250626
前評判通り、文句なしの作品でした。3時間を超える長尺ですが、まったくそれを感じさせません。なかだるみ、なしでした。「え!もう終わり?」っていうのが正直な感想です。愚亭には珍しいことです。それほどのめり込んでいました。
物語そのものの面白さもありますが、歌舞伎のシーンのあまりの出来の良さに思わずウルっと。めったに経験するところではありません。詳しいことは→こちらの公式HPを見ていただく方がよさそうです。
冒頭、雪のちらつく長崎の料亭。1964年という設定。ここで暴力団組長が殺されます。それを目の当たりにしたのがその子である主人公です。ここから立花喜久雄(吉沢亮)、のちの歌舞伎役者、3代目花井半次郎の数奇の運命がゆっくりと回り始めます。1980年、1986年、そして最後は2017年と、50年を超える話です。
彼を引き取ったのが、2代目花井半次郎(渡辺謙)です。見どころはあるとは認めつつも、ほぼ同い年の実子、大垣俊介(横浜流星)、のちの花井半弥をいずれ自分の名跡を継がすつもりでした。ま、当然の話です。
それなのに、思わぬ方向へとストーリーが展開されていきます。
合間に挟む歌舞伎の名シーン、これでもかと言うほど盛り上げて、胸熱です。美男俳優二人とも素晴らしいのですが、特に吉沢亮のとりはだものの凄さが際立ちます。NHK大河ドラマで渋沢栄一の生涯を描いた「青天を衝け」(2021)で全編見ていましたが、これほどの俳優だったとは!と、感慨深いものがあります。
公式HPにもあるように李相日監督はこの役は彼以外のキャストは考えてなかったそうですから、本作の成功のかなりの要因はこのキャスティングだったかも知れません。相手役の横浜流星クンもちょっと霞んだ印象です。
渡辺謙の演技は今更言うことはありませんが、妻役の寺島しのぶもさすがです。この人、母親ほどべっぴんではないけど、それを逆手に取って味わい演技を見せてくれます。渋い上手さとでも言いましょうか。重みがあります。
他に田中泯の存在感もぐっときましたね。ぞくっと来る、なんとも言えない妖気というか、なんというか、もうそこにいるだけで画面が締まる感じですかねぇ。
歌舞伎に詳しい人はもちろん、そうでない人もたっぷり楽しめる作品です。それにしても、吉沢くんには参りました。
ラストの鷺娘、降り注ぐあの雪は、あの長崎であの日に見た雪を思い出して舞っていたのでしょうか。