ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「ダブリンの時計職人」

140411 原題:PARKED(駐車して)アイルランドフィンランド合作 [監・脚]ダラ・バーン (初の劇場用作品)94分 2010年作品を実に4年も遅れて日本で封切り?!どうなってんだろうね、この辺のことは。確かに製作費激安のマイナーな作品かも知れないけど、冬のダブリンを舞台に、しみじみ心に響く佳作。せめて1年遅れぐらいで見せて欲しいね。

 

ロンドンで失業、故郷のダブリンに舞い戻ったしがない時計職人フレッド(コルム・ミーニー)、住む家もないから、失業手当も支給されず、寂しい海辺の駐車場での車上生活を強いられる。どう見ても60代のこの男、どうやら家族もいない様子。結構みじめな生活ながら、呑気なのか余り切実感がない。しかし、同時に矜持のようなものも感じるのは、ロンドンでいっぱし時計職人をやっていたということか。

 

車上生活とは言え、一通り生活に必要な一切合切は積み込んである。蛇口の付いた飲料用ポリタンクや、ミニプランターの植物まで。手早く歯磨きをした後は、きまってこのちっぽけな植物に水を遣るあたりに、フレッドの優しさがにじみ出ている。そうそう、勿論商売道具の時計修理工具一式も。

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ある日、近くに駐車した車から若い男が挨拶に来る。最初は取り合わないが、どことなく憎めない風貌のカハル(コリン・モーガン)に、フレッドも気を許し、すぐに打ち解け、親しくなる。フレッドが近くの公衆トイレで身体を洗っていると聞いて、町営プールに入ることを勧め、ある日二人でプールへ。

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そこで、偶然知り合った中年女性ジュールス(ミルカ・アフロス)はピアノレッスンで生計を立てているフィンランド人。亭主に死に別れ、今は一人暮らし。フレッドとは年は離れていても、どこか互いに気になる存在に。

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一方、二十代のハルは、父親と折り合いが悪く、家を飛び出して悪い仲間とつき合ううちに、麻薬中毒になっているが、このことはフレッドには決して明かさない。でも、大人の勘からか、フレッドはそれとなく気付いている。

 

こうして、年齢も、育った環境も、現在の境遇も何もかも違う男女3人が、少しずつ心を通わせて行く姿を、静かな旋律をバックにしながら、淡々と物語は進行していく。暗転と、その後の新たな展開へ向かって・・・。(中国の古い言葉「忘年の交わり」を思い出す)

 

冒頭とエンディングは、同じ場面だが、ドキッとする仕掛けだ。海に向いて一人座っているフレッド、手前に駐車している彼の車(マツダの626)。突如、真上から何やら巨大な手のようなものがしずしずと降りてくる。これがなんと・・・。

 

面白かったのは、三者三様、しゃべる言葉が違うことだ。フレッドはアイルランド人だが、一応ロンドンで暮らしていたから、正統イングリッシュ、カハルは土地の若者特有の訛り丸出し、そしてジュールスはフィンランド人だから、いかにも外国人のしゃべる英語という具合。 

今回、初めて新宿南口、大塚家具店近くのK'sシネマへ行ったが、10年も前にオープンしていたとは!路地裏で、しかも3階にあり、目立たない看板がチラッとでているだけだから、こりゃ知られてないのも無理はない。でも、内部は小さいながらも清潔でこざっぱり、椅子もなかなかいいし、スクリーンも見やすく、全体に快適。

 

#30 画像はALLCINEMA on lineから