180718
珍しい展覧会へ。小ぶりながら、見応えたっぷりというのが鑑賞後の第一印象!内外の巨匠たちがこうした庶民的な画材で作品を多数残していたことに、ちょっとした驚きを感じた。
子供の頃には誰でもクレヨンやクレパスに親しんだものだが、そもそもクレヨン、クレパス、パステルの区別がつかない。本展の協力に名を連ねている(株)サクラクレパスによれば、、
日本では大正時代に作られ始めたクレヨンは、顔料を固形ワックスだけで練り固めたもので、硬く、塗った紙に定着し、艶があり、手にベとつかない、などの長所が歓迎された。
反面、硬くて滑りやすいという性質上、線描が中心となるので表現に限界が。しだいにパステルのように画用紙の上で混色したり、のばしたりすることができるなど、高度で幅広い描画効果が得られる性質をもったクレヨンが求められるようになっていった。
しかし、パステルは顔料を結合材で固めただけの描画材料ゆえ、紙などの基底材となる表面の凹凸に顔料が擦り付けられている状態なので、仕上げにフィキサチーフという定着液を霧状にして吹き付けるという後処理が必要です。
そこでパステルのように自由に混色ができてのびのび描け、クレヨンのように後処理の手間がなく、しかも油絵具のようにべっとり塗れて画面が盛り上がるような、つまりそれぞれのいいとこ取りの描画材料の開発が進めらた。
試行錯誤の末、完成した「クレパス」は、クレヨンのクレとパステルのパスをとって命名され、「クレヨンとパステルそれぞれの描画上の長所を兼ね備えた新しい描画材料」という画期的なものだった。
ということで、これがなかなか奥深いのだ。ま、それはともかくとして、これで作品を残した画家たちのクレパスに対する反応が一様に素晴らしいのに感心する。猪熊弦一郎なども、「クレパスは何にも束縛されず、まことに自由である」と絶賛している。
油絵を描く前の段階での下絵制作にクレパスを利用する画家たちも少なくない。あるいはスケッチの上にいきなりクレパスで描画するケースも珍しくないが、これもまた、クレパスの性質を上手く利用した例だろう。
出品作品は150点、詳細は➡︎作品リスト
熊谷守一 「裸婦」
山本鼎 「江の浦風景」
猪熊弦一郎 「顔」
舟越 桂 「習作」
山下 清 「花火」
小磯良平 「婦人像」
中には瀧本周造の「緑の扉」、「Parque」など、ほんとうにクレパスで描いたのか訝しく思えるほどの超細密画法もあり、学芸員に尋ねても、「企業秘密なので、申し訳ありません」と。
こんなハンディな画材で絵が描けるなら自分でも描けそうと思う鑑賞者も、きっと少なくないだろう。自分もそんな一人かもと思いつつ、いつものように最後のコーナーでグランマ・モーゼス、東郷青児、そして当館最大の「売り」である、セザンヌ、ゴッホ、ゴーギャンの大作に敬意を評して、クソ暑い下界へと。
会期は9月9日(日)まで。画像は当館ホームページほかからお借りしました。