ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

ヴォーカルとピアノのジョイントコンサート@アプリコ小ホール(蒲田)

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所属する地元合唱団で、時折歌唱指導もしてくれる山形明子と、彼女の大学時代のクラスメート、秋山有子のジョイントコンサートが近くのアプリコ小ホールで開催された。

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出だしはさすがに緊張気味であったが、後半、エンジン全開で、圧倒的な声が小ホール内に響き渡り、後方席に陣取っていた当方にもビンビン。イタリア歌曲、ドイツ歌曲、イタリアオペラのアリア、日本の歌、合間にピアノの小品をはさむ構成。

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後半の聴かせどころ、UNA VOCE POCO FAは小気味いいアジリタが要求される、なかなかの難物、手こずりながらもなんとかこなしていて、molto brava!、んで、拍手が鳴り止むと、再びUna voceの前奏が始まり、「ナニゴト!」と思っていたら、これが見事な編曲で、途中から「めえめえ仔山羊」へと歌い継がれるという意表を突く趣向、大いに笑った。

会場に姿のあった作曲家岡崎清吾の作品、「白木蓮」、しっとりと美しく聴かせてもらった。いい曲である。

アンコールでは、これまた意外性たっぷりのエンニオ・モリコーネ作の「カリッファ」、何十年も昔、ミルヴァのレコードでなんども聴いていた懐かしい曲である。

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エンニオ・モリコーネがミルヴァに捧げた曲集。1972年のレコード。最初の曲がCaliffa。

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終演後、小ホールフォアイエで

 #67 文中敬称略

浅草オペラ@浅草東洋館

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チラシの絵柄は2017のものと同じものが使われている。

久しぶりに浅草オペラを見に行った。都営浅草線の駅から東洋館への道すがら、いろんなお店、主に飲食店と観光客相手の土産屋だが、ずらりとが並んでいて、どの通りを歩いてみても、実に楽しい。今日は、天ぷら屋の老舗、葵丸進を右折、オレンジス通りを直進、伝法院通りを左折して8分ほどで目指す東洋館へ。浅草演芸ホールの4階にある。横の入り口から小さなエレベーターで上がるが、ビートたけしがエレベーターボーイをやってたというエレベーターらしい。今回は割に早く入ったので、前から2列目に陣取る。

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誰が何を歌うかは、事前に発表されないから、挟み込まれたこの表で初めて確認できる。

2年前、初めてここに来た時は、我が合唱団の指導者の一人が出演し、彼女に誘われて行った記憶があるが、今回は「カルメン」が含まれたBプログラムで、都合の良い日ということで決めたのだが、なんと知っている歌手はたった一人。出演者リストにある歌手たちのうち14人も知っているのに、1/14とは!と、少しがっかりしたが、まあ、知らないからと言って、楽しみが減るわけじゃない。たっぷりと古き浅草オペラの雰囲気を満喫してきた。あちこちから飛ぶ大きな掛け声、またおひねりが投げ込まれる様子が実に独特で、客席と舞台の一体感がたまらない。

#66

 

「カルメン」@神奈川県民ホール

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 すごいキャスティングだ!まさに両組とも綺羅、星のごとし!今回は3階席最前列中央という、コスパのいい席から観劇。オペラグラスを持って行ったから、視覚的にも十分満足。

昨日、低予算の公演を見たばっかりだったので、このカルメンの舞台のきらびやかさには目を奪われた。これは潤沢な予算で組まれた公演だから、まさに対照的。

今回の田尾下演出は、舞台設定が現代のニューヨークのショービジネスという、まあ言わば奇をてらったと言われても仕方のない演出・舞台設定である。これをフランス語でやって、さらに闘牛士などの扱いにも違和感があるし、自分にはやはりなじみにくく、本来の方式でやって欲しかった。

とは言うものの、よくうまくマフィアなどの登場する一種の裏社会の設定に出来たと、特に後半は感心して見ていたのも事実。この辺の才能は素晴らしいと思うが、カーテンコールでは一部ブーイングがあったのは、ま、仕方ないというか、こうした新演出の宿命だろう。

カルメン役のこのブルガリア人、ウーン、なんとも表現しにくい歌手!声や仕草は、やはり日本人にはないものを持っていることは認めるとしても、これぞカルメンという風には思えない、なんか違う感じが否めない。日本人共演者とのケミストリーが不発という印象だ。

ホゼの城宏憲、端正なマスクと声ですっかり売れているが、このカルメン役を相手にすると、気の毒なほど影が薄れて見え、聞こえるのは残念だった。多分、もっとアクの強いテノールの方が向いているのか。

そう言う意味では、エスカミリョの与那城 敬も同様で、端正すぎて、いささか物足りなく感じてしまった。だから、全体の調和を考えた舞台にするのはかくも微妙な難しさがあるということか。

そんな中で、ミカエラ嘉目真杞子は、うまくこの舞台に収まったと言えるのではないだろうか。

ところで、フラスキータとメルセデスだが、青木エマの演技には恐れ入った。日本人離れした手足の長さと高身長で、普段着ることのないような大胆な衣装を身につけていたので、これは彼女以外にやり手がいないような特異なキャスティングに映った。

対する富岡明子は、割りを食ったというか、もちろん定評ある歌唱は断然輝きを放っているが、フラスキータと同じ格好をさせられているのが、気の毒なように感じて、それが気になって、なかなか歌唱に没入できなかった。

モラレスの桝 貴志、久しぶりだ。関西ベースで活動しているから仕方ないが、以前は東京でもっと活躍していて、聞き惚れた逸材。スニガの大塚博章も申し分なし。

合唱団、子供達も生き生きとした演唱は聴衆を魅了し続けた。自分も今年はカルメンの合唱をやっていたので、大変懐かしく、いつの間にか心の中で唱和していた。

両サイドに縦に流れる日本語字幕とは別に、舞台上部に英語字幕が流れるのは初めての経験で、世界でも稀なる二か国語字幕!田尾下 哲が自ら製作したようである。凝り性なのか。

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#64 文中敬称略

「マクベス」@シアター1010(北千住)

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昨年の「ナブッコ」に続いて、アーリドラー歌劇団の本公演を観に行った。「マクベス」は、ヴェルディ1839年から54年間に亘り28作のオペラを作曲していて、本作は10作目というから、「ナブッコ」、「エルナーニ」と並ぶ前期の傑作ということになるだろう。

今回も低予算でよく頑張っている。オケも合唱も実に立派である。合唱団員にはプロの方々もかなり加わっていることもあり、うまさは特筆に値する。

こういう本格派オペラは舞台装置に予算を多く取られがちだが、よく工夫されていて、今回も大いに感心した。8m X 10mほどのボードを天井から吊るし、状況によりさまざま角度を変えたり、床面に立てて背景として使うなど、うまく案出したものだ。

加えて、照明が素晴らしい効果を生んで入る。照明の名手はその名も照井さんとおっしゃるから、覚えてしまった。終幕でマクベス軍がバーナムの森が動いたことで動揺、マルコム(マクベスが謀殺したダンカン王の遺児)軍に破れるところも、そのボードの裏でチャンチャンとやったことにするのだが、それも特に違和感も覚えず。

ソリスト陣、タイトルロールの清水良一が体調不良で、不発。レイディー・マクベス斎藤紀子は以前にもなんどか聞いているが、さすがになかなかの巧者で、声もすばらしい。最高音域に達すると、時に絶叫風に聞こえてしまうところが惜しい。

マクダフを歌った青栁素晴は、なんども拙ブログで書いて入るので、詳しいことは省くが、本作では一番いいアリア(と愚亭が勝手に信じている)O, FIGLI MIEIを見事に歌い一番大きな喝采を浴びていた。

バンクォー役のベテラン、志村文彦、相変わらず素晴らしい低音を響かせてくれ、忘れがたい印象を残した。

モダンバレエが十数分、素晴らしい演技を見せてくれたのも収穫。他に、魔女たちも歌唱も演技も見応え、聞き応えたっぷりであり、また魔女の中には合唱にも登場する歌手たちがかなりいて、楽屋での衣装早着替えに追われて大変だったろうと想像する。

字幕について、一言。舞台に明るい照明が当たると、かなり見えにくくなるのは、なにか一工夫してほしいところ。

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バレリーナたち!Braveでした!

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冴えてた魔女たち。コスチュームも素晴らしい!

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左からレイディーマクベス、マエストロ、マクベス、マクダフ、マルコム

蛇足だが、このオケでチンバッソが使用された。バストロンボーンより下を受け持つ楽器で、ロータリーバルブ方式なので通常のトロンボーンとは吹き方が異なる。狭いオケピット向き。マウスピースはチューバと同じものを使用する。日本で見かける機会は少ないと言われている。

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主催者から含蓄たっぷりのメッセージ。

#64 文中敬称略

「コートールド・ギャラリー展」@東京都美術館

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同展のHPから概要を以下に抜粋。

ロンドンにあるコートールド美術館のコレクションから、印象派・ポスト印象派の作品を紹介。実業家サミュエル・コートールドが収集したコレクションを核に1932年に設立された同館は、美術史や保存修復において世界有数の研究機関であるコートールド美術研究所の展示施設。本展覧会では、その研究機関としての側面にも注目し、画家の語った言葉や同時代の状況、制作の背景、科学調査により明らかになった制作の過程なども紹介し、作品を読み解いている。

この美術館、昔、まだコートールド美術研究所付属画廊と言われた時代に一度だけ行ったことがある。1968年の夏。添乗員としてロンドンに立ち寄った際、誰かに誘われて行った記憶がある。従って、何を見たのか定かでないが、この「フォリー・ベルジェールのバー」のことはよく覚えている。あの頃は、ラッセル広場の一角にあったが、今はテムズ川に面する堂々たるサマーセットハウス内に移転している。

実はこの美術館展、以前東京で開催されているのである。姉によると1997年12月に、なんと日本橋高島屋で開催されたというから驚きだ。しかも131点も展示されたというから、今回の展示数の倍以上である。今回同様、その時も改修工事中に貸し出し先として東京となったようだ。今回展示されている作品はほぼ全部22年前にも来ていたようだ。

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何と言っても、同美術館を代表する作品として断然光を放っているのがこれだろう。先日のNHK日曜美術館でも詳しく紹介されていたが、いろいろ謎に満ちた作品ということになっていて、まずは構図が実際にはあり得ないというもの。もちろん、そんなものは画家が自由に構成すればいい話だから、謎というほどのこともないし、このバーメイドを正面向きに描けば、鏡に写っている後ろ姿は、こちらからは見えないのだから、このようにずらすことで解決しているのだ。

またこの無表情さについても、同番組では、いろんな人がいろんな意見を開陳していたのが面白かった。まあ、その辺は見る人の勝手だからねぇ。この時代のマーメイドは娼婦という別の顔ももっていて、そういう風に時代背景を考えれば、確かに様々な解釈ができる表情である。背景についても、細かく見れば実に興味が尽きない。

本展では、サミュエル・コートールドの邸宅の壁面とおぼしき映像が館内の壁面に投影されており、当時の雰囲気をかすかながら辿ることができる。こういうところ、日本の美術館はうまく対応していると思う。

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「大きな松のあるサント・ヴィクトワール山」 ポール・セザンヌ

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「秋の効果、アルジェントゥーユ」 クロード・モネ

遠景の高い塔は、工場の煙突と思われがちだが、実は教会の鐘楼とか。

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「桟敷席」オーギュスト・ルノアール

舞台より客席を眺めている後ろの人物(モネの弟?)の姿が面白い。手前の女性も見られていることを十分意識しているポーズ。

 

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これも超有名な作品だが、おなじ絵柄で何点か制作していて、それらが図解入りで紹介されていた。二人バージョンの他に、5,6人バージョンも存在していること、初めて知った。

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自身、税関吏だったアンリ・ルソーが描く「税関」。想像上の場所らしい。

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「窓辺の女」 画法をいろいろ試したドガ、本作では、精油に溶かした絵の具を使用。未完成。

今回の展示作品は、油彩以外も含めて60点ということだが、60点ということだが、どれも貴重な作品ばかり。改修工事が完了すれば、当分日本にこれだけまとまって来ることは考えられないので、美術ファンには必見!12月15日まで!