ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

SAWAKAMI OPERA クラシック コンサート@アニェッリホール(九段)

170916 急な告知だったためか、せっかくの素晴らしい演奏会だったのに、客席はまばらで、まことに残念なことだ!

投資家である澤上篤人が主宰するシステム。有望な若き音楽家を選出して、海外で一定期間研修させて鍛え上げるというもの。研修先はトリエステボローニャが多いらしい。

冒頭、主宰者から挨拶とともに、これらの説明があった。続いて、この団体の芸術監督であり、ボローニャフィルの芸術監督でもある吉田裕史からも、このシステムの優れた点についてフォローがあった。

f:id:grappatei:20170916221659j:plain

f:id:grappatei:20170916221714j:plain

f:id:grappatei:20170916221729j:plain

以前から応援している岸 七美子からの2日前の告知で知って、来ることができたが、際どかった。

演目はご覧のように、軽めの歌曲、イタリアン・カンツォーネから始め、オペラアリア、そして重唱で締めくくるという、まあ定石どおりのラインアップ。

その岸だが、トップバッターで登場、のっけにいきなりの凄まじいばかりの迫力にたじろぐほど。プロの歌手たちって、どなたもデビューから数年も経てば、かなりの進化が見られるのは当たり前。だが、彼女の場合は、その度合い並外れている。こういう超低音域までカバーできるソプラノは、国際的にも珍しい。日本では、まず見当たりそうもない。そしてエネルギー溢れるダイナミックな太い声だから、いわゆるソプラノスピントを通り越したソプラノ・ドランマティコに入るのかな。

今日歌った中では、マダム・バタフライも良かったが、何と言ってもバリトン加藤史幸との、「トロバトーレ」からの二重唱だろう。このレオノーラの出来は、特筆ものだ。いやはやとんでもない歌いっぷりだ。

ディミトラ・テオドッシュウという歌手がいるが、まあこれに匹敵するぐらいのドランマティコに成長しそうだ。マダム・バタフライはもちろん、レオノーラ、あるいはトゥーランドット姫まで演じられる日本人はそうそういないから、大いに期待したい。

2番手で登場した谷桃子(果物が二つも入っている!)も、すごく勢いを感じるソプラノで、彼女の場合はリリコ・スピントかな。「運命の力」からのアリアがとりわけ素晴らしかった。

3番手は原 璃菜子。こちらもなかなかの存在感を発揮してくれた。しっとりとしたやや粘性の発声、それに舞台姿が堂々としていて、これは、オペラ歌手にはかなり重要な要素だと思う。こうした利点を兼ね備えており、将来性は極めて高いと見た。

4番手、加藤史幸は、最初にマンマなんか歌うから、あれ?テノール?と思ったほど。なんでこんな選曲をしたんだろうと思ったが、次の「私は街の何でも屋」でいかんなく本来の力量を発揮、ブラヴィッシモだった。もともとかなり高音も出せるバリトンだからマンマを原調で歌ってしまったらしい。(あとで聞いたら、当初キーを下げる予定だったそうだが)

5番手は珍しい本格派のバス歌手、松中哲平。いやぁ惚れ惚れするほど低い声を出してくれてうっとりだ。こういう歌手は貴重な存在だし、日本のオペラ界も大事にしないといけない。

最後は賛助出演ということで、テノールの後田翔平。この方のみ、今回の海外研修には参加していないが、略歴を見ると、なかなか輝かしい。ソフトなテノールで、ロドルフォなんかぴったりという印象だ。歌唱も物腰も。

今回、あれ?と思ったのは、背後の大きなスクリーンに歌手名、演目、作曲者、作詞家などの情報が映し出されるだけでなく、日本語歌詞まで流れれている。よくぞここまで丁寧に作り込んだものと感心した。

傑作だったのは、加藤の「私は街の何でも屋」で、フィガロを連発するところがあるのだが、大きなスクリーンに所狭しとFIGARO, FIGARO, FIGARO・・・・とびっしり!さすがのお調子者のフィガロも、これを見て、びっくりして見せるなど、なかなかやるもんだ。

忘れてはならないのが伴奏陣、ピアノ、バイオリン、チェロという編成で、立派に歌手たちを支えていた。中でもピアノの篠宮久徳、以前も何度か聞いているが、華麗にして堅実、歌手たちもきっと心強かったと思う。

f:id:grappatei:20170916232709j:plain

岸 七美子(ソプラノ)

f:id:grappatei:20170916232846j:plain

原 璃菜子(ソプラノ)

f:id:grappatei:20170916232929j:plain

加藤史幸(バリトン

f:id:grappatei:20170916233010j:plain

ロッシーニの「猫の二重唱」でたっぷり会場を沸かせた梨谷桃子(ソプラノ)と松中哲平(バス)

彼らは皆、しばらくするとそれぞれ研修地であるトリエステボローニャに戻っていくことになっている。研修後、いずれ帰国しての演奏会が今から大いに楽しみである。

 

#57 文中敬称略