160531
これが是枝イズムというのか、なんということもない日常的な話を淡々と描くのみ。樹木希林を始め、出演者が実に上手い演技をすることには感心するが、映画の出来栄えとしては、物足りなさが残る。「えっ、これで終わり?!」という終わり方をする。
原作・脚本・監督・編集と、一人四役をこなして、こんなダメ親父、ダメ息子、ダメ弟、ダメ夫の売れないバツイチ小説家を主人公に据えて撮った作品。カンヌでは、受賞こそしなかったが、それでも高評価だったらしい。フランス人て、こういう味わいの作品がお好みなのだ。
この狭い団地は、監督自身が幼少から28歳まで実際に住んだ家らしい。セットを組まず、全部ロケで撮影したようだ。右側の姉役の小林聡美が、樹木希林に負けずに上手い!もっぱらダメ弟にさんざん苦言を呈する役どころ。
息子に週一回会えることだけが生きがいみたいなダメ親父、スポーツ用品店で、息子が欲しがっていたスパイクを買ってやるシーン。息子が遠慮して安い方を選ぼうとすると、ここぞとばかり強がりを言ってブランド物を勧める。こっそり靴に仕掛けをして値切るというセコさ。
それにしても、汚いねぇ、この風呂は。テルマエ・ロマエで入浴シーンは慣れた阿部寛だが、胸までしか浸かれない。表面の垢を手際よく手おけで掬いとるのにはリアリティがたっぷり。こうした何気ないシーンを活かすところが是枝のうまさかな。
ラーメンの汁をシャツにこぼしたところを「ま、しようがないわねぇ、この子ったら!」と呆れながら、嬉しそうに拭いてやる母親と、「いいよ、自分でやるから」と半ば迷惑そうに応じる息子。どこにでもある一コマだ。阿部には、こういう役も自然にこなせる器用さがある。
他にも、お供えの大福をぱくついて、口の周りを白くしている、図体ばかりでかいバカ息子をさりげなく母親が注意する場面も微笑ましかった。テレビドラマ「下町ロケット」で、さんざん大福を食べるシーンがあったことを思い出したが、ひょっとすると阿部の大好物なのかも知れないね。
なお、このタイトルだが、テレサ・テンが歌った「別れの予感」に出てくるフレーズで、海よりもまだ深く、愛しても愛しきれない、痛いほどの愛を表現しているとか。
主人公が亡父の残した金目のものをあらかた持ち出しては質入れしてきており、もうほとんど何もない状態で、母親の目を盗んでやっと見つけた高そうな硯をいつもの質屋へ持って行く。すると質屋のオヤジ(ミッキー・カーティス)は、思いがけず30万円もの高値をつけてくれた上、初版本だからと前に贈呈していた本に著者としての署名を求められる。すっかり気を良くして、くだんの硯をゆっくり擦る場面がなかなか良い。
エンディングで、映画は何も言わないから、あとは想像するのみだが、この30万をどうするか。未練たっぷりの別れた女房に何か贈ろうとするか、一人息子にまた野球道具でも買ってやるか・・・いやいや、結局、また立川競輪場へ持って行って、すっちまうんだろうね。
ま、申し訳ないけど、映画館で見なくても、後日テレビで見ればいいかもしれない作品かな。
#44 画像はALLCINEMA on lineから