ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

キスリング展@東京都庭園美術館(目黒)

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映画の後、会期が明日までと迫ったキスリング展へ。

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美術館が入っている旧朝香宮邸へのアプローチが素晴らしい!

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正面玄関(今は開閉不可)にはルネ・ラリックによるガラスレリーフの4体の女性像が。うっかり見過ごしそうになるが立派な作品だから、しっかり鑑賞したい。それにしても、随分贅沢な玄関である。

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次室(次の間)にある香水塔。大広間から庭へとつなぐ空間には、モザイクの床、黒漆の柱、朱色の人造石の壁が使われ、中央には白磁の噴水器が置かれた。宮邸であった時代、実際に水が流れる仕組みになっていて、朝香宮妃が香水の香りを漂わせたという逸話から、「香水塔」と呼ばれていた。

モイーズ・キスリング(1891-1953)だが、クラクフ出身のユダヤポーランド人、1910年、19歳でパリへ。パリ派の画家たち、即ち、フジタ、モジリアニ、スーチン、他にピカソ、グリスなどキュビストたちとの付き合いから、さまざまな様式を学び、実験的に自分の作品にそれらを試している。

したがって、時代ごとにめまぐるしく作風が微妙に変化しており、そんな中で1930年代にやっとこれぞキスリングという作風が確立されてきた印象がある。それでも、それらも同じポーランド出身の同世代人、タマラ・ドゥ・レンピッカ(1898-1980)を思わせる筆使いが感じられるのが興味深い。

彼は第一次大戦に志願して前線へ。重傷を負って帰国、その功績からフランス国籍を得た。また第二次大戦にも志願、自分がユダヤ人であることから、ナチスへの敵愾心が強く、ナチス側からも死刑宣告が出るなどしたため、一時期アメリカに亡命。戦後、南仏へ戻った。

自分がユダヤ人であることを誇りにしていながら、モイーズといういかにもユダヤ風のファーストネームを好んでなかったらしく、署名は一貫してKislingだけを用いていたというのも興味深い話である。

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ベル=ガズー(コレット・ド・ジュヴネル)》 1933年 カンティーニ美術館、マルセイユ © Musée Cantini, Marseille

なにやら、伊勢丹の包装紙を思わせる色使いだが、強烈な印象を受ける。背景に緑を使うことが多いようだ。彼女の瞳、しっかりしているが、目線の先が定まらず、どこか哀愁を感じさせる。百合の花もキスリングが好んだ花の代表。

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《シルヴィー嬢》 1927年 松岡美術館

これなどもいかにもキスリングを感じさせる作品。日本の美術館所蔵のものが多いのは意外である。

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《レモンのある静物、緑の背景》 1916年 プティ・パレ美術館 / 近代美術財団 © Petit Palais / Art Modern Foundation, Genève

構図がポール・セザンヌを思わせる。

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《サン=トロペでの昼寝(キスリングとルネ)》プティ・パレ美術館 / 近代美術財団、ジュネーヴ © Petit Palais / Art Modern Foundation, Genève

色調はフォーヴィズムだ。床、テーブル、衣装に落ちる木漏れ日が画面に活力を与えている。

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《赤い長椅子に横たわる裸婦》1918年 プティ・パレ美術館 / 近代美術財団、ジュネーヴ © Petit Palais / Art Modern Foundation, Genève

一目でティツィアーノの「ウルビーノのヴィーナス」、あるいはマネの「オランピア」思わせる構図。ダイナミックな赤が強調されている。表情はどこか東洋的である。

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《カーテンの前の花束》1937年 村内美術館

画面いっぱいに盛大に花を描いた静物も結構展示されている。これも日本の画廊所蔵作。

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モジリアニが描いたキスリングの肖像

今回、92点もの展示がある大回顧展になっており、新館まで目一杯展示されていて、これは予想外。これでシニアは550円というのは、普段、この倍以上払っている身にはありがたいこと、この上なし。

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新館から庭に直接出られる設計になっているのはなかなかよい。

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新館の全貌

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久しぶりに渋谷に来たら、すでにこんなに高くなっていたビル。

 画像は同館のホームページからお借りした。