ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「日本のいちばん長い日」

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⬆︎自刃する阿南陸軍大臣を演じる三船敏郎の演技が強烈なインパクトをもたらした。

どうしても1967年版を意識しながら、見ることになってしまうのは仕方がない。同じ原作をベースにしていても、これほど大きな差が生まれることは、想定外。受け取り方が違うのは、見る方も50歳ほど加齢しているわけで、当然と言えば当然だろう。

全体的な印象を言えば、前作は決起する側の動きをもっと丁寧に描いていたように思う。それだけにより緊迫感があった。一方本作は、おそらく原作には近いのだろうが、阿南(劇中では、アナンという発音もされているが、アナミが正しいのだろう)陸軍大臣(役所広司)の人物像にかなり力点を置いていて、家族などもしきりに登場する(前作で登場した女優は新珠三千代、ただ一人。今回は5人も!)し、自刃前の部下との酒盛りなどまで描き込まれている。

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今回も、鈴木貫太郎首相役の山崎 努(バツグンの演技力が光る)天皇役の本木雅弘官房長官迫水久常役の堤真一など、それなりに揃えてはいるが、前作の重厚な布陣には及ばないのと、決定的だったのは決起する畑中少佐役に松坂桃李を充てたことだろう。(前作では黒沢年男)あのような狂気を充満させたような青年将校に、松坂のような甘っちょろい俳優には荷が勝ちすぎる。せめて加瀬亮クラスなら良かったと思うのだが。

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加えて、前作では、ほとんど正面からの映像もなく、出番が少なかった天皇に、本作では存分に喋らせ、普通に演技させているのは、時代の変化を感じさせる。ちなみに前作で天皇を演じたのは松本幸四郎。もちろん先代である。

一般国民が知りえなかった終戦直前の秘話、ポツダム宣言受諾をめぐって、受諾に傾く政府と断固阻止して本土決戦にもちみたい陸軍の若手、その狭間で苦悩する陸軍大臣など、時事刻々8月15日正午へ向けての動きが詳細に描かれていて、ハラハラドキドキ感がハンパではなかった。若い人たちにも是非見てもらいたい渾身の一作。

劇中、効果的に使用されるVera Lynnの"We'll meet again"、原田監督のこだわり。

その他、興味深く見た場面:

・例の終戦の詔勅の文章案を巡り、例えば「戦局、必ずしも好転せず」などの文言について閣僚間で相当激しいやりとりがあったこと。

東条英機が、直接天皇に拝謁して持論を展開する際、天皇の専門分野であるサザエをたとえ話に持ち出すが、逆にそのために天皇にやり込められてしまうところ。

ポツダム宣言の英文解釈で、subject to~をめぐり、政府では、「制限のもとに置かれる」としているのに対し、陸軍若手将校の間では、英文辞書をひっくり返して、「隷属するものとする」と理解し、大騒ぎになる一幕。

 

#62 画像はALLCINEMA on lineから