ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

アプリコでスペインに浸る

180603

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うだる暑さの中、アプリコ大ホールへ。今日も熱中症を警戒して、いつもあるくところをバス移動に切り替えた。

7割ほどの入り。前から5列目の左セクション右端というお好みのポジション。だが、前にも経験があるが、ギター表面の照り返しが意外にきつくて、まぶしい思いを何度か。

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必ずしも馴染みのある曲目ばかりではなかったが、これぞスペインという雰囲気はたっぷり味わえた。アンコールはカタロニア民謡「鳥の歌」。(後のおやじが知っている旋律が出たので嬉しかったのか、ハミングするから、参った!(尤も、すぐ制したけどね。)ときどき、こういう不届きものが出るのは困ったものだ。

舞台後ろのスクリーンにスペインの名画を次々に映し出す趣向は悪くない。案内人の浦久俊彦が、部分的には解説するのだが、せっかくそこまでやるなら、できれば、映し出したすべての画家とタイトルぐらい出してくれればなお良かったのに、ちょっと残念。

アルハンブラの思い出」の演奏後、多少時間を使って出演者二人にインタビューが。このギタリスト、そのアルハンブラに行ったことがないと聞いて、少し驚いたが、その後、若いチェリストのお嬢さんが、アプリコホール、そう言えば、アルハンブラ宮殿のように感じます、とか言い始めて、「ハァッ?」

折角、案内人がアルハンブラ宮殿の話をしようと思っていた(と思われる)のに、アプリコ大ホールがいかに素晴らしいホールかという話にすり替わっていったのは、いささか・・・。

演奏自体、お二人とも、文句なしに素晴らしかった。

#37 (文中敬称略)

「男と女の観覧車」

180702 WONDER WHEEL 米 101分 原案・脚本・監督:ウディ・アレン

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今年83歳になるウディ・アレン、まだまだ若々しく、いまだに瑞々しい作品を創り続けていることに喝采!何だろうね、この若さの源は。そして今回の舞台が1950年代のコニー・アイランドというところにも、大いに興味を持った。やはり目の付け所が違う。

そんな非日常空間で繰り広げられる男女の愛憎劇と言ってしまえば、あまりに陳腐で、ウディさんには失礼かも。前の結婚でもうけた男女一人づつの、と言っても一人はまだ少年だが、連れ子がいる再婚夫婦、ハンプティ(ジム・ベルーシ)とジニー(ケイト・ウィンスレット、ケイトさん、まだ43歳だが老けた!「タイタニック」の面影まるでなし!)、ハンプティの娘、キャロライン(ジュノー・テンプル)と、この一家に絡んでくる、ライフガードのミッキー(ジャスティン・ティンバーレイク)が主要登場人物。

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コニーアイランド(ニューヨークのブルックリン地区の南端の半島で、遊園地として有名)で細々と生計を立てている一家。ハンプティは回転木馬の操縦係、ジニーは園内のレストランでウェイトレス、ハンプティは休日には仲間たちと釣りや野球観戦でそれなりに日々を楽しんでいる。

一方、ジニーは、火付けが面白くてたまらないという問題児を抱え、必死に生きる日々。クタクタになって戻る家は、大観覧車の真横で、階下は射的場だから、一晩中うるさく、まったくくつろげない。

そんなある日、ギャングと結婚して家を出て言ったハンプティの一人娘、キャロラインが行くあてがないと、この一家に転がり込んでくるから、大変!最初は、「すぐ帰れ!お前みたいな女がくるところじゃないんだよ。そもそもこっちは縁を切ったつもりなんだから。」と口汚く罵るが、見ているうちに情が募ってくるのをどうすることもできないハンプティ。

結局、今回初めて会った義母と同じところで、ウェイトレスとして働き始めるのだった。ここまでは、多少の感情のもつれはあっても、ほぼ平穏に過ぎて行くのだが、

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ころがりこんできたキャロラインは、ご覧のように、そこそこキュートでもあることから、状況は一気に複雑に、そして元夫のギャングが付近に現れることで、事態は急展開!

人物描写に長けたウディだが、主要人物に、と言っても、ミッキーとジニーだけだが、カメラ目線でながなが状況を説明させる手法は、どうなんだろうね。そもそも冒頭シーンは、ミッキーの独白で、コニーアイランドの紹介と自己紹介。ともあれ、意外な形で一家が崩壊していくのは、いささか後味がよろしくない。

バックに流れる音楽が、もう最高!出だしのミルス・ブラザーズが歌うConey Island Washboardから、やられっぱなし。場面に合わせて、うまくピックアップしている。自分が知っている曲だけでも、Harbor Lights, Kiss of Fire, Till I Waltz Again with You, Let Me Call You Sweetheart,  You Belong to Me, April Showers, Because of You, Red Roses for a Blue Lady, Roses of Picardyと、当時の録音でざっと10曲近くも歌われるのだから、こりゃたまらん。当時の情感をうまく醸し出していて、ここらへんもうまいよ、ウディさん。

ところで、前出のケイトさん、顔もだが、身体全体の雰囲気がとても40代には見えない。どうしちゃったのか。役作りで、こうしていると思いたい。ずっしり重たそうな肉置き(ししおき)が、露わになるシーンがなんどかあり、そっと目を背けた。ウディはケイトを「マッチポイント」(2005)で起用しようと思ってたが、急に気が変わってスカーレット・ヨハンソンにスィッチしたとか。

さて、コニーアイランドのこの大観覧車、つまり本作のタイトルにもなっているワンダーホイールは、1920年から稼働しているというから間もなく100年を迎えることに。ウディさんによれば、観覧車は、登場人物たちの行動や心情のメタファーとして使われたそうで、そこからの眺めは美しく、ロマンスの花も咲くが、ぐるぐる回っているだけで、究極的にはただ虚しさだけが残るといいたいのか。ちなみに、邦題、悪くない。

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ケイトさん、一応おめかしすれば、この通り。

#53 画像はIMDbから。

梅雨明けと第九

180701 スマホに送られてくるニュース速報を見て、そんなバカな!どうせまた後で「実は・・・」とやらかすかと、半信半疑の梅雨明け速報。その、朝から猛暑の中、いつもは歩いて行く蒲田も、ガーメントバッグ提げてとなるとさすがに躊躇われて、バスで移動。

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午後2時開演だが、区長挨拶やら岡田 愛によるモテット、"Exsultate, Jubilate"が冒頭に演奏されるし、合唱団が入場するのは第九の2楽章終了時ゆえ、両袖での待機時間は結構長くなる。ただ今回は170名ほどの大所帯だから、早め早めに動かないと、当日になって何かが起きらないとも限らないから。

アルトとバスは上手袖から入場。山台が8段も組んであり、結構全員勢揃いまで時間のかかること。揃ったところで、着席(と言っても、後ろの山台の手前の空間にちょこっと腰掛けるだけ。かなり不安定な姿勢で、じーっとしているのは案外しんどい。さらに3楽章は美しい旋律が随所にあるものの、ややもすると単調で居眠りが出そうになる。ここは我慢のしどころ。

自分の位置はほぼ中央で、ソリスト4人のうち、アルトの背中をまっすぐ見るポジション。今まで第九は8回歌っているが、今回がベストポジション!

やがてティンパニーの連打と共に、バリトン与那城 敬が立つのと同時に、合唱団全員がさっと(とは行かなかったようだ。高齢者が多いから、まっすぐ立てただけでもこの際、よしとしよう)立ち上がり、さあ、始まった。

与那城 敬の歌唱は見事という他にない。いろんなバリトン、あるいはバス歌手の出だしの名唱を聞いているが、お世辞抜きに今回ほどぞくっと来る歌唱はなかった。やがて呼応する男声合唱のフロイデ!しっかり巻いたRが聞こえる。

やがてソリスト4人が歌い始める。完璧なまでにお上手だ、素晴らしい。これを聞くだけでも第九合唱に参加する意味があると言っても過言ではない。どんどん快調に進んで最大の難所のダブルフーガも順調にすすみ最終部、プレスティッシモに差し掛かる。

不安のあった、急にテンポがゆるむトーホターアウスエリジウムも、まあぎりぎりセーフで、あとはコンミス吉原葉子(生まれも育ちも大田区沼部)のすぐ後ろに控える胃高齢男性ヴァイオリニストの”華麗なる”弓捌きをとくと鑑賞。本番は練習の時ほど、弾き終わった後、高々と上げた弓を、上空でくるりと回すことは敢えて避けたようだ。

終わった、終わった、やれやれ。オケから順にハケて、さらに両脇の女声陣がハケる頃には、会場を埋めていた(9割がたは入った印象だが)聴衆も退場して、がらんとなった中で、男声陣が出ていって、ハイ、今年の第九は歌い納め、かな(?)

正装のままでロビーへ出て来場者と記念撮影する光景はいつもの通り。事故もなくまあまあ、首尾よく行ったほうだろう。

その後、地下の会場でマエストロやソリストたちも参加しての打ち上げが1時間。プログラムにソリスト全員のサインをしてもらう団員、特に女性団員が多いのに驚く。

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バリトン与那城 敬を筆頭にソリスト、マエストロ、コンミス、舞台監督、(財)大田区文化振興協会の担当課長などが次々に登壇して、ご挨拶。みなさん慣れたもので、散々会場を沸かせる。彼は、歌唱も抜群、人柄もすばらしく、ご覧の通り長身イケメンを絵に描いたような存在だけに、特に女性陣から人気は絶大。

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登場前、楽屋で撮影されたらしい一枚。(フェイスブックからお借りしました)

(文中敬称略)

「万引き家族」

180627 原案・監督・脚本・監督:是枝裕和 120分

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実の家族以上にやすらぎに満ちている偽家族。収入源は、ばあちゃん(樹木希林)のわずかな年金、信代(安藤サクラ)のクリーニング屋でのアルバイト代、そして万引き。

一人一人に曰く因縁があり、いつ崩壊してもおかしくない砂上の楼閣。汚部屋に近い一軒家。案外、破綻が早くなる。ばあちゃんが楽しかった海水浴の翌朝、ぽっくり。誰にも知られては困る一家、すばやくばあちゃんを床下に。

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傍目にはほんとうの家族にしか見えない一家だが・・・。

これまでの是枝作品にも共通するが、人というのは、ばかなことを繰り返すものだが、どうあがいても一人では生きていけない、かわいそうな存在で、愛こそが心の空隙を埋め、闇を照らし、自分たちを支えていることにはなかなか気付かない。

血は繋がっていないのに、親子以上の絆が芽生えている治(リリー・フランキー)のところで一夜を明かし、施設へ戻る翔太(城桧吏)を見送る治、バスが走り出し、懸命に後を追う治の心が切ない。

凛と名を変えたゆり(じゅり)が、本当の両親の家に戻されたものの、そこは愛の感じられない空漠とした世界。バルコニーに出て踏み台に乗り、凛が遠くを見るラストシーンが秀逸。

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カンヌではすっかり常連になった是枝裕和と出演者たち。監督が絶対的な信頼を置いているメインキャスト陣。翔太役の男の子は、撮影中にどんどん成長していき、終わりの方では、体つきも風貌を変わっている。

#52 画像はALLCINEMA on lineから

歌劇「劇場支配人」+「魔笛」@かつしかシンフォニーヒルズ

180623

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地元合唱団の指導者がパミーナを演じたので、他の団員10名ほどと前から4列目に陣取り、大喝采とブラーヴァを盛大に送った。出演の合唱団員の中に、嘗て第九を一緒に歌った仲間を発見したのも嬉しいことだった。

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「劇場支配人」という演目は初めて聞いた。事前にYouTubeで検索しても、序曲ばかりで、歌手が登場するものがない。それもそのはず、上の説明で納得!下の「あとがきに代えて」に登場する黒田裕史の脚本はよくできていて、十分楽しめた。ソプラノ二人の競演も、なかなか聞き応えがあった。

ちなみに序曲だが、いかにもモーツァルトらしい、ウキウキワクワクするようなメロディーが随所に顔を出し、これだけが単独で演奏されることが多いのも大いに頷ける。

 

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魔笛はもう何十回となく聞いているが、その都度演出や解釈が異なるので、毎回それなりに楽しめる。

今回は演奏会形式ということで、男性陣はすべてタキシードの正装だが、女性陣はそれぞれ工夫を凝らした可愛らしい、或いは豪勢なコスチュームで会場を湧かせていた。振りも適宜加わるし、背景の映像にも工夫が凝らしてあり、字幕も分かりやすく、全体にそれほどの違和感を感じずに楽しめたのはありがたい。

この寄せ集めと思われる「テアトロ・フィガロ管弦楽団」のうまさには脱帽だ!もちろん、小編成ながら合唱団もよく鍛えられた印象を受けた。

パミーナの藤永和望、この役柄にぴったりの美声の持ち主。夜女の内海響子は、黒地に銀色の縫取りのあるゴージャスな姿でせり上がって登場し、場内からため息が漏れるほどの存在感を示したが、肝心の超有名なアリアでは、失礼ながら、やや不発だったのは惜しまれる。

タミーノ、藤田卓也、藤原が誇る屈指のテノールだが、前半は今ひとつ調子がうわずった印象を受けた。しかし、徐々に本来のテクニックを取り戻し、終わってみれば、さすがの名唱の連続となった。

パパゲーノ、大川 博(元東映社長と同姓同名)は、歌唱も素晴らしかったことに加え、演技がそこぶる自然でパパゲーノになりきっていたのは賞賛されるべきだろう。終演後、本人に何度目か確認したら、なんと今回は初役!そんなことって???

ナレーションが入る分、舞台上の動きを割愛してすこし短縮したらしいが、実際には140分かかっていたので、ほとんどカットした場面が分からなかったほど。

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パミーナ、衣装は自作らしい。才能ある人は何にでも。合唱団のメンバーと。

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パパゲーノを見事に演じたバリトン大川 博と、うちの団員。

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ザラストロを演じた高橋雄一には、2年前、海の日のチャリティーコンサートでロッシーニの小荘厳ミサを合唱で歌った際、ベースのトラで参加され、お世話になった。今日は難しい役どころのザラストロを立派に歌いきった。

#36 文中敬称略