220406
シリーズの1回目。平日の午後ということで、入場者はかなり少なめだったのが残念です。こんな環境下でこれだけ立派な公演が実現できたことだけでも、主催者はじめスタッフ・キャストに敬意を表したいです。
よほど工夫されたようで、コンパクトながら、じっくりたっぷり楽しめました。まず、司会・進行役の宮下美和さんが登場し、挨拶の後すぐ主催者の大久保 眞さんが。そして、二人で演目の紹介とナレーションを担当、これが意外にも(失礼!)大変効果的で、うるさすぎず、適度な”濃さ”で、心地よかったです。
冒頭、「妖精ヴィッリ」からのアリアでソプラノ本松三和さんが美しい声を披露された後、「待ってやしたあ!」青栁素晴・江口二美夫妻が、それこそ夫婦でないと出せないような空気感で「マノン・レスコー」からのアリアとシェーナを熱演してくれました。舞台に椅子を一脚置いただけですから、演技するのもいろいろ工夫が要ります。見えないものを聴衆には見えるかのように演じるのですから、それは大変です。
実は今から14年前にも、江口さんのマノン・レスコーを見ています。まだ独身の頃で相手役は別のテノールでしたが、この時の鮮烈な印象が残っています。なにせ今でいう美魔女、ファム・ファタルですから、アメリカに流刑にされても、ついていっちゃうんですね、男はバカですから。そうなる運命を予感しつつ、アメリカの荒野で破滅的な最期を遂げるという、まあ、オペラではよくある展開ですが、しっかり見せてくれました。
後半は、これまた悲劇の終幕が待っている悲話ですが、主役二人の純粋さが涙をしぼるというところが日本人受けする、ま、もちろん日本だけではないですが、とりわけ日本人の心に響くというか、そんな感じのするオペラの代表格でしょうか。
有名なアリアが連続する第1幕では、暗闇でわざと鍵を落としてロドルフォをたぶらかす(とすれば、純愛でもないかも)ミミが、これまた鍵を見つけながらもポケットに隠しちゃう、下心見え見えのロドルフォ(どっちもどっちか)に手を触らせて「しめしめ」ってなことで、まずはロドルフォの自己紹介「冷たき手」が聴きどころです。最高音ハイ Cに達するla speranzaが近づくとハラハラドキドキ。
本公演では、ここで拍手・ブラーヴォを入れるヒマなく、すぐミミの「私の名はミミ」に移ることが普通ですが、今日はきちんと倉石 真さんに拍手。事前にやっちゃダメと言われていたのにお一人だけ平気で「ブラーヴォ」をする人がいて、「あらら!」でしたが、まあいいでしょう。言われた歌手も嫌な気分にはなりませんからね。
2幕、当然ムゼッタの「私が街を歩けば」は省けません。マノンの江口二美さんの再登板。今度は一転、真っ赤なドレスで登場、軽やかに、あでやかに歌いました。共演(歌いませんが)マルチェッロ役には進行の宮下さんが、ソフトを被り、見事に演じました。ミュージカルの演出・脚本・振付もやるプロですから、もう身体のちょっとした動きだけで場を盛り上げていました。
3幕のミミの辛い別れの曲に続いて終幕、ここはもうこれだけ簡素な舞台でもどうしても涙なしには見られません、聴けません。まあ、やはりジャコモ・プッチーニさん、すごいです。
一番左側は一人で奮戦されたピアニストの新保あかりさん。おつかれさまでした!
ちなみに、このホール、初めてです。大ホールにはもう数えきれないほど来ていますが、小ホールはまったくご縁がありませんでした。こじんまりと小綺麗で、なかなか感じの良い会場でした。