ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「大統領の執事の涙」

140218 原題:The Butler 米 132分 [監督・製作]リー・ダニエルズ、(尤も、製作には実に40人以上の名前がエンド・ロールに延々と登場する!)ウィル・ヘイグッドの、実話に基づいた原作の映画化。出演者は他にも実に多彩、多数である。ヴァネッサ・レッドグレーブが導入部にちょい役で登場。更に、自身、僅かに黒人の血が入っているとは言え、マライア・キャリーが黒人役で出演しているのは、ちょっとした驚き。

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主演のフォレスト・ウィテカー、まだ51歳だが、出演作品、極めて多し。初めて見たのは、本作でも共演していロビン・ウィリアムズ主演の「グッドモーニング、ベトナム」(1987) 特異な風貌で、一度見たら忘れれない強い印象を残す。本作では数十年に亘る役を見事に演じ分けている。

 

アメリカ深南部、典型的な綿花農園で、悲惨な奴隷生活を強いられ、しかも両親を白人の無慈悲な暴力で失うという辛酸をなめ、以後、白人には一切逆らわないことを決意。白人のハウス・ニガーとして一から叩き込まれた主人公セシル、その勤勉実直さゆえ、次第に頭角を現し、ついにホワイトハウスの執事に抜擢と言う幸運を射止める。この辺は運というより他なし。

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そして、実にアイゼンハウワー(ロビン・ウィリアムズ)からレーガンアラン・リックマン)まで7人の大統領に仕える。この間、徹底して政治には無関心、「見ざる、聞かざる、言わざる」精神を貫き通す。

 

それでも、同じ職にありながら、白人執事とあらゆる面で差別されている待遇には、次第に我慢ならなくなって、彼に一番の信頼を寄せるレーガンに、とうとうそのことを直訴。ついに同じ待遇を勝ち取る。レーガン夫人のナンシー(ジェーン・フォンダ)に、そのことを誉められ、とまどうセシル、このシーンは印象的だ。

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ケネディー夫妻とキャロラインも登場。こうして裏方の一人一人に声をかけるシーン。

ホワイトハウスで活躍する彼も、家のことには無頓着、愛妻グロリア(オプラ・ウィンフリー)もそのことには我慢がならない。ケネディー暗殺の報に接し、嘆くセシルに、「あらそう、そりゃ気の毒ね。でも、我が家には関係ないことよね」と冷たく応じる。

 

父親のような道を歩みたいと言う無邪気な次男に対し、子供の頃から差別問題に深い関心を寄せ、過激な反政府運動に次第に身を投じていく長男。ついには、勘当同然で飛び出て行く。ベトナムで戦死した次男の葬儀にも駆けつけない長男を、セシルは許さない。

 

足腰が弱り、執事の仕事を続けるのは無理と悟ったセシル、とうとう辞表を出すことに。「君が一番尽くしてくれたよ」と労をねぎらうレーガンアラン・リックマンが最も大統領に似ていた)、正式な晩餐会にセシル夫妻をゲストとして招待するという乙で細やかな心遣いをして、夫妻を感激させる。

 

自由の身になったセシルにとって、唯一気がかりだった長男とも、ごく自然のなりゆきから和解、すでに一議員として活躍する長男夫妻や孫に囲まれ、やっと平穏な余生が。映画のエンディングは、黒人初の大統領によるスピーチ。

 

黒人差別が当たり前だった50, 60年代から、次第に公民権運動が盛り上がり、キング牧師暗殺から、ケネディーによって公民権が確立し、黒人が対等の権利を勝ち取るまで、ホワイトハウスの執事として、黒人の視線でアメリカの一時代を捉えた希有な作品。

 

 

#13 画像はIMdb及びALLCINEMA on lineから