ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「アトミック・ブロンド」

171020 原題も:ATOMIC BLONDE 2017 米 115分 監督:デビッド・リーチ(監督業以外に、俳優、作家、スタントなど多彩なキャリア。これまでブラピやヴァンダムのスタントダブルをこなしてきている)

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スパイ映画によくあるパターン。騙したつもりが騙されての繰り返しで、話がもつれるのはお定まりの世界。「裏切りのサーカス」なども誰が誰をどう騙しているのかがこんがらがるが、本作はその点、ていねいに分かりやすく描いてくれていて、見終わった感がいい!

舞台は主にベルリン(因みに原作 THE COLDEST CITYはベルリンを指していると思われる)、他にロンドンと、最後にちょっとだけパリが登場。ロケもほとんどこうした街で撮影されたようだ。

M16からドイツにいる二重スパイをさがすために派遣された腕っこきのスパイにのロレーン・ブロートン役にシャーリーズ・セロンさん、もうこれだけで、この映画を見たいと思った。味方だと知らされていたパーシヴァル(ジェームズ・マカヴォイ、以前は端正で優しい表情から善人役が多かったが、最近は「スプリット」の怪演で名を挙げ、本作でも裏切り役を演じている)が実は、KGB側だったりと、展開が目まぐるしい。

彼女、若き日に撮った「サイダーハウス・ルール」の清新さはもはや影も形もなく、むしろアカデミー主演女優賞を初受賞した「モンスター」の頃から、ハードなアクションを得意とするアクションスターに変身してきている。幼少時代の家庭内の悲劇を乗り越え、ダンサーを目指すも、膝の故障でやむなく女優の道へ。それがここまで大飛躍をするのだから、まさに万事塞翁が馬!

中でも、「プロメテウス」、とりわけ「マッドマックス 怒りのデスロード」ではマッチョぶりをいかんなく発揮、”これぞ私の生きる道”とばかり暴れまくったが、本作のアクションシーンはそれをさらに凌ぐほどの出来栄え。もちろんわずかだがCGや、スタントダブルも使ったらしいが、ほとんどを自身でこなしたというから、気合の入れ方が、その辺のただきれいな女優たちとは違う。そもそも体つきが筋肉がつき過ぎてしまって、普通のラブコメディーは無理かなと思わせるほどだ。

最近では、製作総指揮にも活躍の場を広げている。どこまでも意欲的だ。

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20分にも及ぶこのアクションシーンが最大の見せ場かな。ほとんどシームレスな展開に見せているところが素晴らしい。撮影中、実際に階段を5、6段落っこちたらしいから、あちこち青あざ、擦り傷が絶えなかったみたい。

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ちゃんとすれば、これだけの美貌だが、こぶしから腕にかけて、いかにも腕っ節が強そう。下手に近寄ったらぶん殴られそうだ。

2度もどんでん返しがあり、見せ場もバランスよく配してあり、観衆寄りの作り込み方には好感が持てる。

#71 画像はIMBdから。

「ナミヤ雑貨店の奇蹟」

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自分にとっては、まあまあの作品。そもそも東野圭吾の読者ではないし、この種のタイムスリップものは極力避けてきたが、たまたま上映時間の関係と最近、ある人から聞いた評判で見に行くことに。なにも言い訳がましい説明は要らないのだけど・・・。

1980年と2012年、この32年間を同じナミヤ雑貨店を舞台に行き来しながら展開していくサイエンス・ファンタジーってーとこかな。伏線の張り方がうまくて、複雑な人物関係ながら、構成がしっかりしているからブレないところがさすがなのだろう。

つっこみどころは山ほどあって、「あーあ、こんな映画、見に来るんじゃなかった」と終盤まで後悔していたが、最後の展開がよかったのと、エンドロールの山下達郎の歌のすばらしさで、まあまあの部類。

このタイトルに使われている奇蹟だが、昔(1951)、「ミラノの奇蹟」(Miracolo a Milano)というヴィットリオ・デシーカ監督のイタリア映画があったが、それを意識しているかどうか。普通に使われるのは奇であり、神の意志が絡むと奇だということからすれば、本作はどう考えても奇跡でいいように思えるのだが。

#70 画像はALLCINEMAから

「ああ夢の街 浅草!」@浅草東洋館

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このチラシからも雰囲気が伝わってくるが、それは楽しい、楽しい浅草ならではの舞台。ヴォードヴィルという、17世紀末にパリに登場した演劇のスタイルと言っていいのだろうか。歌あり、芝居あり、手品ありという趣向で、大正時代的雰囲気の横溢する舞台。観客席にもモガ・モボがいそうで、楽しかった。普段あまり見ることのない、おひねりが盛んに飛び交う光景も愉快であった。

今日は地元合唱団で指導に当たっている先生と、昔の職場仲間の一人が出演するというので、別のコンサートが終わってから浅草へ回ることになった。小雨だったが、浅草の街特有のアーケードのお陰で、地下鉄降りてから、東洋館までほとんど濡れずに行けてラッキーだった。

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左端、10列目ぐらいに陣取った。

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楽しい舞台を盛り上げた一人、ピアノの名手、山田武彦が音楽監督を務めていたとは!会場に入ると、脇で山田がピアニカなんぞ吹いていて、いきなり面白い光景だ。

それと、なにが愉快と言って、この弁士、麻生八咫の大仰な身振りとこれまた大げさな節回しがなんとも大時代がかって大受け!

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この中では、「おてくさんの歌」というのは初めて聞いたが、それ以外はすべて知っているのばかりで、絶妙な編曲や振り付けが加わり、90分間、たっぷり楽しんだ。

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コスチュームやら小道具類も工夫を重ねていて、大正ロマン感、たっぷり!多分、その時代はこんな風にやってたんだろうか。浅草オペラというのは、大正初期から大正12年(1923年)の関東大震災までが全盛とある。浅草六区、すなわちこの東洋館(浅草演芸ホールの4階)近辺で常盤座、日本館、金龍館などで次々と興行を打っていたらしい。しかし、大震災で、建物はもちろん、大道具、小道具、楽譜までを含めたすべてが消失、結局、大正14年(1925)の、浅草劇場での「オペラ座の怪人」を最後に浅草オペラは消滅したとある。

終演後、ロビーは狭過ぎるので、エレベーターホールまでの階段にぎりぎり並んで観客に挨拶する出演者たち。おつかれさまでした!ロングラン、まだまだ先があるので、最後まで頑張ってください!

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左から根岸一郎テノール)、谷川佳幸テノール)、星野恵理メゾソプラノ

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木綱麻紗子(ソプラノ)、松堂美枝子(ソプラノ)

帰路、アーケードを歩いていたら、何や人だかり。

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猫カフェは聞いたことがあるが、フクロウカフェもあるとは!内部では、こうしたおとなしいフクロウを自由に触ることができるから、ぜひとおねえさんたちに誘われた。

#70 (文中敬称略)



「いしぶみコンサート」@早稲田奉仕園スコットホール

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所属する地元合唱団の団員が出演するというので、初めてのホールへ。

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ある程度の事前情報があったので、演奏会の内容の概要は想像していたのだが、それをはるかに凌ぐインパクトを感じた。内容が内容だけに、これはもう涙なしでは聞けない演奏会だと思った。

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1年生が動員されて、家の解体作業に従事していた場所は爆心から500mというから、その瞬間のことは想像を絶する。おそらく、あの日あそこで起きたこのような悲劇は無数にあり、これはその一つに過ぎないのだと思うと、余計に辛くなる。大変貴重な歌であり、曲であるから、ぜひ永く歌いつなぎ、語り継いで欲しいものだ。

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終演後、小雨の中、ホールの外へ出演者が出て来て聴衆との交歓が始まる。ちょっと絵になるホール外観。

#69

「ドリーム」

171010 原題:HIDDEN FIGURES  米 127分 製作・脚本・監督:セオドア・メルフィ(「ヴィンセントが教えてくれたこ」2014、「ジーザンズ 初めての強盗」2016)

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だいぶ脚色されているらしいが、ほぼほんとうの話をベースにした作品。日本ではもとより、米国でもこの話、知っている人は少ないだろう。

米ソが有人宇宙船打ち上げを競い合っていた1960年代初頭、その成功の陰に天才黒人女性が活躍していたという事実。細かい専門分野は異なれど、いずれも並外れた数学的才能を発揮するキャサリン、ドロシー、メアリー。米国での公民権運動が盛り上がる中、依然として、あらゆるところで、黒人差別が普通に行われ、まして男性優位の社会で黒人女性の出る幕などあろうはずがない。

数々の露骨な嫌がらせにも屈せず、NASAという限られた舞台かも知れないが、ついに自分たちの存在を白人、特に男性に認めさせるに至った、”快挙”には喝采を送られずにはいられない。

作品中、もっとも印象的な出来事といえば、スタッフの一員として白人男性の群れの中で働くことになった軌道計算スペシャリスト、キャサリンがボス(ケビン・コスナー)から、肝心な時にたびたび姿を消すとは一体どういうことだ、と詰め寄られ、ついにキレて叫ぶ。「われわれ黒人はこの建物内のトイレ使用を禁じられていて、毎度800mも離れた別の建物まで小走りに往復してんのよ!私たちにだってトイレぐらい自由に行かせ欲しいわよ!」

当時の雰囲気を醸し出すため、できるうる限り、車やロケットの部品、店の看板や小物類に至るまで当時のものを再現していて美術・小道具係の努力がしのばれるが、さすがに打ち上げや帰還・着水となれば実写映像が多用されている。

偶然ながら、この日、種子島からH2型ロケット打ち上げに成功、日本版GPS衛星「みちびき4号」が無事予定の軌道に乗り、来年あたりからGPSの精度が俄然上がり、数センチの誤差しかなくなるそうだ。これが農業にもたらす画期的な農法が期待されるとか。つまり無人のトラクターが走り回ることになるらしい。

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ソ連に先を越され、意気消沈するも、俄然巻き返しを誓うNASA

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ひさしぶりのケビン・コスナー、腹の出具合が気になる。

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小難しい軌道計算をたちまちやってみせるキャサリンに感嘆しかない白人スタッフ

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ドロシーに大抜擢の事例を渡すミッチェル人事部長(キルスティン・ダンスト、しばらく見ないうち、それなりに年をとった)。それまでドロシーとファースト・ネームで呼んでいたが、初めてメセス・ヴォーンと呼ぶ。

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前代未聞!重要会議へ、同席を許されるキャサリン。飛行条件が会議でひんぱんに変わるため、その場で軌道計算結果を求められることから、会議同席は彼女が課長に頼んでいたのだが、らちが開かず、直接本部長に直訴した結果だ。

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夜間コースながら、初めて白人専用の講義に出席することになったメアリー。白人男性から白い目で見られようが、お構いなし。並みの神経ではもたない。

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アメリカ人として初めてフレンドシップ7で地球周回軌道を飛行することになるジョン・グレンNASAを訪問、彼女たちのことは仄聞していたらしく、案内するスタッフの制止を振り切って、彼女たちの元へ来て敬意を表する。

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試写会のセレモニーでたまたま居合わせたイザベル・ユペールとドロシーを演じたオクタヴィア・スペンサーのツーショット。ちょっと珍しい顔合わせ。

ところで、この原題だが、「隠れた人たち」、と同時に「隠された数字」という意味合いを持たせているようで、なかなか深いタイトル。この「ドリーム」という邦題は、チト安易すぎないかな。

#69 画像はIMDbから