ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「怪物」

230615 言わずと知れた是枝作品でカンヌ映画祭出品作。(パルムドール脚本賞のダブル受賞!)音楽を担当した坂本龍一の遺作となったことでも国際的に知名度の高い作品です。ちなみに海外では、そのままMonsterというタイトルで上映されています。監督・編集・製作(共):是枝裕和、脚本:坂元裕二 企画・プロデュース:川村元気

いかにもというように是枝色の強い作品で、フランス人好み。舞台は映画では特定されていませんが、諏訪湖湖畔の町と分かります。そこにある小学校がメイン舞台となります。

シングルマザーの早織(安藤サクラ)は息子の湊の最近の様子がおかしいことに気づき注意深く観察していると、なにかクラスでトラブっている様子で、問いただすとかなりイミシンなことを言うので、一度学校を訪ね、校長室で事情を確認しようとしますが、相手側は彼女の質問にまともに答えようとせずひたすら謝罪に終始します。いらだつ早織、このあたりで、見る側は完全に早織側の視点になっています。そこが監督の狙いなんでしょう。

当事者は生徒、保護者、学校、主にこの三者となるわけで、この後、視点を変えてフラッシュバック的に行きつ戻りつしながら進行していくと、全く違った風景が見えてくるという仕掛け。それまで早織側に立っていた視聴者は、「こりゃ、早まったかな?」と思い始める。このあたりはうまい。嫌なヤツと思われてきた担任の保利先生(永山瑛太)がほんとは生徒思いのいいヤツに見え始め、むしろ被害者という目線に。

ちょっと脱線。昔、オードリー・ヘップバーンシャーリー・マクレイン主演の「噂の二人」(1961年公開)という映画では、生徒のウソ(二人が同性愛者という)をそのまま信じた親が無責任もそれを拡散し、最後は悲劇で終わると言う白黒作品があったが、幸い、本作は悲劇的結末とはならず、なぜかホッとしましたが。

やがてすこしずつ真実が明らかになります。台風が町を襲った日、いつものように湊は仲良しの依里と廃線場にある朽ち果てた電車という秘密基地で戯れております。そこへずぶ濡れになりながら、必死で捜索する早織と保利。やがて雨が上がり日が差し始めた原っぱを湊と依里が歓声をあげながら走り抜けていくのでした。

この作品、はやりのLGBTQを扱っていると言う人もいるようですが、愚亭にはややはっきりしません。湊と依里の仲がそれを暗示するような場面は確かに少なからずありました。と言ってもまだ子供ですからねぇ、そんな意識があったかどうか。

安藤サクラがいい演技をしています。それと少年たちが圧倒的にすばらしい。是枝監督って、ほんと子役の扱いが抜群と改めて思いました。それと坂本龍一の音楽が要所で流れますが、贅沢過ぎます。エンドロールの中に坂本追悼の文言が出ます。