101216 新宿ピカディリー
一応、これでも時代劇だ。殺陣は一切なく、そもそも刀の刀身すら見えることはない。
「たそがれ清兵衛」を始めとする藤原周平原作の作品も、長き平和の時代での海坂藩が舞台だから、ちゃんばら作品とは一線を画するが、それでも概ね終盤には必ず激しい殺陣が登場している。
ところがこの作品には争いごとすらなく、気味の悪いほど淡々と物語が進行する。正直、平板で、盛り上がりには欠けるが、微笑ましくも笑いを誘う場面が随所にあり、それはそれで十分楽しめる異色時代劇。
幕末の加賀藩、ご算用者(会計係)の猪原家三代に亘る物語。同じご算用者の父と共に毎日規則正しく登城して、日がな一日そろばんに明け暮れる猪原直之(堺 雅人)は、どんな些細な計算ミスも見逃せない性格から「算用バカ」と周囲から陰口をたたかれるほど、融通の効かぬ男。技術者としては超一流だが、城仕えとしては寧ろ愚鈍と思われている。それでも大過なく過ごして、人並みの昇進は続けている。
ある日、ふとしたことから我が家の財務状況をつぶさに点検すると、何と大幅赤字であることが判明。主に父信行(中村雅俊)が江戸詰時代に作った借財である。このままでは破たんを免れないことを悟った直之、傍目も構わず徹底的倹約令を断行。同時に、金目のもので当座不要なものは一切合財売り払うことを家人に宣言。
これまで曲がりなりにもそこそこ楽しみもある人生を送ってきていた信行や母常(松坂慶子)にとってはまさに降って湧いたような災難で、パニックに。信行の書画骨董から常の和服まで、当座絶対に必要であると認定されないものはすべて仕分け対象。古物商を呼んで見積もらせ、瞬く間に売却。世間体は大いに悪いが、このお陰で乱世を何とか切り抜け、子の成之へ家督を継がせることができたのであった。
↑息子の成人式の会食に鯛を賄う費用が捻出できず、妻の描いた「鯛」を膳に並べ、一堂アゼン。
主役堺 雅人はいかなる場合も顔の表情に変化が見られないのはやや不自然に感じた。松坂慶子さん、一段とご立派な体格に。(カトリーヌ・ドヌーヴといい勝負だ)、中村雅俊、うまい老け役。草笛光子さん、品のいいおばばさんをきりっと演じていた。仲間由紀恵さん、コメントなし。
#60