ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

上野 de クラシック@東京文化会館小ホール 嘉目真木子X富岡明子ドゥオコンサート

170606 副題に「東京音楽コンクール入賞者によるクラシックコンサート」とある。もともとそういう趣旨だったこと、気づかなかった。確か、このシリーズ、モーニングコンサートと称してワンコイン(@500)で過去催していたのを、模様替えしたようだ。その初回が今日のコンサートと、幕開けの嘉目さんのトークで知った次第。

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午前中というハンディを背負っての演唱は、さぞ気疲れしたことだろうとお察しする。何しろ当代人気上昇中のお二人のドゥオだから、開演と開場を間違えて会場に到着したら、文字通りうねうねと長蛇の列が何重にも蛇行していて、これは初めて見る光景だ。

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演目はドイツもの、イタリアもの、フランスもののオペラ、日本の歌を巧みに組み入れた有名な二重唱ばかり。一般聴衆を飽きさせない工夫が随所に。マスカーニの有名な間奏曲を二重唱に編曲された楽曲があるのは知らなかった。これは、主旋律をメゾが歌い、ソプラノが軽く上を付けるという曲風で、初めて聞いたが、しっとりとして素敵なエンディングであった。アンコール曲は、アンドリュー・ロイド=ウェバーのピエ・イェズ。

嘉目真木子のトークが冴えていたことは、最近行ったシャネル・ピグマリオンデイズのリサイタルでも証明されたが、今日も巧みに先輩である富岡明子を立てながら、少し遠慮がちに、それでも立派にリードしたのはさすがである。

それにしても、両者とも上の略歴でも明らかなように、まことに輝かしい道を歩んできているようだし、今後も是非とも活躍してほしい逸材である。

終演後、楽屋からお出ましになった3人を、最初は遠慮がちに遠巻きにしていたのだが、徐々に接近していく様子を見ていたけど、ほとんど人気映画スター並みの扱いで、ご本人達も驚いたのではないかな。

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まるで撮影会のようだが、これは最近スマホ利用者が増えたこと、高齢者でも簡単に撮影できるようになったことも一因ではないかとは、嘉目真木子自身の分析。なるほど!それにしても延々続く”撮影会”に、嫌な顔一つせず、最後までしっかりまなこを開けて、にこやかに対応していたの立派だ。

#23 (文中敬称略)

「リゴレット」@牛込箪笥町ホール

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NPO法人オペラ普及団体であるミャゴラトー(ニャーニャー鳴く猫、転じて調子外れで歌う人の意も)主催の「小劇場演劇的オペラ」シリーズ第4弾。ちなみに、第1弾は2014年、ザ・高円寺での「ラ・ボエーム」。2回目からは会場を牛込箪笥町ホールに移している。

演出:岩田達宗 X 指揮:柴田真郁が創り出す小宇宙に一度でも浸るとほぼ中毒症状、必ず次も行きたくなるシリーズだ。

舞台にはピアノがポツンと置いてあるだけ。本来客席となる平土間の前方1/3を実際の舞台にし、さらに客席の最上部や通路もすべて利用して繰り広げる手法には、観客聴衆もオペラの中に巻き込む意図が込められいる。マエストロは、ピアニストの横にいて指揮をするが、状況次第で舞台に降りてきたり、客席内の通路にまで移動しながら指揮をすると言う独特なスタイル。

冒頭、闇の中で、四方から男が椅子を持って登場し、中央に椅子を並べると、今度は四方八方からワラワラと黒い影が現れ、歌い始めると言う、相変わらず人を食った序奏だ。端役や合唱隊に、よくぞこうした一癖も二癖もありそうな容貌の芸達者な歌手を揃えるものと感心させられる。

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リゴレット須藤慎吾は、見るたびに聞くたびに凄さを増している。「悪魔め、鬼め!」は圧巻!ジルダの國光ともこは初めて聞いたが、太く通る声が魅力的。1幕後半で歌われる有名なアリア「慕わしき御名」は最高の出来栄え。

マントヴァ公爵のテラッチこと寺田宗永は、第1回のロドルフォの時も感心したが、今日の出来も、頗る上々で、「あれかこれか」、「女心の歌」、そして難関の4幕の四重唱も、見事に歌いきった。途中、冷房の聞いた館内で、”水攻め”にされたり、バスタオルを腰に巻いただけで登場するなど、気の毒な場面も。

マッダレーナの向野由美子、スパレフチーレの大澤恒夫、モンテローネの薮内俊哉、いずれもたっぷり持ち味を発揮して好演。

特筆に値するのは、チェプラーノ夫人の大沼 徹とジョヴァンナの青栁素晴!どうやるのかと思っていたら、女装して音域を下げて歌うだけのことなのだが、もう登場するだけで笑いを誘った。大沼はやや開き直った演技、青栁はあくまでも可愛らしさを前面に、と言う印象。一つ一つの仕草がこの上なく、可愛らしかった。しかも、この二人、カーテンコールでは、端役のくせに、ちゃっかりとジルダやマッダレーナに続いて退場すると言うおまけ付き。

それにしても、タイトルロールを堂々と張れる大沼や青栁をこんな風に使うとは、なんともはや贅沢なプロダクションだ。

最後に忘れてはいけないのが伴奏ピアノの浅野菜生子、掛け値なしで日本では、最高の折り紙つきオペラ伴奏ピアニストの一人。この長いオペラを、しかも暗い時間の多い舞台で、マエストロが見えたり見えなかったりする中、よくぞ弾ききったものと感嘆あるのみ。

#22 (文中敬称略)

読響Xアプリコ「名作オペラと幻想交響曲」@アプリコ大ホール

170603 今更ながら、こんな素敵なコンサートが近所のホールで、しかも安く聴けるのは、幸せなことだ。

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エストロ現田茂夫は久しぶりに聞いたが、まったくもってブラヴィッシモだ。尤も、ちょっと太って、しかもヘアスタイルを変えたので、一見工員風なところが、おかしかった。

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森麻季は、どちらかと言えば、好きになれないオペラ歌手の一人だが、うまさにはさすがと思わせるものが。

 

「宝石の歌」、「私のお父さん」、どちらも低音から一気に高音部に箇所では、高音は張り上げず、敢えて抑えた発声、それも美しく澄んだもので、これには参りました!

 

甲斐栄次郎は、定評通り、抜群の歌唱力で、会場を沸かせた。アンコールはベルリオーズのラコツキー・マーチ。隣の婆さん、どうやらラデツキー・マーチと勘違いらしく、嬉しそうに拍手をしようと待ち構えていたが、しばらくして間違いに気づいたか、そっと手を下ろした。

 

#21

 

「ゴールド/金塊の行方」

170602 原題は、単にGOLD。監督:スティーブン・ギャガン(脚本家で、監督としては、3本目)、その他、製作者5人の中に、主演のマシュー・マコノヒーの名前、また製作総指揮者8人の筆頭にポール・ハギスが。

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実話を基にしてできた作品。1988年からスタート、鉱山ビジネスで成功した親父の跡を継ぐことになった主人公ケニー(マシュー・マコノヒー)、7年間で、ほぼ親父が残したものを食いつぶし、話は、一気に7年後に飛ぶ。

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一度手にした富は忘れがたく、ネアカのケニーは落ち込むどころか、一攫千金を夢見て過ごすうちに、運命の出会いが。特殊な(怪しげな?)理論を振りかざし、金鉱山を見つけ出すと豪語するマイケル・アコスタ(エドガー・ラミレス)に賭けることして、残り少ない財産と、投資家から集めた(まだ彼の会社のブランド価値が残っていたらしい)全額をつぎ込む。

来る日も来る日も熱帯のジャングルで採掘の陣頭指揮をする二人、ついにはマラリアにかかり生死の境目を。目覚めた時に、マイケルからついにやったとの大朗報が待っている。奇跡の大逆転、彼の会社の株は一転してうなぎのぼり。

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ま、こんなうまい話には何かある。だいたい、金が出たという話ばかり先行で、具体的な場面を見せないから、観客が訝しく思うのも当然。案の定、この話にはウラもウラがあったのだ。マイケルが仕掛けた罠に誰もがまんまと引っかかった。

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結局、文無しに戻り、投資家に大きな損害を与えたとして、FBIから追及されるものの、ケニーも何も知らず、被害者の一人という扱いで、放免されるが・・・・。これで終わらないのが、この作品の面白さ。鮮やかなどんでん返しが。でも、実話に基づくって、どこまでが実際に起きたことなのか、映画は語らない。

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本作の見どころの一つはマシュー・マコノヒーの変身ぶり。前頭部は禿げ上がり、腹はでっぷりと突き出し、見るからにだらしない姿。そんな格好ですっぽんぽんになったり、履き古したブリーフ姿にはファンもびっくりだろう。本作のために23kgも体重を増やし、頭頂部も剃り落とし、さらに特殊な入れ歯まではめて、まるで別人のようであったが、アカデミー主演男優賞を取った「ダラス・バイヤーズクラブ」では、逆に25kgも落として激ヤセしていた。

この映画のために、ひたすらチーズバーガーを頬張り、ビールを飲み続けた結果だそうだが、そこまでやるハリウッド・スターは、やはりすごい。クランクアップと同時に断食・断酒を決行して、上の写真ではほぼ元の姿に戻しているから、驚くばかりだ。

#31 画像は、IMDb及びALLCINEMA on lineから

「アムール 愛の法廷」

170601 原題:L'HERMINE (白貂)仏 98分 脚・監:クリスチャン・ヴァンサン(「大統領の料理人」2012)

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今は裁判長をしている、厳格・冷徹で知られるミシェル(ファブリス・ルキーニ)、乳幼児殺害事件の公判中に陪審員に顔見知りの女性がいるのに気づく。何年か前、入院中の担当医、ディット(シセ・バヴェット・クヌッセン)であることを思い出す。休憩時間に、早速メールで、その日の公判終了後、近くのカフェで会いたいと連絡。

実はミシェル、妻とはこのところうまく行っておらず、周囲にも心を閉ざした接し方しかできない。

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⬆︎この不思議な原題だが、どうやら裁判長のこの派手なコスチュームのことらしい。そう言えば、肩周りの帯状のものは白貂のようにも見える。法衣は一般的にはどの国でも黒が基調だが、これは珍しい。

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「あら、あの裁判長、どっかで見たかしら?」

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入院中、彼の手を握ってくれたのを忘れられずにいたのだが、どの患者にも励ますためにそうしていてたと彼女からあっさり告げられてしまう。(つまり、ミシェルの勘違い?)それでも、自分の彼女に対する思いを伝えようとするミシェル。その一途さに次第に心を開くディット。

彼女との再会がミシェルの心に微妙な影響を与え、それまで冷酷な判決を下すことで知られていたミシェルが、最後には乳幼児殺害の主犯と見られた父親に一転、無罪判決を下してしまう。

ディットには夫と高校生の娘がいて、到底二人の仲が進展するとは見えないのだが、そのことは大した問題ではないと言わんばかりの終わり方には違和感があるし、ミシェルの心理描写をもう少し掘り下げてくれないと、ご都合主義的な印象を持ってしまい、物足りなさを感じた。

フランスの裁判の様子や陪審制度が描かれていて、なかなか興味深かった。それと、今更だが、フランス語は、法廷用語にはうってつけの言語のような気がする。Ce qui n'est pas claire n'est pas français(明快ならざるもの、フランス語にあらず)と言われるように、ミシェルが最後に下す判決を聞いていると、まさしくそう思えてくる。

この邦題、いささかとってつけたようではあるけど、この原題はそのまま訳しようがないし、やはり邦題の方がいいように思える。

#30 画像はIMDb、およびALLCINEMA on lineから