ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「斬、」

181226 時代劇の新境地を開いた塚本晋也作品。製作・脚本・編集・撮影・監督・主演というから、マイナー部分を残して全部自分でやっちゃったという作品。「野火」も見ているが、かなり似通った画面が出てくるし、また黒澤の「7人の侍」なども意識していなかったろうか、訊いてみたくなる。

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江戸末期の時代設定で、時代から取り残されそうになる侍の悲哀が画面から滲み出る。農家で農作業を手伝いながら食いつなぐ貧乏浪人(池松壮亮)、それを慕う農家の娘(蒼井優)、江戸行きを誘う剣豪(塚本晋也)。三者三様の思惑から、悲惨な結末を迎える。

全編を流れる時代劇に似つかわしくないほど強烈なサウンド、立ち回り場面のカメラワークはハンドカメラを駆使して臨場感に溢れている。敢えて彩度を下げた色彩が陰惨さを際立たせる。時代劇としては初めて味わう感覚だ。

後味はよくないが、塚本晋也の才能には改めて脱帽!また、池松、蒼井の抑えたフレッシュな演技にも好感を抱く。蒼井に、敢えて現代風なセリフ回しをさせているのが面白い。

さてこのタイトル、斬の後にコンマをつけないと、検索には引っかからないかも知れない。「君の名は」を思い出す。狙いはなんだろう。

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ヴェニス国際映画祭コンペティション部門出品作品

#86 画面はALLCINEMA on lineから。