ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

嘉目真木子、独演コンサート(日声協シリーズ)@日暮里サニーホール・コンサートサロン

190626 このシリーズ、なんども聴きにきているが、最近は久しぶりだ。今、日本のオペラ界で実力・人気ともにトップクラスの一人、嘉目真木子が初登場。

f:id:grappatei:20190627111547j:plain

実はこのシリーズ、日声協からはどんな構成にするかは完全に出演者に任されているそうで、出演者によっては、こちらが聞いたこともないような珍しい演目ばかりで構成する人も少なくない。まあ、それがこのシリーズの特徴として捉えればいいのだが、私見ながら、わずかでもいいから、誰もが知っている曲も含めてほしいというのが聞く側の本音。

そんなことを事前にご当人にも書いたりしてたので、今回、どんなプログラムになるか興味津々で臨んだ。果たせるかな、知っている曲は1曲のみであったが、どっかで聴いたことがあるものも含めれば3割程度。たとえ知らなくても、いい曲、親しみやすい曲が多く、聴衆のほとんどが満足の行く結果だったと思う。こ難しく、とっつきにくい曲でない限り、むしろ普段あまり聴く機会がない曲を聞く方が楽しいこともあるしね。

ご本人もさすがにその辺りを気にされていて、”わがままコンサート”と呼んでみたり、後半登場時には、「つまらなくて前半だけで帰ってしまわれるお客様がいたらどうしようと思いました」などと場内を笑わせていた。

この方、歌唱も天下一品だが、トークも嫌味がなく饒舌すぎず、人柄がよく出た見事なもの。曲目解説を曲ごとに丁寧にされていた。すべて外国語であるから、やはり歌詞の中身はある程度聞く側も知っておいた方がいいという配慮だろう。

前半はごく短く、分かりやすい曲を並べていた。後半は、それこそ誰もが知るドヴォルジャークの「我が母の教え給いし歌」から入り、2曲目、H.ホリガーの「ミレヴァの五つの歌」は10分を超える長いもので、気負わずほわっと聴いて欲しいと事前に案内があった。

アンコールには、珍しいことにイングランド民謡から「グリーン・スリーブス」。なんでもご母堂がお歌いになった際、ピアノ伴奏をされたとか。ピアノが下手だったと何度か言っていたが、この時は深夜まで必死に練習に励んだという懐かしい曲だそうだ。最近そのご母堂を亡くされているだけに、特別な感慨があったことと思われる。

f:id:grappatei:20190627113550j:plain

この後半のコスチュームも素敵だが、前半はえりぐりを広く取り、ワインカラーの襞が多い、ちょっとギリシャ風のデザイン。撮影出来なかったのが惜しまれる。斜め後ろはピアノ伴奏の高田恵子。

#37 文中敬称略

「アマンダと僕」

190626 AMANDA 仏 107分 脚本・監督:ミヒャエル・アース(Mikhaël Hers、ヘンなスペリングの名前だが、1975年、パリ生まれのフランス人)

f:id:grappatei:20190627101434j:plain

仲良しのシングルマザーである姉、サンドリーヌ(オフェリア・コルプ)が、2015年、パリ近郊、ヴァンセンヌの森でイスラム系若者が引き起こしたテロ事件に巻き込まれ命を落とし、突然その7歳の一人娘アマンダ(イゾール・ミュリュトリエ)と暮らすことになったダヴィッド(ヴァンサン・ラコスト)はまだ24歳。細々と生計を立ててはいたが、まさかの一大事に途方にくれる。

頼れる親族もいないダヴィッド、いくら考えても他に方法がない。それでも待ったなしで、ぎこちない生活が始まる。それでなくても、母親を亡くしたばかりの年端もいかぬ娘をどう扱っていいか、それこそ腫れ物に触るようにして、日々が過ぎて行く。

f:id:grappatei:20190627103512j:plain

最愛の姉を亡くした弟、母親を亡くした一人娘と、たちばは違うが悲しみは共通する。やがてお互いにとってかけがえのない存在になっていく展開は、ほぼ想定内だが、パリの美しい街々を背景にして静かに描く手法もさることながら、演じる俳優、とりわけアマンダを演じる子役の自然な演技には恐れ入る。監督が見出したらしい。

やがて生活にも一定のリズムが出始め、アマンダも元気に。そして、亡き母が予約していたウィンブルドンセンターコートでの試合を二人で見に行くことに。

旅の目的はもう一つ。それはサンドリーヌとダヴィッドが子供の頃に離婚して今はロンドンに住む母(アマンダの祖母)、アリソン(グレタ・スカッキ)に会うこと。

ウィンブルドン決勝前後は一気に暑くなるロンドン、この日は快晴。母が座るはずだった席に自分の荷物をそっと置いて、試合に見入るアマンダ。

一方の選手が0-4と追い込まれると、突然涙滂沱。母サンドリーヌが亡くなる前日、アマンダに話してくれていたElvis has left the building(エルヴィスはもうこの建物にはいませんよ、とコンサートの後、いつまでも立ち去らないエルヴィスファンの群れを見たビルの管理人がアナウンスしたとされる話)を急に思い出し、辛くなったらしい。

でも、その後、負けている選手が盛り返し、ジュースに持ち込み、アマンダに笑顔が戻る。カメラがパンし、ウィンブルドン上空の青空を映し出す。

#37 画像はIMDbから。

奇跡の”驚”演!!「フィガロの結婚」@サントリー・ブルーローズ

190623

f:id:grappatei:20190624124017j:plain

f:id:grappatei:20190624124330p:plain

まあ、この顔ぶれ見たら、超豪華とかなんとか言ってる場合じゃない、このタイトル、奇跡の”驚”演!!は大げさでもなく、それ以外に言いようがないほどの配役!

若い井坂 惠以外はほぼ全員が音大教授というなんともはや贅沢極まる布陣に。今更あれこれ解説不要なれど、ほんの少々。(カーテンコールでは、何を思ったか、リーダー格の大倉が突然、今回のキャストの平均年齢は61と告白、場内を笑わせる一幕も)

やはり今回1番の驚きは、何と言ってもこの伯爵夫人の大倉由起枝だ。この気品溢れる色気はどうだろう!もちろん、歌唱がまた桁違いに素晴らしい。高音の、なんとも言えぬ滑らかさには場内思わずため息。

f:id:grappatei:20190624130002j:plain

どうですか、この艶やかさは!


次に昔から敬愛してやまない澤畑恵美フィガロでは普通伯爵夫人を演じることが多いのだが、大倉と組む時のみスザンナに回るとご本人がおっしゃっていた。

f:id:grappatei:20190624130104j:plain

この方もほんとに気品を感じないわけにはいかない美貌と雰囲気の持ち主

f:id:grappatei:20190624130219j:plain

気さくにサインの求めに応じる大御所の一人、福井敬。

フィガロではテノールの出番は限られていて、ドン・バジリオ、ドン・クルツィオを福井が演じたが、これだけでもなんと贅沢なキャスティングかと思う。普段はカーテンコールでセンターを取る福井、今日に限っては上手の端っこ。

タイトルロール、黒田 博、他の面々に比べればまだ大御所にはちょっと早いかもしれないが、しかしすでにベテランの域に入って久しい。声はまさに今が絶好調という感じで上から下まで縦横無尽、コミカルな演技も心得たもので、今日も散々笑わせてもらった。

他のキャストも、それぞれが持ち味を存分に発揮して、これ以上ないほど舞台を盛り上げていた。こんなフィガロはもう見られないだろう。

#36 文中敬称略

大田フィル定期演奏会@アプリコ大ホール

190622

f:id:grappatei:20190623082737p:plain

知り合いが団長をしている関係で、早くから予定していたコンサート。このオケは地元であるから、もちろん過去なんども聞いているのだが、ハーピストのKさんが実は団長と知ったのは最近のこと。彼女の勇姿(?)を見ようと、早めに会場入りしてハープの見えやすい位置に陣取ったつもりだったが、演奏が始まると第1ヴァイオリンが手前にいて、楽器しか見えず、残念至極!

尤も出番があったのは「ラロのスペイン交響曲」のほんの僅かなパートだったとか。次回は、ハープの出番が多い演目が選ばれることを期待したい。

ソロイスト、對馬佳祐の弾くラロは素晴らしかった!聞いたことのない名前だったが、こういう才能溢れる若手がいくらでもいるのだ。まだ場数はそれほど多く踏んだわけではないだろうから、下手から登場する際も、緊張した面持ちで、わずかにおずおずと見えたが、弾き始めたら、そんなことはお構いなく、堂々たる弾きっぷりだった。

久しぶりに聞いた名曲だが、確かに、改めて聞くと、スペイン風の光が随所に溢れるような曲であることがよくわかる。北仏リールの出身だが、エドゥアール・ラロは名前からして、フランス・スペイン両方を示しているのは、祖父がバスク地方出身だからだろう。

f:id:grappatei:20190623085405j:plain

エストロ河原哲也はごらんのような童顔(実年齢も若いが)で、愛嬌たっぷり。

f:id:grappatei:20190623085542j:plain

後半のジュピターが始まると、さっき弾き終わったソリスト、對馬佳祐が

あとで聞いたら、本人の希望で、居残り演奏をしたようだ。「ジュピター」だからそうしたのか、判然としないが、この辺がいかにも現代風で面白い。

f:id:grappatei:20190623085651j:plain

珍しくソリストが出口近くにいるのを見つけて、さっそく1枚。

サービス精神旺盛で、終演後はわざわざロビーにまで出てきて、ファンと交歓する光景が。彼の弾いたアンコールの2曲、1曲目はフランシスコ・タレーガの「アルハンブラの思い出」(Recuerdos de la Alhambra)の変奏曲というのは分かったが、ルッジェーロ・リッチ編曲のもの。超速運弓に加え、ピッツィカートがふんだんに盛り込まれるから難曲だろうが、いともあっさりと弾きこなしていた。

さらに2曲目。これも2分を切る小品だが、こちらは聴いたことがなかった。ヴィニアフスキーのエチュードからカプリス。これも劣らず、こ難しそうな1曲!

後半は誰もが知っているモーツァルトの「ジュピター」。各パートともよく鳴っていたし、メリハリのよく利いた素晴らしい演奏で、大喝采。アンコールは静かにアヴェ・ヴェルム・コルプスでしめた。 

f:id:grappatei:20190624131241j:plain

終演後、楽屋へ直行、すでに着替えてしまった団長のKさんと。

f:id:grappatei:20190624184406j:plain

蒲田駅西口広場

#35 文中敬称略

青島広志の「魔笛」@日本橋劇場

190619

f:id:grappatei:20190620100105j:plain

青島広志のイラスト付きチラシもすっかりお馴染みに

f:id:grappatei:20190620100217j:plain

出演者が多彩を極めるのもこのシリーズの特徴

魔笛」は、他のオペラ同様長いこともあるが、物語が単調ゆえ、特に後半になると必ず一度は睡魔に襲われる。この青島魔笛は違った。最後まで舞台に惹きつけられっぱなしで、今更ながら、彼の企画発想力、構成の見事さには改めて脱帽である。

自分がプロデュースした上演は何が何でも聴衆に満足して帰ってもらうという、執念のような、彼の思いがよく伝わってくる。そのために、全体の枠組みはしっかり押さえた上で、ここまでやるかと思わせるほどダイナミックに、舞台を昼夜間部のある「学校」にしてしまっている。それも、原曲に対する深い考察があってこそだろう。

そこには尊大な校長、忖度する教頭、校長が絶対に頭が上がらない理事長(故人だがミイラという設定の母親)、生徒の指導に執念を燃やす体育教師、暴れまくるスケバン、気弱な転校生、用務員、給食配達人、小学部委員、などなど、これだけ聞いただけで即、興味シンシンである。さらに、もともと「魔笛」に含まれていないオペレッタの楽曲などを随所に仕込みながら、進行していく。

お目当の江口二美は他のベテラン姐御たちと夜間部不良少女としてセーラー服に恐ろしいメイク、さらに物騒な刀剣類を引っさげて登場、なんと「こうもり」からアデーレが歌うアリアなどで、最高音ハイDを延々ひっぱるなど、離れ業を演じ、やんやの喝采!普段から居合道などにも親しんでいるから太刀さばきもなかなかのもの。

f:id:grappatei:20190621151742j:plain

夜間部不良少女たち。左から三津山和代、江口二美、芳賀美穂

毎度、派手さはないとしても、名脇役として輝きを見せる名手、赤星啓子演じるは、パパゲーナだが、例によって終盤までずーっと老婆として登場していて、その卓抜せる技の冴えには、目が釘付け状態。顔の表情の一つ一つ、所作振る舞いの滑稽にして狂いのない動きは、まさに名人芸!日本オペラ界の人間国宝級!と大賛辞を惜しみなく贈りたい。

もう一人、お目当の鐡由美子は久しぶりの夜女で登場、つややかな高音は相変わらず聴衆を魅了、健在ぶりを示した。一時は結婚、出産、育児と、しばらく舞台からは遠のいていたが、よくここまで復調してきている。

他に以前からよく聞かせてもらっているが、すでに中堅どころのテノール・リリコ・レッジェーロとして活躍中の志摩大喜、出ずっぱりのタミーノは相当な重荷だったか!冒頭から高音が続くから、かなり消耗する(横になっている時間もあるにはあるが)。今日は前から2列目に陣取ったから、顔から汗が滴り始める様子がよく見え、いささか心配になったほど。

f:id:grappatei:20190620112451j:plain

右はタミーノの志摩大喜。左はピアノ科生の木曽真奈美

f:id:grappatei:20190620113043j:plain

ザラストロの母(理事長)役の三橋千鶴

車椅子で下手から登場した瞬間、なぜかマチュピチュの光景が目に浮かんだ。そう、インカ帝国のミイラ。それほど迫真の化け方だ。この方、20年ほど前に、二期会マイスタージンガーのメンバーでミューザ川崎でお聞きしたのが最初だと思う。小柄だが、結構大きく見える存在感があり、演技も歌も一味違う技巧派として印象に残っていた。青島広志のキャスティングの冴えがこんなところにも。

f:id:grappatei:20190620113649j:plain

終演後、青島広志のご挨拶。右側は演出の鷲田美土里

f:id:grappatei:20190620113906j:plain

f:id:grappatei:20190620113924j:plain

f:id:grappatei:20190620114104j:plain

童子たち(小学部委員)左から櫻井日菜子、石井朝奈、松原典子

忘れては行けないのが、楽器役で登場したお二人。魔笛、つまりフルートになったのが小川栞奈(かんな)で、まだ学院生らしいが、きれいなコロラトゥーラで、物怖じせずのびのびと歌っていたのが印象的。魔鈴(まれい)役は、”青島楽団”にもしばしば登場しているが、N響、東響、佼成ウィンドオーケストラなど幅広く活躍するパーカッショニスト山口多嘉子。メイクもしっかり、白いコスチュームも着込み、そして商売道具(?)、おもちゃの鉄琴を腰に付けて、パパゲーノにからみながらの演奏。フリもあるし、普段やり付けないだけに大変だったろうが、結構楽しんでいた様子も。

終演後、広くもないロビーでは、例によって出演者とファンの交歓があちこちで。

会場の日本橋劇場こと日本橋公会堂は水天宮前に1999年にオープンしたホール。下の部分は区役所や他の施設が入り、4階5階をホールに充てている。

f:id:grappatei:20190620123908j:plain

日本橋公会堂、2階席からのビュー

f:id:grappatei:20190620123949j:plain

なかなかしっかりした造りになっている。最前列は、やはり手すりが、姿勢によっては視界を妨げるかもしれない。

f:id:grappatei:20190620124104j:plain

全体に思った以上に立派なホールであることが分かった。アクセスも我が家から乗り換えなしで行けてすこぶる便利。

#34 文中敬称略