ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

必死剣鳥刺し

f:id:niba-036:20100716112631j:image:left100715 109シネマズ川崎 原作:藤澤周平、脚本:伊藤秀裕、江良 至 出演: 豊川悦司、池脇千鶴、 吉川晃司、 岸部一徳、戸田菜穂、 関めぐみ

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飛び散る血しぶき、切り結ぶ刀剣の響き、全身をなますのごとく切り裂かれ、絶命したのか微動だにしない兼見三左エ門(豊川)。「死体」に向かって、己の狡猾極まりない「騙し打ち」を誇らしげに語る家老、津田民部(岸部)。その瞬間、「死体」が目にもとまらぬ早さで下から切り上げ、民部の身体は深々と切り裂かれていた。最後の最後に見せたのが秘剣「鳥刺し」というわけだ。

これまで見た時代劇の殺陣の中では、「椿三十郎」、「用心棒」、「上意討ち」、「切腹」と並ぶ、まさに瞠目の凄さだ。その直前、帯屋隼人正(吉川)との一騎打ちも、息もつけぬほど緊迫する殺陣を披露する。豊川、吉川ともに日本人俳優の中では長身だけに、この剣劇シーンは画面に収まりきれないほどの迫力を生む。

陸奥の海坂藩は、この時代どこにでもある、ごくありふれた藩である。(藤沢作品ではしばしば登場する。例の「たそがれ清兵衛」の舞台もこの藩)ここで物頭を務めるのが主人公。既に愛妻(戸田)を亡くし、淡々と藩務をこなす日々。そんな中、勘定役の切腹事件が起きる。厳しい藩の台所事情ゆえ、贅沢をいさめたことに腹を立てた藩主の愛妾(関)に理不尽にも詰め腹を切らされたのだ。

ことほどさように、だらしない藩主と、ますます増長する愛妾の連子。見かねた兼見がある日、廊下で連子を刺し殺すという、とんでもない事件が出来。愛妻を失い、もはや生きる望みもない兼見、もとより斬首を覚悟の上での犯行。ところは、よもやの沙汰。1年間の蟄居・謹慎。禄高も280石から130石への減石というから、本人もびっくりだ。これには裏があって、邪な家老が実は仕組んだ罠。

これは藤沢の原作を読んでいたが、見事な映画化というしかない。特に最後の、手に汗握るシーンは、自分の想像力の欠如もあり、小説の方ではここまでの迫力を感じることはなかった。

前半は抑えに抑えた「静」として描き(録音が素晴らしい)、後半、特にラスト20分ほどの「動」の描き方はとりわけ見事というほかはない。

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