ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「特別な一日」

140217 原題:UNA GIORNATA PARTICOLARE(そのまんま)

 

かくも素晴らしい傑作、それもイタリア映画を、リアルタイムで見ていなかったのは、公開された1984年は、丁度愚亭が海外駐在中だったから。テレビで放映してくれたことに感謝!

 

TV鑑賞の作品はブログに取り上げないことにしているが、この作品は例外。題名通り、かなり「特別」なので、アップすることに。

 

監督・脚本とも巨匠エットレ・スコーラ、製作カルロ・ポンティ(S.ローレンの旦那)。

 

「特別な一日」というタイトルは、そのものズバリ。その日はヒトラーがローマに来てムッソリーニと歴史的な会談をした日で、ローマ中が涌き立ち、総統たち(フューラーとドゥーチェ)を一目見ようと、こぞってローマの街へと繰り出した日。そして、主人公の一人、ガブリエーレ(マストロヤンニ)にとっては、シャバでの最後の日ということが、徐々に観客にも分かってくる。

 

ローマ北東部に新しく建った低所得者向け高層集合住宅(実際、当時としては最先端の洒落たデザインである)に住む一家。夫婦と子供がなんと6人!その日は、いつになく慌ただしい朝だ。朝食の準備の後、ひとりずつ起こして回るアントニエッタ(S. ローレン)、化粧っ気もなく、頭はほつれ、靴下は伝線している。表情はうつろで、いかにも生活に疲れ切った雰囲気。

 

同じ時間、一階では熱狂的ファッシストである管理人の婆さんが、甲斐甲斐しくイタリア国旗(当時は王国なので、トリコローレでも中央に王家の紋章が付いている)とナチの旗を手すりの目立つ位置にくくりつけ、出て来る住人に大声で挨拶している。ついでにラジを大音量で館内に響かせる。終日、中継でパレードの模様が流れる。

 

やがて家族全員が騒々しく出て行った後、一人、家族が飲み残したコーヒーを集めて飲むアントニエッタ、その後、皿洗い、ベッドメークなど、一連のルーティンワークをこなして行く。可愛がっている九官鳥に餌をやろうとした瞬間、窓の外へ。懸命に九官鳥に呼びかけるも、向かいの住人の窓近くに居座るから、かねてから気になっていたその住人ガブリエーレ(マストロヤンニ)を訪ね、首尾よく九官鳥を回収する。

 

実は、この男、元放送局のアナウンサーでありながら、現在は失職中。家で宛名書きのアルバイトをしている。あちこちに本が散乱しており、知識階級らしいことがアントニエッタにも分かって来る。「三銃士」に目を留め、一度読んでみたいと言うアントニエッタ。じゃ、持って行ったら、と勧めるガブリエーレ。だが、そのまま九官鳥と自宅に戻る。

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しばらくして玄関のチャイムが鳴る。見るときちんとした装いのガブレエーレが「三銃士」を持って訪ねて来る。そのまま、コーヒーをご馳走になり、二人の間に親密な時間が面白おかしく過ぎて行く。この辺り、さすがこれまで何度も共演して、息もぴったりのマストロヤンニとローレンだ。特にソフィア・ローレンの演技が秀逸!

 

男は、ホモである。当時のイタリアの法律では、何と島流し(サルデニア島)の刑に処せられるのだ。「彼氏」からの電話も、ガブリエーレがうまく誤摩化すから、アントニエッタには単なる友人とのやりとりとしか聴こえない。「彼氏」に、これからサルデニアへ連行されることを暗に告げる暇乞いの会話だ。

 

一方のアントニエッタ、ごく普通のイタリア人主婦で、ただ言われるままに結婚し、夫に要求されるままに子供を生み続けて来た女である。彼女には、ガブレエーレが、同じ男でもこんなに違うんだ、という驚きでしかない。でも、驚きだけではない、別の感情も湧いてきているこに彼女自身、気付いていない。 

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屋上の物干し場、互いに別々の感情を抱きながらも、惹かれ合っていく力にはどうにも抗えない。再びガブエーレの部屋。彼が作ったオムレツを二人で食べながら、「俺はホモだ!」と。「でも、女ともこうして出来たじゃないか。」女は「そんなこと、どうでもいい、また会いたい。」と切ない胸の内を明かす。

 

そうして、それぞれ互いに相手の室内が遠くに見える部屋に引き揚げ、やがてガヤガヤとアントニエッタの家族が帰宅、いつものようなにぎやかな夕食が慌ただしく終り、一人、「三銃士」を手に取り、読み始めるが、その目は、気になるガブリエーレの部屋を片隅に捉えている。

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連行される前に長旅の準備を始めるガブリエーレ、トランク2個、それに、多分彼氏から贈られたらしい前衛絵画を新聞紙にくるみ、迎えに来た男たちと静かに去って行く。どこまで分かっているのか、立ち去るガブリエーレを眺めるアントニエッタのうつろな表情がことさら哀れを誘う。