160925
オペラプロデューサー、フランコ酒井氏による恒例のシリーズ、今年はこんなタイトルで、大いに興味をそそられる構成なのだが、この日、他にも話題の音楽会が開催されたためか、意外に入りが悪い。昨年に比べ、多少入場料アップも響いたのかも知れないが、これほどの歌手たちによる珍しい企画なので、実にもったいない気がする。
ご覧の通り、素晴らしいラインアップ!
これまでの企画と異なる最大の特徴は、オペラに登場する詩人にスポットを当て、それぞれにアリア、重唱、シェーナを割り振った構成だろう。珍しくロシアものがエントリーされていて、滅多に聞くことのないロシア語の楽曲が聞けたのも貴重な体験。
対して、フランスものは珍しくないが、フランコさんの丁寧な解説で、この演目の奥深さを知らされた。岡田尚之vs.鳥木弥生という組み合わせもとても新鮮だった。フランス語は、イタリア語に比べれば、きっと歌いづらいものと勝手に決め込んでいたが、鳥木さんに言わせれば、まったくそのようなことはないと断言された。目から鱗。
次のラ・ボエームももったいないほど豪華な布陣。安藤赴美子さんの定評あるリリックなソプラノは、さらに輝きを増したように感じられた。ロドルフォの小笠原一規さん、難なく難所のla speranzaを切り抜けて、さらに二人で舞台から消えて行く1幕のエンディングの最後の高音域、ギリギリまで延ばしたユニゾンのきれいなこと!佐藤亜希子さんのムゼッタだが、長身で、鮮やかな紅のコスチュームを着こなし、ド派手な歌いっぷりも印象に残った。
アンドレア・シェニエにも痺れた。笛木博昭さん、日本で一番声のデカいテノールかも知れない。今日一番のブラーヴォを浴びていた。この人には、アイーダ、ナブッコ、オテッロなどのグランドオペラこそが似合っている。風貌やガタイの大きさもあり、ロドルフォ、ピンカートン、ネモリーノなどはあまり似合わないね。
対する野田ヒロ子さん、とりわけpianoからpianissimoの美しさは天下一品である。海外でもあのような歌い方ができるソプラノはそういないように思える。
最後の演目、トロヴァトーレ、山口安紀子さんのTacea la notteの第一声を聞いて、あの時(昨年12月の仮面舞踏会)の興奮が蘇った。まるで鼻歌を歌うようにして軽々と、やや粘質でつややかな発声ができてしまう。あら、不思議てな感じで、超人ぶりを発揮。いやはや凄いレオノーラの登場だ。
小林由佳さんのアズチェーナも、強い印象を残した。細い身体で、凄みのある低音がよく出てくる。プログラムも残り少なくなったところで、ハプニングが。進行のフランコさんから残念なお知らせとして、城 宏憲さんが風邪を引いて本調子でないから、励まして欲しいと。その時点で、こりゃDi quellaは、諦めざるを得ないと、当方は覚悟を決め込む。果たせるかな、Ah Sì ben mioを歌い終わったところで、城さんは袖に引っ込んでしまった。
実は、ここからがびっくりの展開!なんと小笠原さんが代役で登場、この難曲をいきなりのぶっつけ本番で、見事にAll'arme~~~を歌いきってしまったから、場内大騒ぎ。いやあ、驚いたのなんの。最後の最後にこんな事態になろうとは!
尤も、終演後、5人のテノールが出てきて、お定まりのO Sole Mioを熱唱、城さんも元気に歌いきったが、先のことを考えれば、やや心配である。若いから、なんでもチャレンジ精神で、引き受けるのだろうが、喉の酷使は、ボディーブローのようにじわじわと効いてくるかも知れず、今は、もう少し喉を労って欲しい。
伴奏の藤原藍子さん、長丁場をにこやかに、そして流麗に乗り切ったのはさすがである。今や藤原歌劇団の至宝的存在だろう。
進行のフランコさん、余計な感想は一切挟まず、曲の解説だけにとどめていたのもよかったと思う。
カーテンコールでは、大隈さん(右端)、お子さんを連れて登場。
ファンと一緒の打ち上げで挨拶される小林由佳さん。
同じく野田ヒロ子さん。
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