ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「岸辺の旅」

151006 日仏合作 128分

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今年5月の第68回カンヌ国際映画祭で、「ある視点」(Un certain regard)部門の監督賞を受賞した作品。黒沢 清監督は、2008年、「トウキョウソナタ」で同部門の審査員賞も受賞していて、どうやら彼の感性が、とりわけフランス人にぴったりなのかも知れない。

この人、結構多作で、これまで63本も世に出している。愚亭が見たのは「トウキョウソナタ」のみ。

夫、優介が失踪して3年、ピアノの先生で糊口をしのぎながら、今日も喪失感に苛まれている瑞希。優介の大好物、白玉を作っていると背後に気配を感じて振り向くと、優介が土足のまま立っていて、何事もなかったように「俺、死んだんだよ」と。それをまたごく自然に「お帰り!」と迎える瑞希。

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こうして死者、優介と生者、瑞希の生活が始まる。二人で、この3年間、優介が辿った美しい景色を瑞希にも見せ、またその間、世話になった人々のもとを訪れながら、愛を確かめていく。

古くは「ゴースト/ニューヨークの幻」、「シックス・センス」など、死後の世界から一時的に蘇って、愛する人のもとへと登場してくるような話にはあまり馴染めない。この作品も、言ってみれば、そんな範疇に入るのだろうが、それほど違和感を持たずに見られたのは、黒澤監督の作り込み方の妙だろうか。

浅野忠信の抑えた自然な演技がいい。また相手役、深津絵里の特徴ある角ばった顔で、思いがけない喜びと、いずれ来る別れの悲しみを先取りしたかのような淡々とした表情が素晴らしい。この二人、過去何度か共演している。どうりで息の合った演技ができるはずだ。

#78 画像はALLCINEMA on line