ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「東京家族」

130121 109シネマズ川崎 ほぼ4週間ぶりに映画館へ。珍しいことだ。映画と言うのは見始めると止まらないが、見なくなればそのまんまということがよくある。ただ、今回は見たい作品がずーっとなかったゆえのこと。今年の映画鑑賞は邦画から開始。しかも、今年のベスト10入り、間違いない作品。

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言わずと知れた60年前、名匠小津安二郎監督が作った「東京物語」のリメイクだ。現在、世界の映画監督が推す優秀作品第一位という傑作だけに、リメイクした山田洋次監督の苦心は想像に余りある。配役を微妙に置き換えているが、9割がたストーリーはそのままの展開。時代を現代に移し替えているから、その点でも苦労の跡が窺える。

古今東西を問わず、親と子の永遠のテーマを扱っているから、海外での評価が高いことも大いに頷けるのだ。誰にも思い当たるからこそ、深い共感を覚える。当然ながら、観客席は高齢者ばかりだったが、若い世代にも是非見て欲しい作品。(因にジュゼッペ・トルナトーレ監督の「みんな元気」(1990)も、「東京物語」にインスパイアされたに違いない。)

育てた子供達が一人残らず東京へ出て行ってしまい、田舎の島では、老いた父母だけが取り残されている。思い立って、東京の子供や孫を訪ねて上京してはみたものの、親が想像していたものと現実には大きな隔たりが。子供達も生きるのに精一杯で、気持ちはあっても、せっかく上京した両親を暖かく迎える余裕がない。

そんな中、子供の時から優秀だった長男と違って、やることなすこと、父親にはいちいち気に入らなかった次男と、その彼女が最も細やかな愛情を見せるところが切ない。

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旅先での母親の急死、払暁一人病院の屋上へ上がって悲しみに耐える父親、探しに行った次男とのやりとりがいい。「のう昌次、母さん、死んだぞ」

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父親役をやった橋爪功、まだ71歳だが、完璧に年寄りになっている。さすがだ。そしてこの「出来の悪い」次男をやる妻夫木聡、こんなに巧かったとは!その彼女の蒼井優の自然な演技も生きている。他の役者もみな上手いのだが、長男の西村雅彦の台詞回しがどうにも不自然でいけない。「東京物語」を意識し過ぎたのではないか。

蛇足ながら、冒頭、迎えに行った昌次が品川駅と東京駅を間違えて、結局両親はタクシーで長男の家に向かうことになるのだが、皆ケータイを持っているのに、あり得ないシチュエーションで、リアリティーに欠ける。60年前と違って、いくら瀬戸内の島暮らしとは言え、簡単に上京できる時代だけに、時代の移し替えには細かいところで、無理が出てしまっている。

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オリジナルでは、妻夫木の役はない。戦死していて、未亡人(原節子)と父との場面が終盤で見せ場を作る。そしてひとりになった父(笠智衆)の何とも言えない表情で映画は終わる。名場面だ。

#1 画像はALLCINEMA on lineから