ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「戦場のメリークリスマス」@Amazon Prime

240330 Merry Chrismas, Mr. Laurens 1983年 日英合作 2h3m  脚本(共)・監督:大島 渚

この名作、実はリアルタイムは元より、その後、TV等でも見る機会がなく、やっと見ることになりました。いやぁ、やはり名作ですねぇ。大島 渚、今更ながらですが、大したものです。

オランダ人の思想家、哲学者、小説家、農夫、兵士、教育者、ジャーナリスト、etc.のLaurens van der Postインドネシアでの実体験を元に書いたThe Seeds and The Sower(タネと種を蒔く人)を大島 渚が映画化した作品。ということで、かなり実話に近いストーリーと思われます。

第2次大戦末期のジャワ島にある捕虜収容所が舞台です。と聞いた途端、ある程度展開が想像できてしまいます。こうしたテーマで描かれた小説も映画も結構ありますからね。本作もまさしくそうした状況、つまりことさら粗野、粗暴に振る舞う日本軍人と、そして無慈悲なまでに翻弄される西欧人捕虜たちが、際立った対比で描かれると言う構図です。

これは日本人として見ていて、当然ながら気持ちの良いものではありません。居心地がすこぶる悪くなります。相手が西欧人の中でもイギリス人であると、対比が一段と鮮やかになります。「戦場にかける橋」やコリン・ファースが出た「レイルウェイ 運命の旅路」でも同様でした。

本作では日本側代表として下層出と思われるハラ軍曹(たけし)、そして上官であり、多少教養人と思われるヨノイ大尉(坂本龍一)が、そして西欧側では、タイトルにもなっている原作者と思われるオランダ人のロレンス(トム・コンティ)とセリアズ少佐(デビッド・ボウイ)を巧みに絡ませます。

ジュネーヴ協定に違反しようがお構いなしに病人まで全員を炎天下で集めさせるヨノイの狂気ぶり、そして刀を抜こうとしたヨノイに突如キスしたセリアズ、あまりの突飛な行動で、ヨノイはその場に倒れるシーンがすごいです。互いにゲイという設定かと疑ってしまいます。

やがて日本は敗戦、戦後、同じ収容所で地位が逆転したハラとロレンスが対峙します。ハラは翌朝、処刑されることになっています。ハラはその後、収容所内で勉強したらしく、多少英語を話せるようになっていて、二人の会話はずーっと日本語でしたが、最後は英語、そして、最後の最後に、また日本語に。ちょっと泣かせるシーンでした。

蛇足ですが、坂本龍一大島 渚に出演を依頼された折に、音楽もやらせてほしいと条件をつけたら、即座にOKが出たそうです。ま、そりゃそうですよね。おかげで名曲が誕生したわけです。

当時、たけしはお笑い芸人で、セリフがうまく言えない時にそれを言い訳にしたらしいです。確かに台詞回しはうまくないですが、それほど下手とも言えないです。うまくセリフが言えないと大島監督は周辺の人間を怒鳴ったとか。面白いですねぇ。

いい作品でした。もう一つ、セリアズ役、最初にオファーされたジェレミー・アイアンズが別の作品に出演予定で、断ったんですが、後で本作を見て死ぬほど後悔したとか。うーん、分かる。

それから、「007 ダイ・アナザーデイ」を撮ったリー・タマホリが本作で助監督を務めています。彼はNZ人でもあり、大島監督にとっても何かと助言を求めた可能性があるし、タマホリもこのような名作で大島の助監督ができたのはラッキーだったでしょう。まさにウィン・ウィンですね。