ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ヒトラーと戦った22日間」

180921 SOBIBOR 118分 露・独・リトアニアポーランド合作 監督・主演:コンスタンチン・ハベンスキーサンクトペテルブルク生まれのロシア人、46歳、俳優で、本作が初の監督作品)

f:id:grappatei:20180922112134j:plain

あの時代のこの手の話には詳しい方だと思っていたが・・・この原題、SOBIBORがアウシュビッツ同様の絶滅収容所だということを初めて知った次第。また、これは生き延びた主人公の話を基に作られた作品だが、こうした収容所から脱出できた一群があったことも知らなかった。

ソビボールは、現在のポーランドの東端、ウクライナとの国境近くの寒村。映画は、ソビボール駅にユダヤ人が到着するところから始まる。「ようこそソビボールへ。新しい生活が待っています」と繰り返しドイツ語でアナウンスが流れ、ユダヤ人たちの結成する弦楽四重奏団が、なぜかヴェルディアイーダからの一節を演奏している。

f:id:grappatei:20180922112719j:plain

到着後、直ちに手に職のある者とない者が選別され、大半がガス室送りになる自らの運命を知る者は少ない。

収容所では、ユダヤ人によるサボタージュなど”事件”があるたびに、10人に一人の割で、あたかも家畜を屠殺するがごとく処分される、もはやそれは日常風景。

f:id:grappatei:20180922113742j:plain

ミンスクでの収容所脱出経験のあるサーシャがリーダーになり、脱走計画が進む。独軍の敗色が濃くなり、近くにある別の収容所が解体されたというニュースが入り、一刻の猶予もなく、ついに決行の日を迎える。

事前にサーシャ中心にして決められた手はずどおり、まずは将校たちを順番に巧みにおびき出しては、次々に銃器以外の斧、鉈、ナイフ、ハサミなどで殺害し、武器を手に入れる。そしてあとは一斉に走る、走る・・・(ロシア語のエンドロールで流れる字幕には、400人が脱走、100人が途中で死亡、150人が近隣住民の通報で捕まったと流れる。それでも150人が無事生還できたことはまさに奇跡的と言える)

f:id:grappatei:20180922113456p:plain

合作ではあるが、ロシア映画という位置付けらしく、2019年度のアカデミー外国映画部門にはロシアからの正式出品作品となった。言語は何カ国語で作られ、多国籍出演者はそれぞれの国の言葉で話して、あとでダビングしたとか。ちなみにクリストファー・ランバートはセリフはすべて英語だったとか。撮影はリトアニアの首都ビュリュヌス近郊。

この邦題はやや不出来。無論、ソビボールと原題のままにするわけには行かないだろうが、なんでもヒトラーを持ち出せば観客動員できると考えるとすれば、それは安易すぎないか。

 

#71 画像はIMDbから

「カール・ラーション スェーデンの暮らしを芸術に変えた画家」内覧会へ

180921 今月22日から12月24日まで損保ジャパン日本興亜美術館で開催される「カール・ラーション スェーデンの暮らしを芸術に変えた画家」展の内覧会に参加する機会を得た。昔、絵葉書でこの画家の作品に初めて触れて、その暖かい目線が強く印象に残っていた。その頃はLARSSONをラーションと発音することすら知らなかった。赤い素朴な木彫り馬⬇︎で知られているスェーデンのダーラナ地方出身。

f:id:grappatei:20180922093731j:plain

f:id:grappatei:20180921224909j:plain

f:id:grappatei:20180922094153j:plain

f:id:grappatei:20180922094343j:plain

4男4女に恵まれた。内、二人は早世しているが、現在子孫の数は相当なもんだろう。

f:id:grappatei:20180922094544j:plain

フランスの印象派の画家とほぼ同年代を生き、当然ながら印象派の影響を受けている。またジャポニズムの影響も色濃く作品に現れ、後に線描主体の画風に変化していくのが本展でもよく分かる。

19世紀の終わりに一時パリ近郊のグレ・シュル・ロワンで暮らしたことがあるとの記載がある。何年か前にここを訪れたことがあるが、日本から黒田清輝、浅井忠、和田三造、ほかが一時画業活躍した小さな村という知識しかなかったのだが、まさかラーションもここで制作に勤しんでいたとは!ただ、10年近く時代がずれていて、どうやらこうした日本人画家との出会いはなかったようだ。

f:id:grappatei:20180921224926j:plain

ブロガー対象の内覧会に出かけた。受付の後、ギャラリー・トーク開始までの間に、ざーっと会場内を一巡して、一部、主催者の特別な許可を得て、撮影できたのは幸いだった。

f:id:grappatei:20180921225838j:plain

しばらくしてギャラリー・トークがスタート。左から中部大学教授 荒屋鋪 透、通訳、ティールスカ・ギャラリー館長 パトリック・ステウルン、カール・ラーション・ゴーデン記念館 館長 キア・ジョンソン、手前はカール・ラーション家族会会長兼ウプサラ大学経済学部教授 オスカー・ノルドゥストルムという錚々たる顔ぶれ

f:id:grappatei:20180921225248j:plain

f:id:grappatei:20180921225312j:plain

このように当時の生活スタイルが感じられるセットがいくつか組まれていたのも本展の特徴。

f:id:grappatei:20180921225330j:plain

左は自画像。

f:id:grappatei:20180921225626j:plain

自画像を説明するのはパトリック・ステウルン(ディールスカ・ギャラリー館長)。左はカール・ラーション・ゴーデン記念館館長のキア・ジョンソン。

f:id:grappatei:20180921225405j:plain

f:id:grappatei:20180921225424j:plain

 ⬇︎カール・ラーション夫人のカーリンもアーティストで、スケッチを含む絵画作品ほか、女性らしい細やかなセンスで制作したテキスタイルやコスチューム、テーブルクロス、帽子、のれんなど、多岐に亘る作品を残している。f:id:grappatei:20180922094859j:plain

f:id:grappatei:20180921225222j:plain

f:id:grappatei:20180921230914j:plain

カーリン制作の素描

f:id:grappatei:20180921230947j:plain

f:id:grappatei:20180921231013j:plain

⬆︎カール・ラーションの曽孫にあたるオスカー・ノルドストロム。

こうして作品によって最も詳しい人物が入れ替わり立ち替わり解説に当たるという、なスタイルで、見る者にはありがたい。ほかに中部大学教授も解説に加わり、学芸員も冒頭、カール・ラーションについての概要を説明に当たって、万全の体制による内覧会だった。

他に、インターネットから拝借した彼の代表的な作風を示すものを以下に紹介。

f:id:grappatei:20180922095245p:plain

f:id:grappatei:20180922095303j:plain

f:id:grappatei:20180922095326j:plain

この作品は本展でも見られる。

会場の写真は主催者から特別の許可を得ています。

なお、会期は12月24日まで。

文中敬称略

 

「ゲットアウト」

180918 GET OUT 2017 米 104分 製作(共)・脚本・監督:ジョーダン・ピール(ニューヨーク出身、39歳!)

f:id:grappatei:20180919200550j:plain

これまた全米大ヒット作品なのだが、日本ではそれほど話題にならなかったのが謎。人種問題を取り上げたように見せかけ、後半、突如とんでもないホラーに。

家族に引き合わせるからと恋人ローズに誘われるままに意を決する黒人のクリス。拍子抜けするほど、家族に暖かく迎えられ、週末には親しい友人たちを招いてのパーティーで皆に紹介されるクリス。かすかな居心地の悪さは感じつつも、次第に雰囲気に慣れ始めるのだが・・・

f:id:grappatei:20180919201430j:plain

何かがおかしい。なにかが違う。

f:id:grappatei:20180919201628j:plain

不気味な展開に気付いた時にはすでに遅し。

ホラー喜劇とでもいうのか、想定外の大当たりをして、この若き黒人監督の高笑いが聞こえるようだった。しかも、低予算で、たった23日で撮影したというから、してやったりだろう。

#70 画像はIMDbから。

 

「ドント・ブリーズ」

180918 DON'T BREATHE(息を止めろ!)米 88分 製作(共)・脚本・監督:フェデ・アルバレスモンテビデオ生まれのウルグアイ人)

f:id:grappatei:20180919130003j:plain

怖い作品で、何度か思わず息をするのを忘れるほど。久々だ。

ラスト・ベルトの代表格、デトロイト郊外が舞台。不況で食い詰めた若者がてっとり早く一儲けしてどこか新天地へ行こうと、手荒なことを思いつくのだが、相手が悪かった。

戦場で失明した軍人上がりで、金はしこたまあるという一人住まいの老人のいることをネットで調べ、さっそく三人で行動を起こす。まんまと大成功と思えたのだが、まあ、この種の話にはさまざまトリックを仕掛けてある。

彼らの想定外その1、手強い犬がいて、一旦は薬で眠らせるものの、効果持続時間を想定していないため、のちのち手ひどい仕返しを受ける。

その2、老人とは言え、軍人あがりだけに、すさまじい膂力を持っていることをあなだったこと。軟弱なチンピラなどひとたまりもない。

その3、盲目ゆえに聴力が並外れていて、暗闇では完全に仕掛けた側が不利になる。暗闇での戦い、これが本作の最も怖い場面になっている。昔見たオードリー・ヘップバーン主演の「暗くなるまで待って!」を思わせる怖さだ。

f:id:grappatei:20180919131010j:plain

何度もどんでん返しがあり、ややくどいかなと思ったりもしたが、まあまあの終わり方で、それほどの後味の悪さは感じないですんだ。

全米では大ヒットだったらしいが、日本での興行成績は振るわなかったようだ。日本で知られる俳優は誰も出ていないし、宣伝もあまりしなかったからだろう。

#69 画像はIMDbから。

「アドリアーナ・ルクブルール」@サントリーホール・ブルーローズ

180917

f:id:grappatei:20180918111825j:plain

ご覧のような豪華な配役!当初は合唱団員募集のチラシの方が目が行ったのだが、「椿姫」が終わってからすぐに練習が始まるというので舞台に乗るのは断念。

有名なオペラで1976年夏、最後となったNHK招聘イタリア歌劇団第8回公演で初めてこの作品を見ている。当時のキャストは、モンエラ・カバリエ、ホセ・カレーラス、フィオレンツァ・コッソット、アッティリオ・ドラーツィ。

話は簡単なようだが、なぜかすーっと頭に入ってこない。ま、それでも自宅を出る前に改めてしっかり解説書を読んでおいた。それでも「あれ?」っと思うような場面が何箇所か。それは、演出や舞台装置が原因かも知れない。これは、しかし低予算ゆえ、止むを得ない。

それでも、ずらーっと役者を揃えているから、聞きどころは満載で、大満足。あのホール、意外に音響が素晴らしい!これなら歌う側も心地よく歌えたと思われる。

アドリアーナの西正子、以前より声が太くなったように感じられたのと、第四幕、死に際の難しい歌唱を見事にやってのけた。

20年もフォローしている21世紀のスーパーテノール村上敏明、最高のバリトン須藤慎吾リゴレットの「悪魔め、鬼め」、オテッロの「イアーゴの信条」は絶品中の絶品)、それに最近、ひんぱんに聞いているテクニシャンメゾ、杣友恵子については、今更なのでコメントなし。

その他、脇役陣も頑張っていたし、そしてとても楽しそうに演唱していた。合唱団もフィオリーレ合唱団として日頃から活躍しているから、皆さんとても歌も演技もうまかったし、自分は乗らなくて正解だったようだ。

f:id:grappatei:20180918113932j:plain

左寄りでいいアングルではなかったなぁ。残念!

f:id:grappatei:20180918114014j:plain

こういう格好をさせても、よく似合う杣友恵子。

f:id:grappatei:20180918114051j:plain

断然舞台映えのするダンジュヴァル役のメッゾ、佐藤 祥。三種類の豪華衣装も印象的だった。

伴奏はピアノ、バイオリン、ハープのみ。ピアノだけよりはもちろんずっといいが、もう少し楽器を増やして、例えば木管などを入れてくれればねぇ。サントリーとは言え、自由席で@¥6,000の設定なのだから。

ところで、冒頭、進行役のジェズイユ僧院長(武田友美)に紹介され、合唱団員の一人、ということはアマチュアテノールが「カーロ・ミオ・ベン」を歌ったのだが、???意味不明。

ついでに、もう一つ不思議に思ったのが、カーテンコールの最後に、これも幕ごとに登場してストーリーを説明する小間使い(森 由紀子)が舞台に呼ばれて、主役の間、つまりまん真ん中に入れて拍手を受けていたのだが、これも首をひねる場面。なにか演出にでも関係したのかと思ったが、プログラムのどこにもそのような表示なし。舞台挨拶では、むしろ最初に出てくるような役回りだと思うのだが・・・珍風景が二度も。

蛇足ながら、このチラシはなかなか素敵。オノレ・フラゴナールの「読書する少女」だが、よくできている。また舞台装置は簡素そのものだが、背景のスクリーンに当時の貴族の館風の映像を投影し、そこの上部に字幕を映し出すという趣向も悪くなかった。

 

#58 文中敬称略