ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「トレインスポッティング2」

170426 原題:T2 TRAINSPOTTING (監督のダニー・ボイルは、T2のタイトルへの使用許可を、ターミネーター2ジェームス・キャメロンから取ろうとしたとか。結局、取らずに済んだ。)

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21年前の前作を見ていないので、この作品、語る資格はないのだけど・・・、でも単独でも十分楽しめた。前作との絡みが頻繁に出てくるフラッシュバックで十分カバーされていたからかも知れない。

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前作で、散々一緒に悪さをしたワルガキども、すっかり大人になっているのに、中身は昔のままで、そこがまたいいのだ。スコットランドの雰囲気にすっかり溶け込み、素晴らしい味わいを醸成している。

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⬆︎たまたまトイレで隣り合わせになったレントンとベグビー、ふとしたことで相手に気づき、この後、追いつ追われつの展開に

主要キャストは、ジョニー・リー・ミラーイングランド出身)を除き、スコットランド出身。(ちなみにジョニー・リー・ミラーアンジェリーナ・ジョリーの元ダンナ。)

当然会話は全てコテコテのゲール語風スコッチで、耳にはかなり難解。最近すっかりハリウッドスターの仲間入りしているユアン・マクレガー、久しぶりに故郷に錦を飾った格好で、のびのび演技しているように見える。

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⬆︎夢の世界で、このまま高層ビルの屋上から落下していくスパッド。

あれから20年、仲間を裏切り大金持ち逃げのレントン(マクレガー)が逃亡先のオランダから故郷に戻ると、母親は既に亡く、老いた父との再会を果たす。一人だけ年の離れたリーダー格のベグビーは今も服役中だが、脱獄に成功、レントン復讐に燃えている。シック・ボーイ、サイモンはプールバーを経営しているが、裏で怪しげなビジネスを展開中、ジャンキーのスパッド、妻子に愛想を尽かされ、高層アパート最上階で孤独に生きている。

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⬆︎自分が知っているロバート・カーライルとは別人のような演技を見せた。あの凄みを彼のような、むしろ弱虫の印象の俳優が出すとは驚きだ。

孤独、哀愁、友情、裏切り、悲しみ、欲望・・・寒々としたエディンバラの街並みにそうした感情が渦巻きながら、彼らは、しぶとく儚く生きている。スタイリッシュな映像、奇抜なカメラアングル、そして耳をつんざくロックのリズム、なんともシュールな作品を作り上げたダニー・ボイルは凄い!!

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⬆︎共演のケリー・マクドナルとユアン・マクレガー

#21 画像はIMDbから。

「バーニング・オーシャン」

170424 原題:DEEPWATER HORIZON (深海の地平線?オイル・リグの名前)米 107分 監督:ピーター・バーグ 製作には主演のマーク・ウォルバーグも加わっている。

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好きなジャンルの一つ、いわゆる災害もの。今からちょうど7年前の四月に実際にメキシコ湾で発生した原油流出事故を扱った作品。11名の犠牲者を出した事故がどのようにして起きたか、克明に追い、迫真の驚愕映像と音響に圧倒される。

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雇用主であるBP側と実動部隊との間の軋轢と不信感が生んだ、これはまさに人災である。効率だけを追い求める雇用者側、安全面を最優先する現場部隊、どこにでもある構図だ。タイタニック号の悲劇もこうした起きたことを思い出す。最近でも韓国のセウォル号も同様だろう。

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⬆︎なんとか脱出できた作業員たち。甲板上で点呼が取られる。11名から返事がない。この後、跪き、賛美歌を歌い、神に祈るシーンは感動的だ!

結局、自然を軽視した結果、恐ろしいしっぺ返しを食らうことに、渦中の人間たちは気づこうとしないから、何度でも繰り返されると言っていいだろう。

主演のマーク・ウォルバーグ(「パーフェクト・ストーム」、「ザ・シューター/極大射程」)や、カート・ラッセル(「バック・ドラフト」、「ポセイドン」)は、こうしたディザスター者にはうってつけの俳優だ。

当然C.G.も使われているのだろうが、どのように撮影したか不思議なほど見事な映像作りだ。

ちなみに、この邦題は上手い!

#20 画像はIMDbとALLCINEMA on lineから

「草間彌生 - わが永遠の魂」@国立新美術館

170420 当美術館開館10周年の企画展

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初めて草間彌生の作品に出会ったのは、2005年に直島へ行き、フェリーの船着き場に設置された例の黄色いかぼちゃのオブジェを見た時である。現在88歳だが、依然意欲的に制作活動を行なっていることは、しばしばテレビでも取り上げられ、周知の事実。

今回、開館10周年の節目の年の彼女の作品展を開催することの意義は小さくない。

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国立新美術館チケット売り場付近の混雑。木々に草間のシンボル、水玉が巻かれている。アルフォンス・ミュシャ展も開催されているから、無理からぬ行列だ。

行列と言えば、出口付近にも長い列が見られたが、なんとこれは草間グッズを買い求めた人たちがレジに並ぶ姿と判明。滅多にない光景だ!

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大部屋に所狭しと展示されている水玉作品とオブジェ。ここは撮影自由。

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よくまあここまでと呆れるほどの水玉模様の群。これらの作品は、いわゆる工房での制作で、彼女が全体の構図や色を決めて、弟子たちがひたすら水玉を描いて完成させたらしい。

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こういう極彩色のオブジェを見ていると、ニキ・ドゥ・サンファルの作品にも共通しているように思えてくる。

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例のかぼちゃが屋外に展示されている。正面はミッドタウン。

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⬇︎初期の作品

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⬇︎ニューヨーク時代の作品

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⬇︎体調を崩して日本に帰国したのが1973年で、その後の東京での作品。

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若き日にニューヨーク行きを決めたのは、大英断、大正解で、こうした一見奇天烈な作品は、日本にいては理解されなかったろう。

水玉作品は食傷気味で、自分には初期と、1970年代の作品の方により興味が向いた。

画像は、一部国立新美術館のHPからお借りした。それにしても、90歳近いというのに、飽くなき制作欲には脱帽である。底知れぬパッションとエネルギーを感じる。

ブリューゲル「バベルの塔」展

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例によって、高齢者無料日の有効活用で、上野へ。前評判上々の展覧会だから、混雑を予想し、30分待ちを覚悟で、本まで持って行ったが、拍子抜けするほど、待ち時間ゼロで入館!!尤も、今回は超目玉のブリューゲルの「バベル」を除けば、あとはヒエロニムス・ボスの小ぶりの作品が数点程度で、それほど高齢者を惹きつけるほどの作品がなかったことによるのかも知れない。

ブリューゲルのバベルは、現存するものでは、ロッテルダムにあるボイマンス美術館所蔵の本作と、もう一点はウィーンの美術史美術館所蔵のものがある。下図のようにかなり図柄が異なる。

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実物は60 x 75cmと、思っていたほど大きなものではなかった。その中に、驚くほど細密な描写が含まれており、大変凝った展示の仕方で、細部がよく理解でした。この絵を展示してある2階に上がると、なんと40倍に引き伸ばし、これを湾曲したボードに貼り付けて展示。さらに、解像度の極めて高い写真技術で3倍のレプリカを展示してくれ、さらには、3D映像で、克明に紹介してくれるなど、この辺り、学芸員の苦労が偲ばれる。

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暗喩に富んだ作品。ボスらしい奇妙奇天烈なものが細々と描きこまれている。

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なお、本展では、ブリューゲル1世というふうに表記されているが、これまで一般にはブリューゲル(父)とか(老)と表記されていた。ピーテル・ブリューゲルには二人の男の子がいて、長男が父と同じピーテル、次男がヤンで、どちらも画家となるが、長男が5歳、次男が1歳の時に父親が没しているので、父から直接手ほどきを受けたわけではないのははっきりしている。

さらに、次男ヤンの子供もヤンと称し、同じく画家となっているため、まことに紛らわしいことに。

「午後8時の訪問者」

170418  原題:LA FILLE INCONNUE(見知らぬ少女)仏・ベルギー合作 106分 製作・脚本・監督:ダルデンヌ兄弟

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サスペンスの趣もあるが、むしろ社会派ドラマ。診療所勤務のジェニー(アデル・エネル)は、若い研修生ジュリアンを指導中、ドアベルを聞く。診療時間を1時間も過ぎており、また自分もそのあとの予定が入っていることもあり、応対に出ようとするジュリアンを制止する。

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翌日、付近で黒人少女の遺体が発見される。ドアベルを鳴らしたのがこの少女だったことがやがて判明する。もしあの時、ドアを開けていれば、彼女は殺されなくてすんだのではないか。人の命を救う医者でありながら、死へ追いやったことで、深い自責の念にかられるジェニー。

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なぜ、どうやって彼女は死んだのか、一体何者なのか、独自に調べ始めると、自分の患者の一人との接点が見えてくる。調査を中止しろと恫喝され、得体の知らないバックグランドが見え隠れする。

舞台がベルギーのリエージュという小都市であり、移民問題が絡まった社会派ドラマということになれば、やや日本人には訴求力が弱いかも知れないが、ダルデンヌ兄弟が撮った同じく社会派ドラマ「サンドラの週末」に共通する味わい深い作品になっている。

この邦題は見事だ。見知らぬ少女より、よほどインパクトがあると思う。主演のアデル・エネル、愛想がなく、ほとんど無表情なのが、本作の地味な展開にぴったり。

兄弟は、もともと本作の主役にはマリオン・コティヤールを充てたかったらしいが、スケジュールが合わず、代わりに「サンドラの週末」をコティヤールで撮ったとか。

最後は、ちょっと呆気ないと思ったが、これこそがこの兄弟の持ち味なのだろうと思い、納得。エンドロールが淡々と流れる間、診療所前の通りを走る車の音だけ。

#9 画像はIMdb及びALLCINEMA on lineから