ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「1917 命をかけた伝令」

20200218 1917 英 119分、製作・脚本・監督:サム・メンデス

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また戦争映画の傑作が一つ

サム・メンデスが自身の祖父から聞いた話を基にして製作したことになっている。第1次大戦で、実際フランス北部の塹壕戦で悲惨な戦いを強いられた祖父は、ほとんどその時の話を家族にしなかったそうだから、どういう経路で事実を知ったか不明だが、もちろんメンデスのことだから、緻密な情報収集に加え、自身のイマジネーションを最大限に発揮してできたのが本作なのだろう。

アメリカが正式に参戦することにした直後、1917年4月、膠着する西部戦線での話。予定された攻撃を中止するという重要な作戦指令を前線に届けるすべがないため、若い兵士2名に、まだ独軍が潜んでいる恐れのある地帯を突破して最前線の指揮官に直接届けよとの密命。

勇躍出発する二人をカメラがひたすら追い続ける。全編ワンカットという触れ込み通り、途切れることはない。今のカメラワークには驚くほかないが、手ブレというものがまったくなく、終始滑らかである。ワンカットということなら、映画の中の進行と実際の経過が同じかと一瞬思ったがさにあらず。

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複葉機同士の空中戦で、落ちてくるのを眺めていたら、なんとこっちに向かって

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ドイツの狙撃兵と相討ちとなる主人公


命の恩人である相棒を失った主人公が、単独行となり先を急ぐが、壊れた橋を渡りきる寸前にドイツの狙撃兵から銃弾を浴び、最後は相討ちとなり、一瞬画面が暗闇となる。ここでワンカットは途切れる。次のシーンは、周囲は真っ暗だが、教会らしき大建造物の火災で、濃淡のはっきりした映像シーンとなる。これは死後の世界かと一瞬思えるほどの効果を出していて、秀逸な場面である。

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夢の中、はたまた死後の世界?

最初と最後のシーンがかぶるのもメンデスのよく使う手。のどかな草地に一本そそり立つ大木に背中を預ける兵士の姿。(実は、撮影時、野営トイレがかなり先であるため、エキストラたちは皆、この大木の根元で用を足していたから、ここで主役が感慨深く座るラストには笑いを禁じ得なかったとか)

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ジョージ・マッケイにとっては願ってもない大役だ。これがその”木”!

1次大戦でとりわけ酸鼻を極めた塹壕戦を扱った古今の名作、数知れず。その中でも秀逸な作品に本作が加わったのは間違いないだろう。

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コリン・ファースベネディクト・カンバーバッチというビッグネームもここでは端役。

主役を射止めたジョージ・マッケイ、それほどインパクトのある風貌でもなく、ことさら演技派ということもないのだが、そこが却ってよかったようで、こうした役柄には目立つ男優を使わないのがメンデス流なのだろう。愚亭は、日本で公開された彼の出演作はかなり見ている方。「サンシャイン/歌声が響く街」、「私は生きていける」、「パレードへようこそ」、いずれも2013/14の地味な作品ばかり。

#4 画像はIMBdから。