231217
この人、コロナ禍で歌手活動を休止、その後、復活の道筋を探っていたようです。年齢的にもテノールとしては峠を越えたあたりなので、慎重に準備を進めたようで、それは選曲によく現れていると思います。
いきなりオペラアリアを持ってきて、「おや、大丈夫かな?」という気にもなりましたが、かなり軽めに歌っていました。その分、終盤の同じ歌劇からのアリア、「星は光りぬ」を朗々と歌い上げて、バランスをとったんでしょうかね、そんな印象でした。
それ以外は至って軽いものをうたっており、喉に無理をさせない気遣いが見られました。まあ、それにしても圧倒的な給水頻度には少々驚きました。1曲ごとに口に含んでましたからね。
今回際立ったのは、伴奏者の素晴らしさ。赤星裕子さんは何度もここでも取り上げていますが、とりわけ後段の冒頭や合間に弾いた煌びやかな音には魅了されました。もう1人、台湾出身のハーピストがまた、その美しい演奏スタイルも手伝って、見事にジョン・健・ヌッツォを盛り上げていました。また自身の演奏では、アイリッシュ・ハープで奏でたダニー・ボーイとグリーン・スリーブスが深く心に染み渡りました。
それにしてもイタリア系だけあって、ヌッツォのショーマンシップには感心しきりで、日本人が同じことをやればキザにしか見えない仕草もこの人がやるとごく自然なんですね。歌唱力には翳りが見え始めたとは言え、まだまだエンターテイナーとしてはすこぶる高いパフォーマンスを示した演奏会でした。
このホール、初めて入りましたが、素晴らしい!温もりを感じるのは随所に木目調を施していることと、壁、天井まわりのなだらかな曲線デザインのなせるわざでしょうか。今日のような個人のリサイタルや室内楽などにはぴったりの会場でしょう。ちょっとアクセスがイマイチかも。最寄りは江戸川橋と飯田橋ですが、どちらからも、距離があります。