ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

板波利加ソプラノリサイタル

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もっぱらミラノやウィーンで活躍している板波利加の、まあいわば凱旋リサイタルか。この人、日本人には珍しい、Soprano LiricoよりDinamicoというふうに言っちゃった方が正確も知れない。声質、音域ともに日本人離れした印象が濃い。楽曲に対する深い洞察力から来るらしい曲それぞれへの陰影のつけ方など、どこを切っても超一級品であるのは間違いない。

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今日は前半はトスティなどの軽めの歌曲や、同じく軽めのオペラ・アリアを披露、後半は一転、ドイツもの。とは言え、あえてカジュアルなものを並べ、最後にズドーンとシュトラウスの「サロメ」で締めた。アンコールは、松島音頭!楽曲に合わせて選んだ三種類のコスチュームもとても良かった。

短いが多彩で、いかにもこの人ならではの演目、もちろんたっぷりと楽しませいただいた。ついでに、この目立つチラシだが、現代美術家桑野 進のデザイン。彼女自身がこの直線、曲線、円、楕円、ギザギザ線などを自由に組み合わせて描く独特の画風に惹かれて、直接画家本人に制作を依頼したというから、やはり彼女らしい。

#11 (文中敬称略)

「湯を沸かすほどの熱い愛」

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今年初めて見る邦画は、これになった。作品の評価もさることながら、出演者、特に女優陣の質の高さが評価されているのも見たくなった理由の一つ。

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亭主(オダギリ・ジョー)が蒸発したため休業に追い込まれた「幸の湯」、今や大黒柱になってしまった双葉(宮沢りえ)は店員のバイトで一家を支え、実際は血の繋がりのない一人娘の安澄(杉咲 花)は、高校でいじめに遭う日々という設定。

突然末期癌で余命3ヶ月と告げられた双葉は、残された日々をどう輝かせるかに必至となる。手始めに探偵を使って亭主を連れ戻すことにまずは成功。どういうわけか鮎子という幼子が一緒だ。これまたワケありの子供が一家に加わる。血の繋がっていない者同士が、際どいところで結び合せられているのは、双葉の持つ強靭な意思の力に負うところが大きい。

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ラストシーンは、双葉の葬儀が「幸の湯」の広い浴槽を使って行われるところ。ちょっと変わった光景だが、この作品にはいかにもふさわしい。そのあと、皆で湯船に浸かり、双葉を偲ぶというところで終わるのだが、その先がいささかどうかと思うような蛇足があり、そこだけが惜しい気がする。

女優陣が素晴らしかった。日本アカデミー賞の主演と助演女優賞を取ったのもむべなるかなだ。鮎子を演じた子役、伊東 蒼も末恐ろしい。松坂桃李の演じた役は、必要なかったな。何か取ってつけたようで、かなり作為的。

#12 画像はALLCINEMA on lineから

ミューザ川崎第4回友の会感謝のつどいは、ジャズ!

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4回目にして、初めてジャズを取り上げることに。佐山雅弘は、以前ミューザで聞いているが、今日は手の届くところで、たっぷり楽しませていただいた。

この企画、とってもオシャレだと思ったのは、正面のスクリーンにイラストレータ和田 誠の味わい深いジャスメン達のイラストを投影し、それを見ながら、佐山がさらっと演奏を始め、頃合いを見計らって、ジャズ歌手のキャロル山崎村上春樹の文章を読み上げるという趣向だ。佐山と村上春樹は、村上の無名時代からの知り合いだとか。

もちろん、途中からキャロル山崎も演奏に加わり、ジャズムードを一層盛り上げる。この方、恥ずかしながら、愚亭は知らなかった!上に書かれている略歴を見ても、これまでもたっぷりいい”仕事”をなさってきていることが窺い知れる。

プログラム最後の演目に、愚亭がもっとも好む演目の一つ、リー・モーガンサイドワインダーを弾いてくれたことがとりわけ嬉しかった。

アンコールには、場内からのリクエストに応える形で、ムーンリヴァー星に願いを(どちらも山崎のヴォーカル付き)

佐山はトークも実に巧みで、ごく自然に場内を和ませたり、笑わせたりする術を心得ているのはさすがだ。

そのあと、全員の記念撮影をホールのフォアイエで行い、2時間のイベントは終了。素晴らしい企画だった。今回は、希望者が多く、かなり高倍率の抽選となったと説明があった。

#10 文中敬称略

フレッシュ名曲コンサート@アプリコ大ホール

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毎年この時期になるとアプリコで開催されるシリーズで、今年は、若手5人によるベートーベンのPコン全曲を演奏するという、大変興味深い試み。

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いずれ劣らぬ力量をすでに備えた、将来を大いに嘱望される5人だが、やはり最後の5番を弾いた實川 風(かおる)が一頭地抜いている。しかも、風貌もすこぶる良い。大物になる予感漂うオーラがすでに出ている。おおらかで、しかも格段に美しい音色に酔いしれた。

#9

「たかが世界の終わり」

170301 Juste la fin du monde (まさに世界の終わり)加仏合作 99分 監督・脚本・製作:グザヴィエ・ドラン   ジャン=リュック・ラガルスの同名の戯曲の映画化

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かなり風変わりな作品。見終わって、???となるが、じわっと後味の良さが伝わってくるような感じかな。

次男ルイ(ガスパールウリエル)が、家を出てから12年。作家として一応の成功を収め、家に帰ってくる。待ち受けるのは、長男アントワーヌ(ヴァンサン・カッセル)、妹シュザンヌ(レア・セドゥー)、母親マルティーヌ(ナタリー・バイ)、長男の嫁カトリーヌ(マリオン・コティヤール)の4人。父親の姿はないし、説明もない。それにしても、何と豪華なキャスティングだろう!

大喜びのシュザンヌ、マルティーヌ、初対面でほのかな恥じらいを見せる兄嫁、カトリーヌ。これに対して、無表情のアントワーヌは、喜ぶどころか、初めから喧嘩腰で、訳がわからない。

映画は、終始家の中で展開していくが、それぞれの対象がクローズアップで映され続け、位置関係や、家の中の構造・有様がさっぱり分からないまま進行していく。しかも、突如として大音響のポップ風の音楽が流れ、かなり意表を突かれる。

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顔のアップでないシーンは中庭でのランチ風景のみ。ここでもアントワーヌと妹シュザンヌの激しい言い合いが続き、嫌気がさして一人二人とこの場から抜けていく。肝心のルイは何か言いたげなのだが、それを許さない空気が淀んでいて、切り出せない。

些細なことにいちいちケチをつけ、延々と激しい言葉を吐き続けるアントワーヌの心情は何なのか。一応成功しているらしいルイに嫉妬しているのか、12年もほっといて突如ご帰還が気に食わぬのか、その両方か。

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悩んだルイ、これからはもっと頻繁にみんなに会いにくるよ、と告げて、去っていく。実は不治の病に冒されているのだが、ここまで出かかって、結局その言葉を飲み込んでしまう。

確かにこれは戯曲だ。それも、作者ラガルスの実体験がベースになっているらしい。説明が徹底的に省かれ、言葉のやり取りから観衆は中身を読み解くしかない。聖書に登場する「放蕩息子の帰還」を意識して構成されたような気がしないでもない。しかし、父親不在だから、帰ってきた息子を許す役割はマルティーヌに振られているのだろうか。

会話に加わらず、おずおずとその場に同席しているカトリーヌだけが第三者的に俯瞰して会話の進行を見つめ、未来を予測しているように感じる。アントワーヌは長男としての自覚が強すぎて、ガミガミいい散らし、却って家族の結束を乱している。マルティーヌはルイはもちろんとしても、慈愛に満ちた目で全員を見ている。

結局、皆一人一人が何とか自分を保ちながら、必死で生きている、その微妙なバランスが、突如帰還して、何やらただならぬ気配のルイが加わったことで、”揺れ”初めたことに腹を立てたアントワーヌが、屁理屈をつけてルイを追い返してしまったのか。

色々考えさせる作品だ。監督のみカナダ人、それもまだ27歳というから驚く。これが5本目の監督作品。出演者は全員フランス人。ルイ以外の役名がすべてヌで終わっているのも何か暗示的だ。カメラワークが秀逸である。また、すごい量のセリフを物ともせず、役者は皆達者だ。

先日「マリアンヌ」で見たばかりのマリオン・コティヤールだが、ここでは一転、物静かで控えめな兄嫁を、ほぼメークなし(に見える)で演じていて、自分にはこうした役のコティヤールの方が好感が持てる。

ちなみに、英米系の映画批評家からは酷評され、仏系は大喝采を贈るなど、くっきりと評価が別れた。カンヌ映画祭では、グランプリに輝き、他に作品賞、主演男優賞ガスパールウリエル)、編集賞を獲得している。

#11 画像はIMdbから