ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「希望の灯り」@Amazon Prime

221208 IN DEN GÄNGEN(通路で)独 2018 2h5m 監督:トーマス・スチューバー

タイトル通り(と言ってもあまりに散文的な原題のことではありません)、心にポッと灯がともるような趣です。ちなみに原題の意味は巨大スーパーの通路のことを指していると思われます。そこで交錯する男女の思いが描かれていますから。

舞台はライプツィッヒ郊外の巨大スーパーです。時代は、東西ドイツが統一されて数年後でしょうか。それまでは長距離トラックの会社だったのが西側資本に取って代わられてスーパーに変身していますが、当時の長距離トラックドライバーほぼ全員が新しい会社に採用されています。

1989年のベルリンの壁崩壊直後こそ、旧東独人は夢にまで見た西側ワールドに雪崩れ込み、狂喜乱舞の態でしたが、その後、日が経つに連れ厳しい現実を目の当たりにします。圧倒的な東西の経済的格差にうまく順応できないのです。この作品はそのあたりのドイツ人の心の機微にうまく触れるような作り方で、我々日本人にはそうした背景を理解しておかないと物語の展開に多少違和感を覚えるかも知れません。

主役を演じる若手中途採用社員クリスティアンを演じている俳優がホアキン・フェニックスに容貌だけでなく雰囲気もよく似ていました。悪ガキどもとつるんでやんちゃを繰り返し少年院に世話になって、やっと心を入れ替えて新しい人生を踏み出したところなんです。

以前から採用されている中年以上のオッサン、おばちゃんには息子のように見られ、彼もその期待に応えようと必死で難しいフォークリスト操縦も覚え、一発合格を果たすのですが。人妻マリオンの流し目に一発でよろめき、淡い恋心を抱きながらの年の瀬、亡くなった先輩社員が教えてくれたフォークリストの技を駆使すると波の音が・・・。

印象的なシーンは、消費期限切れの食品を裏の廃棄ボックスへ投げ込むのですが、まだ食べられることをみんな知っています。でも、もちろん規則違反ですから、見つかればクビかも。それを覚悟か、みんな素知らぬ顔で、ケーキ類、ソーセージなどつまんでいます。

クリスマスの夜など、一斉に廃棄ボックスに首を突っ込んで「美味い、うまい!」ですから。自分たちが生まれ育った東独では、そんなことはあり得なかったわけで、明らかに西側資本主義のシステムですからねぇ。

当時の微妙な統一後のドイツの事情を反映させた社会派ドラマです。佳作。