141027 143回(2010)直木賞受賞作、中島京子の同名小説の映画化。原作を読んだことを忘れていて、最後の最後に思い出した。それほど、原作にはインパクトを感じなかったということか。映画になって俄然、瑞々しく甦った、ということは、山田洋次の脚本の妙かも。
昭和初期、山形から出て来たタキ(黒木華)が小中夫人(吉行和子)の紹介で、東京郊外にある平井家の女中に。主(片岡孝太郎)は百貨店勤務の玩具担当重役で、羽振りはなかなか。夫人の時子(松たか子)はくったくがなく、男女を問わず誰からも好かれる美人。一人息子の恭一(晩年:米倉斉加年)と、まずまず幸せな暮らしぶり。
時代は、支那事変(1937)から太平洋戦争の終戦(1945)までの、いわゆる昭和の激動期で、当初羽振りの良かった平井家も、状況は一変、タキもとっくに故郷の山形に帰郷している。
そうして、現代、タキ(倍賞千恵子)は東京でひっそり一人暮らし。大伯母である彼女を慕って、ひんぱんに訪ねて来る健史(妻夫木聡)のすすめもあり、少しずつ自叙伝を書いている。
⬆自叙伝を書き終えて、ある事情を思い出して涙するタキと、気遣う健史
こうして物語は、主人公であるタキの目を通して、現代と凡そ70年前を交互に描き分けることになる。でも、タキには自伝にも書けない、時子に関わる、ある重大な秘密が・・・。それは、タキの亡くなった後、遺品整理の中でみつかった宛先のない一通の封書で明らかになる。
出演者が、山田洋次がほぼ一年前に作った「東京家族」とかなり重複することもあり、またホロリとさせるエンディングもよく似ており、山田監督は当然意識していたのであろう。
時子に扮した松たか子が、やはり何と言っても素晴らしい。彼女が和服を着るシーンなど、ぞくっとするほど。それと、若き日のタキをえんじる黒木 華は見直した。(NHK連ドラ「純と愛」では、それほどとは思わなかったが)それに堅実多彩な脇役陣がまず完璧だし、それがガッシリと支えていて、骨太の作品に仕上がったと思う。
⬆不倫相手に会いに行くという時子を、身を挺して引き止める必死のタキ
舞台は東京郊外(当時)となっているが、手紙のやりとりや会話、或は急な坂道から、ほぼ大森の山王界隈にある洋館であり、時子の不倫相手になる板倉正治は、長原在住と分かる。
「小さいおうち」どころか、堂々たる立派な洋館であり、当時としてはとびっきりハイカラなたたずまいだったと思われる。
昭和初期ということで、家の中の小道具類の細々としたところまで、実に丁寧に描写されていて、感心,感動である。例えば、アイロン掛けに、口で吹く霧吹きが登場したり、天井から吊るされた電灯からコンセントを取るシーンなど、大いに懐かしく思ったりした。
#5 画像はALLCINEMA on lineから