ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「フレンチアルプスで起きたこと」

150804 原題:FORCE MAJEURE(不可抗力)118分 スェーデン、デンマークノルウェイ、仏合作。最近、結構日本に入るようになった北欧作品の一つ。[監]リューベン・オストルンド(74年生まれ、スェーデン人)

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あらすじ、その他詳細→オフィシャル・サイト

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⬆︎冒頭のシーン。プロのカメラマンに言われるままにポーズを取り続ける、一見して幸せいっぱいの家族。

5日間の休暇でフレンチアルプスにスキーにやってきたスェーデン人一家。昼食どきのテラスで人工(?)雪崩(アトラクション?)を経験、係員の手違いか、普段より大きく、テラスの間際まで。これにたまげた一家だったが、一家の主人たるトマスが、家族を置いて真っ先に逃げたことで、彼は家族の中で、信用丸つぶれ、男としての沽券も失うことに。

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でも、女房のエバも、この点については、驚くほど執拗で、謝っても簡単には許さない。友人との楽しかるべき会食時にも、あえて話題にして、夫を徹底に詰る。逃亡行為自体、事実として認めるしかないトマス、ついには家族の前で号泣までして詫び、かつ情けない自分を責め続ける。子供の仲介もあり、なんとか無事に最終日まで迎える。

荒天で視界がほとんどきかない中で、滑り出す4人。案の定、途中しんがりのエバがはぐれてしまう。慌てて声だけを頼りに引き返すトマス。無事、エバを助けて、加点、信頼回復。かくしてまずまずの休暇を終えて、バスで下山を始める一行。

ところが、いろは坂で、一悶着。不慣れなスペイン人運転手ゆえ、何度も恐ろしい目に。後部座席から、「もう少し安全運転してよー!」と叫ぶエバ。その後もヘアピンを回る度に谷底へ真っ逆さまかという恐怖を味わい、到頭「もういいわ、降ろしてよ、ここで」を運転手に詰め寄り、なんとほとんどの乗客も一緒に下車。

しかし、暗くなり始め、まだ先は長いというのに、その後、スイスイと降りてゆくバスを遠くに見やりながら、とぼとぼと歩く一行の姿が。んで、終わり!

なかなか見ごたえのある北欧作品がまた一つ。舞台はスキー場だが、ほとんと哲学的なやり取りが実に面白かった。あのトマスも、絵に描いたようないい亭主、いい父親なのだが、たった一つの事件で、家族からの信頼を一気に失ってしまうという、まあ気の毒というか、同情的な見方もできなくはない。一瞬の恐怖で、我を完全に忘れて取った行動だろう、あれは。

それより、ネチネチといつまでも夫を許さず、周辺の人たちにまで夫の前で批難し続ける神経って、どうなのよ。さらに、下山時のバスから降りるという行為も、いささか軽はずみとも言える。一緒に降りちまった他の乗客にしてみれば飛んだトバッチリだった筈。トマスよりエバの方がはるかにタチの悪い人間に見えて仕方なかった。

家族の仲の良さを強調する意味だったのか、やたらバスルームで一緒に歯を磨いたり、そばで排尿したりするシーン、多すぎ。4人でベッドに寝転ぶ場面も、なんとなく意図がバレバレで、ちょっと嫌味。幸せな家族を演じているだけの仮面家族って印象かな。子供達も含めて、全員、エゴイスト集団は、言い過ぎか。まあ、ありがちだけどね。

音楽は冒頭から一貫してヴィヴァルディの「四季」から”夏”。冬景色なのに、”夏”を鳴らし続けるのが面白い。なんとなく波乱含みを表現する曲ではある。独奏バイオリンは日本人女性だった(エンドロールで確認)。監督がYouTubeから選んだらしい。

#59  画像はIMdb及びALLCINEMA on lineから