ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「PERFECT DAYS」

240201 原題、邦題共に横文字という珍しい作品表記です。脚本・監督:ヴィム・ヴェンダーズ(「パリ、テキサス」'84、「ベルリン、天使の詩」'87)

数年前、是枝監督が全編パリで撮った「真実」(カトリーヌ・ドヌーヴ主演)が話題になりまたが、これは逆ヴァージョン、ドイツ人のヴィム・ヴェンダーズが全編東京を舞台に日本人俳優を使って日本語で撮った作品。さすがヴェンダーズと思わせる佳作でしょうか。

また、主人公の平山に役所広司を充てたところが凄いです。ちょっと2枚目過ぎの感じもしますが、やはりこの俳優抜きにはこの作品がいくつかの国際映画祭で優秀作品にノミネートされたり、カンヌで主演男優賞を取ることはなかったのかも知れません。

冒頭、早朝の東京をカメラが俯瞰、やがて画面が切り替わり、高齢女性が竹箒で落ち葉を掃いている姿へ。ラストシーンにも同じ姿が見られます。

それから主人公、平山が目覚めるシーンへと。(目覚ましは鳴りません)東京下町、ツカイツリーが大きく見えるので、台東区墨田区界隈のようです。目覚めた平山、ふとんを手際よくたたみ、歯を磨き、洗顔、着替え、玄関で時計、小銭などを順にポケットに収め、外へ。

天を仰いでその日の天気を確かめる仕草。近くの自販機へコインを放り込み、缶コーヒーを取り出すや、側に駐車してあるワゴン車へ。カセットテープを取り出し、セットしてから徐に街へ走り出すます。「朝日の当たる家」、The Dock of the Bay, など5、6曲がかかります。

ここまでのルーティンを一連の無駄のない動作でこなしますが、それはその後も続きます。ルーティンを淡々と規則正しくこなして1日が過ぎていきます。

何を生業にしているかというと、朝、着替えたつなぎの背中にTHE TOKYO TOILETと大きく書いてあるので、それで分かります。これは日本財団が運営する渋谷区内のプロジェクトで、実在するんです。したがって彼が磨き上げるトイレはどれも斬新なデザインで、きれいなものばかり。その辺は想像とはかなり乖離があって、意外感を抱きます。

根が真面目な平山は、自分なりに掃除道具にもさまざま工夫を凝らして、実に念入りで、完璧な掃除を効率的にこなしていきます。もちろん1人ですべてをやるわけでなく、相棒とシフトを組んでやっているようです。

途中から柄本時生扮する相棒が登場するので、分かります。仕事中もオフもほとんど誰とも口を利くことがないので、もしかして聾かと思うほど。後半、やっとしゃべる場面が出て、なんとなくホッとします。

仕事を終えると、洗濯物をコインランドリーに持って行ったり、行きつけの銭湯で一風呂浴びるとこれまた行きつけの、なぜか駅の構内にある安食堂で毎晩同じものを飲み食べ、帰宅してちょっとだけ読書して寝るという日々。読書もフォークナーとか幸田文とか、結構高尚趣味で、実は教養人であることも分かります。

なんで1人でいるのかが最後の謎なのですが、それは途中から登場する姪っ子の存在で徐々に明らかになっていきます。詳しくは描かれませんが、やがて姪っ子の母、つまり彼の妹(麻生祐未)が現れたりしてなんとなく分かる仕組みです。

淡々と過ぎていくものの、彼が毎日お昼を食べる森の木々の揺れや、それをカメラ(スマホに非ず)に収め、近くのDPE屋に持ち込み、出来あがった写真を取捨選択したり、観葉植物群に毎朝欠かさず水をやり、休憩中にふと見つけた小さな植物を、持ち歩いている新聞紙製のツボに土ごと移したりと、結構細かい情景が展開されます。

場面と場面のつなぎにモノクロのモンタージュっぽい画面が入るのも特徴的です。ヴェンダーズにはなんらかの含意があるものと思われます。

共演者、実はすごく多いんですが、セリフもなくワンカットだったりで、気が付かないかもです。研なお子が出ていたのはさすがに気付きませんでした。声だけですが、片桐はいりも出てたようですし・・・。

期待を裏切られることなく、いい作品でした。最後に主人公の顔が大写しになり、笑顔が泣き顔に変わり、また笑顔に戻り・・・彼の今の心情が出ているのでしょう。やはりこの役者、並ではありません。