がよい。可音に対して、礼儀作法一般から歌舞音曲まで教え込む、元島原の芸妓という役を見事に演じている。

寺坂の存在はよく知られているところだが、瀬尾孫左衛門も実在の人物で、討ち入り2日前に逐電しているのも事実らしいが、理由については明らかにされていない。

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