ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

結構楽しめた林 美智子の『フィガロ』!@第一生命ホール

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このチラシを見てすぐ予約したが、それほど魅力満載企画だ。だいたい、これだけのキャスティングはそもそも望めないし、いかにも楽しそうなチラシではないか。林 美智子が日本語台詞・台本・演出・出演とひとりで四役をこなすほどの才人とは、まさか信じられなかった。あくまでも当方の情報不足という意味ではあるが。

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「全アリアカット重唱版」としてあるのがまず面白い。一応原語上演だから、正面のスクリーンにデカデカと字幕が表示されるのだが、これが大変見やすく読みやすい。フォントもおしゃれだし、言うことなし。開幕するやいなや、もうそれだけでワクワクしてくる。

今回、前から5列目という位置で、舞台を見るには申し分ないのだが、ホール中央部での演唱が結構あり、これを知っていたら、後部座席を予約したのに、惜しいことをした。後ろを振り返るのも、一瞬ならいいのだが、ながながは無理。仕方ないので、聴くことに集中するしかない。

出演陣の豪華なことは、改めて触れないが、ほぼ全員、なんども拝見・拝聴している歌手ばかりだが、新たに感じたのは、

澤畑恵美の気品溢れる伯爵夫人には参った。気品というのはこの人のためにある言葉かと思ったほど、それはそれは素敵な歌唱、表情、仕草。なんども演じているからごく自然にできる技なのだ。

・スザンナの鵜木絵里のおかしさはどうだ!よく回る大きな目で、表情豊かに演技するのだが、その一つ一つがおかしくておかしくて。

・おかしさで負けていなかったが晴 雅彦! え、ナニ、この人?!お笑いじゃないの?と思わせるほど絶妙なタイミングで会場を終始沸かせた。ただものじゃない!

・この中では端役に近いかもしれないベテラン、池田直樹、あいかわらずの芸達者ぶりと話術の巧みさには脱帽!

・ピアノの河原忠之御大が終幕で演技に加わり、晴と絡みがあるのだが、これはまさに抱腹絶倒芸。参りました!(その間、何食わぬ顔で譜めくりに徹していた石井里乃がすかさず御大の後を引き受けて立派に弾ききった)

・人気絶頂の加耒 徹、童顔ゆえ伯爵としての威厳などはみじんもなく、いささか浮いた形になったかも知れないが、なにしろ天下一の歌唱力で、存分に会場を魅了していた。

林 美智子は言うに及ばず、黒田 博望月哲也竹本節子とベテラン勢が持ち味を存分に発揮して舞台を盛り上げていた。繰り返すが実に超贅沢な布陣だ。

終演後、撮影タイムを設けてくれたのは実に嬉しいサービスである。粋な配慮には感謝だ。

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#19 文中敬称略

 

 

この時期に「復活」を歌える喜び!

180320 開花はしたものの、一気に気温の下がったこの日、文京区関口町にあるカトリック関口教会(通称、東京カテドラル聖マリア大聖堂)で、マーラー交響曲2番「復活」、そしてアンコールとしてヘンデルの「ハレルヤ・コーラス」を合唱団の一員として歌った。

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まさか3週間後に2度目の「復活」はまさに想定外。ただ、今回は合唱団は寄せ集めの混成舞台で、全体練習の回数も少なく、まとまりを欠いたのは否めない。やはり2月末、トリフォニーで歌った時とはいろんな意味で訳が違った。

大聖堂で復活祭の時期に「復活」をクリスチャンでもない者が歌えるのは、申し訳ないと同時に晴れがましい気も。無料のコンサートで、入場者には確かワンコインの寄付をお願いした筈だ。

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集合時間の2時半に聖堂に入ると、すでにオケが練習を始めていた。まずは音の響に圧倒された。

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ちょうどバンダ⬆︎(別働隊、今回は入口の上にあるパイプオルガンの両脇)がホルンを吹き始めたのだが、それがとてつもなく高い天井に広がり、実になんとも荘厳な雰囲気。こんなところで、歌えるとは、とすでにワクワク感が自分の中に充溢。

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⬆︎自分の立ち位置から眺め(練習時)

オケの練習、とりわけ難関箇所、われわれ合唱が歌い始める前のバンダのトランペット、オケのフルートとピッコロが絡み合うシークェンスが、どうしてもマエストロが考えているのとは微妙にずれるので、確か6テイクぐらいはやっていて、そのため、合唱団はひたすら祭壇側の階段で待ち続けることに。強引に座り込む団員も半分以上いたようだが、前後左右、立錐の余地のないほどで、けっきょく延々立ちっぱなしとなり、足の位置も動かせないほど。これが今回、もっとも苦痛だった。

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5時半から聴衆の入場開始、6時開演。われわれは控え室で待機。2楽章が終わってから最後列から順に入場。演奏する側、聞く側が近く、すごい一体感を感じる。自分の立ち位置はちょうどマエストロとその後方上部にあるパイプオルガンを見る絶好のポジション。

事前に決めてあった楽譜を開く瞬間が刻々と近づく。そして銅鑼が鳴って一斉に楽譜を開くのだが、前に団員が邪魔で開けない。前回は暗譜で歌ったのに、今回はそこまで歌いこんでないという理由で全員が譜持ちとなったが、皮肉なものだ。

アンコールのハレルヤ・コーラスも含めて、なんとなく消化不良のまま、あっけなく終わってしまった。たくさんの拍手とブラーヴォももらったし、なによりこんな由緒ある会堂で歌えたことはなにものにも代え難い経験だ。

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合唱部分は僅か8分弱と、12分の第九よりも短いとは言え、「復活」の合唱の方がはるかに難しいと感じた。理由は緩急強弱が激しいことだ。フェルマータの箇所も難物で、指揮者次第、また練習時と本番でも微妙に変わるから、楽譜を見ていては絶対に合わせられない。終曲部は至難中の至難な箇所で、第九で言えば、最後のゲーッテルフンケンに入る直前のような感じかな。いや、やはりちょっと違うか・・・。

ところで、この大聖堂は建築的にも大変貴重なもので、それは以前から知っていたのだが、なんと遠くから眺めたことはあっても(椿山荘の前だから)、内部に入ったのは今回が初めてで、これまた大変貴重な機会となった。

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1964年(東京オリンピックの年)の12月に、コンペで最終的に丹下健三プランが採用されて完成。1967年には吉田茂の葬儀がここで行われたことは前にも書いた通り。

今回の演奏会、チケットは予算の関係から作成されていない。すべてヴォランティアである。

「ロッシーニ<音楽の夜会>」@日本橋三井タワーアトリウム

180319 無料のミニコンサートへ。

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たまたま出演者のツイッターで知った演奏会。伴奏者まで入れて、ほぼ全員知っている方々ばかり、しかもありがたいことに無料なので、夕方から雨の予報の中、日本橋まで出かけた。

この三井タワーのアトリウムでの演奏会は初めてだが、まあまあどこも似たような感じで天井がやたらに高く、そりゃもう音響のことは構ってられない。そんな悪環境では、むしろメゾやバリトンの声の方がよく響くことが分かった。高音だけ上へ抜けていってしまうようだ。

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今日はロッシーニ特集で、いくつかは耳馴染みの曲。冒頭の東中千佳の「約束」(PROMESSA)と土崎 譲が歌った「踊り」(LA DANZA)は特に知られた曲。その中でもとりわけ長谷川 忍が歌った「饗宴」(L'ORGIA)が素晴らしかった。もうなんども歌っていて、すっかり自分のものにしていると思ってたら、後でご本人曰く「すべて今回初めて歌った」!いやはやプロってホント凄い!と尊敬の念、改めて。

バリトンの曲は、初めて聞くものばかりだったが、名手与那城 敬が時に優しく、時に格調高く、持ち味を出し切って歌ってくれ、深く心に響いた。

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舞台裏で赤星裕子(ピアノ)と与那城 敬バリトン

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長谷川 忍メゾソプラノ)に図々しくツーショットをお願いした。

#18 文中敬称略

「ハッピーエンド」

180319 HAPPY END 108分 仏・独・墺合作 脚本・監督:ミヒャエル・ハネケ

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上はラストシーン付近の映像だが、画面がスマホ仕様になっている点に注意。つまり、誰かが、ここを撮影しているということだ。冒頭も、やはり縦長のスマホ動画でバスルームで寝支度の女性の姿を執拗に後ろから捉えているシーンがまずあって、それからタイトルが入るという懲りよう。

というわけで、スマホや、この子の父親のトマが不倫相手とこっそり卑猥な言葉でメールのやりとりしているのを知ってしまうという具合にSNSが重要な役割を果たしている。

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ちなみに孫のエヴが操作しているのはiPhone 7かな。そして・・・

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ハネケの作品だから、冒頭から相当構えて見ていないと分からなくなる。そうしていても、「はて、さっきのあのシーンは何を指していたんだろう」と見ている間も頻繁に???が。

現代で、舞台はカレーというところも抑えどころ。ここは中東難民が英国行きをスタンバイするところとして、一時注目を浴びた北フランスの海辺の町で、郊外には難民キャンプがある。当然、市内にも難民の姿が多数目撃される。

一家は地域では成功している部類のブルジョワで、創業者である家長、ジョルジュは85歳(演じるジャン=ルイ・トランティニャンは現在87歳。映画からも引退していたのだが、ハネケが撮るというので、出演を快諾したらしい。)で、とっくに引退し、実権は娘、アンヌ(イザベル・ユペール、彼女、ハネケとは3度目のコラボ)に移っている。これがなかなかのやりてなのだが、後継者になるはずの息子、ピエールにはまるで経営者としての才覚が欠けている。これが一家の目下の悩みの一つ。

加えて、アンヌの弟、トマ(マチュー・カソヴィッツ)も問題を抱えている。別れた前妻との間の一人娘、エヴ(ファンティーヌ・アルデュアン、この子がうまい!)が一緒に住むことになり、深刻な問題が持ち上がる。

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まあ、いわば仮面一家、表面的には装っているが一皮むけば、なんとドロドロの世界が広がっていることか、しかも互いにまったく相手を気遣うことどころか、まるで無関心であることをハネケは独特の映像構成で観客に訴える。

前作の「愛、アムール」(2012)(トランティニャン、ユペール共演)とちょっと共通する側面を持つのは、人間の生き方の問題より死生観かな。老醜をさらけ出しながら生き続ける辛さをどうして回避するかしか頭にない家長、ジョルジュをすっかり面変わりしたトランティニャンが好演。(それにしても、「男と女」、「暗殺の森」などのさっそうとした姿を知っている者には、ちょっと辛い!)⬇︎

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さらに2005年の「隠された記憶」でもただあるシーンを遠くから長回しで捉え、「さあて、分かるかな」とでも言うように、観客を試すような手法が、本作でも使われている。要注意だ。

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撮影風景、中央は監督のハネケ(75歳)。孫が着用しているTシャツには I❤️JAPANとある。ま、意味ないか。でも、気になった。

原題も邦題も同じだが、ハッピーエンドとはここでは逆説的に使用されているんだろう。誰にとっても、アンハッピー・エンドだ。

#23 画像はALLCINEMA on lineから。

 

大成功!歌劇「ノルマ」(演奏会形式)@オーチャードホール

180317

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 今回も選択が悩ましい両組のキャスティングだが、日程の都合で大村組にした。大村博美のうまさは定評があり、今更のコメント不要。大柄だし見栄えもするから、このような役にはまさにぴったり。大村の歌唱の素晴らしさは、第1幕第1場での「清らかな女神」で存分に示された。

今回、小泉詠子にもブラヴィッシマだ。メゾの領域を軽く超える高音を楽にだしてしまい、「待てよ、この人、ソプラノだったっけ?」と思わずプログラムを見直すほど。そして声質の相性も大村とはぴったりで、第2幕第1場での有名な二重唱にはぞくっとした。

最近、サントリーホールでのコバケンが振るヴェルレクで歌うはずだった妻屋秀和、体調不良で降板、急遽呼び出された青山 貴が普段着で登場し、見事に歌いきって大喝采を浴びたが、今日は絶好調かどうかは別にして、いつもの迫力ある声を存分に浴びてきた。

そして、城 宏憲である。いやぁ、やはり何度聞いても(見ても)すばらしいテノールだ。役によってはその端正な姿と輝かしい発声が却って邪魔になることもあるだろうが、ポリオーネはまさにぴったりのはまり役。

このポリオーネ、ガリア駐留の若きローマの総督で、うまく任期をまっとうすれば、ローマに凱旋することになっていたんだろう。それがスキャンダラスな女性問題を引き起こすという、ある意味、だらしなさをさらけ出す。しかも、最後はノルマが自分自身こそ裏切り者と告白し、毅然と火刑台へ向かうというのに、自分はさっさとアダルジーサとヨリを戻してローマに向かうのだろうか、ちょっとそこは許せないね。

今回は演奏会形式とは言え、オケ、マエストロ、合唱団、ソリスト、会場、etc. すべて一流だから、素晴らしい演奏会にならないはずがない。舞台に背景や装置はもちろんないのだが、背景にどこかヨーロッパの田園風景を思わせる映像が映されていたが、これはなかなか効果を上げていたと思う。この会場は舞台の高さがあるので、一層効果的。

女性陣はそれなりのコスチュームを着用していて、ノルマはなんと4着もとっかえひっかえ!純白→ミッドナイトブルー→黒→ダークブラウンと目まぐるしい。これに引き換え男性陣はタキシードだけとうのがねぇ。古代ローマの衣装を、とまでは言えないが、なにか一工夫できないものか。

動きはそれなりに効果を発揮していたと思う。最初、オケと合唱団の間の空間の山台でソリスト陣が歌うのだが、頃合いを見計らって、舞台前面へ降りてきて演唱する場面も。この切り替えはよかった。

合唱団は二期会合唱団で、ソリストとして活躍している歌手もちらほら散見されるほどのプロで構成されているから、うまくないはずがない。ただ、1幕では、オケより遅れが目立つところがあったのが惜しまれる。それほど練習期間がなかったんだろうが、楽譜を見ている時間が長く、マエストロの棒に神経が行かなかったのかも。

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このマエストロ、風貌だけ見ていると、分からないが、まだ46歳という若さ!それでも、これだけのキャリアを積んでいるから大したもの。終演後、ブラーヴォと歓声が飛び交う中で「ハゲ〜!」という声も聞こえ、本人には分からないと思うけど、なんか気の毒な気がした。(周辺の笑いは取っていたが)

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今日のチケットには7列目との表記だったが、オケピットを閉じて1~5列目まで舞台を広げているから、実際には前から2列目で近い!その分、両脇の字幕を見るのが大変だったし、奥に陣取る合唱団があまり見えなかったのが残念。

#17 文中敬称略