ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「3つの鍵」@ヒューマントラスト有楽町

221011 TRE PIANI(3つの階)イタリア映画 2時間 原作:エシュコル・エヴォイスラエル)、脚本:ナンニ・モレッティ他、監督:ナンニ・モレッティ(出演も)

久しぶりの映画館。才人ナンニ・モレッティは原案を含め、脚本、監督、そして出演というスタイルで撮り続けてきましたが、今回の原案作者はイスラエル人で、物語の舞台はテル・アヴィヴであったものをローマ市内の閑静な住宅街に移しています。

そして主演陣がまた豪華!それもあって、わざわざ(?)有楽町まで出かける気になりました。名優マルゲリータ・ブイさんを始め、人気男優のリッカルド・スカマルチョ、そして独特の表情を見せるアルバ・ロルヴァケールさん!

期待をまったく裏切らない2時間でした。同じ3階建マンションに暮らす3世帯を巻き込んだ車の事故が物語の発端です。深夜、猛スピードの車が人1人を跳ね飛ばし、このマンション、つまり自分が3階に住むマンションに1階に激突。運転していたのは3階の住人、バルディ家の一人息子、アンドレーア。彼は軽い怪我で済むものの、跳ね飛ばした女性は搬送先で死亡。

目撃者は2階の住人、モニカ(ロルヴァケール)で、陣痛が始まったので、無線でタクシーを呼んでたまたま路上にいたのです。亭主のジョルジョは仕事(建築関係らしい)でこのところ、ほとんど家にいなくて、時折、ヴィデオ通話で妻の様子を確認しています。この亭主には仲の悪い兄、ロベルトがいます。昔、どうやらモニカを巡って争っていたらしいという伏線があります。

住人たち、ぞろぞろ事故現場に降りてきます。車が突っ込んだ1階の住人は、ルーチョ(スカマルチョ)と妻サーラ、そして小学生の娘、フランチェスカです。

この3家族、その後、諸々事件があり、5年後、10年後までを描きます。3階のバルディ家は父親のヴィットリオ(モレッティ)は裁判官、そして奥さんのドーラ(ブイ)も仕事をしています。今回の事故で、息子のアンドレーアと親子が決裂して、息子は行方をくらまします。

脚本が冴え渡っていて、うなります。3家族、いや、ルーチョの隣家の孫娘がルーチョが好きで好きで、ある日、事件を起こすので、4家族に降りかかる事件を丹念に、見事に描き分けます。時系列で均等に描いていくので、とてもすっきり展開が頭に入ります。この辺りが実にお上手です。

そう言えば、冒頭、高々と跳ね飛ばされて死亡した女性の家族に、普通ならすぐに謝罪に行き、賠償問題に、となるのですが、なぜかそこはほぼスルーされているのが、不可解です。

犯人のアンドレーアが行方をくらましてかなり後に、母親のドーラが謝りに行くシーンがありますが、まだまだ謝罪なんて受け入れる余裕なんてないですよ、と言いながら、死亡した女性の相方の高齢男性がドーラに見せてくれたのは、出所後も行方をくらまし、どこか地方で養蜂をやっているらしいアンドレーアから届いていたハチミツと謝罪の手紙でした。

こうして破綻しかかったが、なんとかギリギリ元に戻せた家族も、そうでない家族も・・・今日もローマに夕暮れが迫ります。

蛇足ながら、登場人物の名前がことごとく、現代風のキラキラネームでなく、古典的な、日本で言えば、さしずめ太郎に花子、一郎に和子、みたいな名前ばかりというところがよかったです。