ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「偽りの人生」

130717 有楽町TOHOシネマズ・シャンテ・シネ 原題: TODOS TENEMOS UN PLAN(人は誰にも目標がある)117分 アルゼンチン/スペイン/ドイツ [監督・脚本]アナ・ピターバーグ [製作・主演]ヴィゴ・モーテンセン

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一卵性双生児としてこの世に生を受けたのに、数十年も経ってみると、二人の間に生じたこの格差はどうだろう!

 

ペドロは、幼少時代を共に過ごした、インフラも整わない寒村ティグレに養蜂業をなりわいとして、依然侘しい一人暮らし。しかも、癌に侵され、余命いくばくもない。

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アグスティンは、医者として成功し、上流階級出身のクラウディアとブエノスアイレス市内の高級マンションに二人暮らし。兄弟はまったく接点もないまま過ぎて行く時間。

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ある日、突然兄ペドロが上京、弟アグスティンを訪問し、このまま生きていても辛いだけだから、一思いに殺してくれと頼む。驚きためらう弟、だが浴室で雑談中に喀血し激しく咳き込むペドロを見ているうちに、衝動的に殺害してしまう。

 

実はアグスティンも、見かけとは異なり、決して心豊かな生活を送っていた訳ではない。クラウディアの強い希望で養女を迎えることに一旦は同意したものの、土壇場でこれに反対し、最近では夫婦仲は冷える一方だ。

 

兄を手にかけてしまった今、アグスティンは、残りの人生をペドロとしてやり直してみようと、ティグレに向かうのだった。だが、そこで待ち受けていた人生は・・・。

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アルゼンチン映画は「瞳の奥の秘密」(2009)以来、久々に見た。滅多に日本で公開されないから、ま、当然だが。二役のヴィゴ・モーテンセンが素晴らしい。名前からして北欧系だが、一時アルゼンチンで生活したことがあるとかで、スペイン語も流暢らしい。北欧系特有の哀愁を帯びた瞳が、時に哀しく沈み、時に激しく意思の強さを語る。

 

結局、アグスティンが描いたいたような展開にはならず、彼自身にも悲劇が訪れ幕となるのだが、兄を殺してまで、今の生活を捨てて、寒村での生活に憧れるという必然性がすこぶる弱いところに、違和感が最後までつきまとう。脚本はその辺り、もう少し丁寧に前半部分を語ってもよかったのではないか。

 

それにいくら一卵性で、顔や背丈がそっくりでも、なりすました兄の過去を知らない訳だし、癖や話し方で、周囲の人間から見れば一発で別人で分かる筈。そこはかなり無理があると思うね。というわけで、一見よく出来た作品かと見まごうが、もろい構築が透けて見えてしまう。

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左は監督のアナ・ピターバーグ。何とまだあどけない表情の若い女性である。

#55 画像はALLCINEMA on lineから。