ぐらっぱ亭の遊々素敵

2004年から、主に映画、音楽会、美術展、グルメなどをテーマに書いています。

「魔笛」@芸大奏楽堂

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何度観ても、このオペラは長い!途中でかならずダレる。正味2時間40分だからねぇ。

ま、でも見るたびに新たな発見があるし、それだけ奥深いということだろう。さすがモーツァルトだ。

さて、今日の魔笛だが、伝統ある芸大プロデュースということで、オケや合唱、スタッフには芸大生、学院生、卒業生が多数当たっていたが、ソリスト陣は必ずしも芸大出身ばかりではないのが意外で、面白かった。

演出もよかったし、舞台の造作、美術、照明など、随分工夫されているという印象で、全体としては、よくバランスの取れた上演だったように思う。歌唱は独語、語りは日本語というのも、よくある方式で、ごく自然に楽しめた。両サイドに縦書きの日本語字幕をよかった。

今日のお目当は狩野賢一。期待にたがわず、見事なザラストロだった。声がすこぶる安定しており、特に最低音部の響きは今更ながら、すさまじいばかりだ。

夜女、愛宕結衣も悪くなかった。コロラトゥーラだから、当然だが、かなり軽めの音質で、正確に音を刻んでいたと思う。

パミーナを演じた渡辺智美、まったく知らなかったが、歌唱はまだまだ磨きをかける必要があるとは思うものの、たっぷり聴かせられるだけの技量はすでに持っている。それに大変チャーミングな容姿で観衆を魅了!

弁者(僧侶1)の渥美史生は多分初めて聴くが、ザラストロに負けない音量で、聞かせてくれ、十分満足。見せどころ、聞かせどころがたっぷりのパパゲーノ、田中夕也が申し分のない存在感!首吊り場面は笑わせてくれた。そういえば、上野を意識してパンダの着ぐるみが出てきたのには、思わず笑った。

それと、コスチュームだが、相当金のかかるものを用意しており、結構高めの予算が組まれていたのかな。

この劇場、過去二度、合唱で舞台に乗ったことがあるが、なかなかよくできているホールだ。バルコニー席も立派な作りだし、舞台裏や楽屋も充実している。音楽大学、それも日本を代表する藝術大学内のホールであるから、それに恥じないホールと言える。

ただ、難を言えば、ロビーが狭いことと、客席の表示が小さくて、皆、自分の席を確かめるのに苦労していた。もう少し見やすい表示に、今からでも早速改装すべきだろう。しかし、終演時にロビーの扉が全面開放され、一気に溢れ出す客がスムーズに出られるようにした設計は素晴らしい!

#63 文中敬称略

 

コバケンで、好きなドボルジャークをたっぷり!

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近くのアプリコでこの組み合わせは願ったり叶ったり。早めに予約していた席はいつものように左サイドのバルコニー席、前から2列目。

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この若いチェリスト、なかなかの力量を、いとも軽々と示してくれた。ドボルジャークのチェロ協は昔から大好きな一曲ゆえ、数え切れないほど聴きに行っているが、今日の演奏も素晴らしいもので、鳥肌の立つ思い。典型的な童顔で、こうも淡々と弾いちゃうのが、なんともちぐはぐ感があり、それも見ていて微笑ましくもあった。

3楽章のどれもが素晴らしいのだが、2楽章の終楽部ののどかな感じは、何年か前に列車で旅行したチェコの車窓風景が、自然に浮かんできた。それが一転、3楽章に入ると、コンバスの低い、プレストの刻みが特徴的な導入部から、チェロが力強く小気味好い旋律を奏でていく。そして一気に高みへと。いやあ、素晴らしかった。

8番は比較的聞く機会が少ないのだが、これも随所にボヘミア的な旋律がちりばめられており、管の出番がすこぶる多い。とりわけ、木管に特徴的なメロディーを吹かせている印象。

コバケンの指揮ぶりは今更だが、前半はいちおう楽譜を見ながら、ごく普通に振っていたが、後半、8番では、いつもの暗譜スタイル。まるでスクワットをやるがごとく上下に激しく動きながら振るから、指揮台は多分かなり邪魔なはずだ。やはり「炎」が一番似合う指揮者だ!

ところで、岡本侑也がアンコールを弾いてくれたが、これがまたとんでもない曲で、オケのメンバーたちも興味津々で耳をそばだてていたのが面白かった。シチリア出身のチェリスト兼作曲家、ジョヴァンニ・ソッリマの作品、Lamentatioという難曲。徹頭徹尾、技巧を凝らした曲で、それをまたなにごともないかのごとく弾いてしまった。おそるべし!

後で聞いたら、8番の後で、アンコールとしてもう一度最終楽章のプレスティッシモをやったとか。こちらは合唱練習が遠方であるものだから、8番が終わるや否やアプリコを飛び出して、JRに飛び乗った。

#62 文中敬称略

 

「よりよき人生」

181005 UNE VIE MEILLEURE (邦題どおり)仏 111分 2013年東京国際映画祭参加作品 脚本(共)・監督:セドリック・カーン(「大人の恋の測り方」2016)

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自分のふとした感情に流され、才能はあるのに、ふがいなさから、掴みかけた幸運を手放すばかりか、せっかく芽生えかけた愛情まで失いそうになる。それを食い止めたのは血の繋がりはないが、自分に懐いた9歳の男の子。でも、この子の母親は今や6,000kmも離れたカナダに。それでも、雪の上にスノーモービルの軌跡を描くエンディングは、将来の希望を抱かされるものだった。

映画は、9歳の男の子を持つレバノン人のシングルマザーと、料理の腕はあるのに、場当たり的で、衝動的なフランス人男の出会いから始まる。

パリ9区、パレ・ロワイヤル広場に面するレストランにコックとして職探しにきたヤン(ギヨーム・カネ)、今は間に合っているからと体良く追い出され、悪態をついていると、休憩で出て来たホールスタッフのナディアと目が合う。一言二言交わしただけで、仕事の後、いっぱいやらないかと持ちかけるヤン、「午前3時だけど?」、「別に構わないさ」と受けるヤン。呆れながらも承諾するナディア。

こうして二人の関係が始まるのだが、自分のレストランを持ちたいという夢だけで、経済的な裏付けもなく、突っ走るヤン。ハラハラしながらもついていくことにするナディア。果たせるかな、はやばやと計画は頓挫。莫大な借金だけが残る。事態解決に動いたナディアの作戦とは。

優しい目つきのギヨーム・カネ(独女優、ダイアン・クリューガーとは、共演した「戦場のアリア」がきっかけで結婚するが、すぐ別れた)、調子はいいが中身のないような役柄にはぴったり。いっぽうのナディア役のレイラ・ベクティは、見るからにアラブ系だが、フランス生まれのフランス人。目の演技が素晴らしい!

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この子役がうまい!万引きした靴を前にして、ヤンから返してこいと。

映画としての出来栄えは悪くない。無駄も無理もない脚本もよかったし、展開が分かりやすかった。ただ、ヤンがどの程度の料理人だったかが描かれていないので、若干リアリティに欠けたと思われても仕方ない。自分のことをシェフ、シェフと言い続けて、ナディアの失笑を買っていた。料理する場面もちょっとあるにはあったが。

ヤン自身も里親に育てられたという過去を持つことが終盤の一言で明かされる。男の子に親並みか、それ以上の愛情をもって接したのも、そのあたりの事情が絡んでいたのだろう。いろんなものを失ったヤンだったが、手に入れた家族愛の方がはるかに優っていたようだ。まあまあ佳作だろう。

蛇足:フランス語で罵声の代表格はメルドゥなのだが、本作ではやたらにシットが使われていた。これは英語なので、違和感、大あり。最近はもっぱら外来語を使うようになったのかしらん。これもインターネットの影響?

#75 画像はIMDb、およびALLCINEMA on lineから

「コーヒーが冷めないうちに」

181001 本屋大賞にノミネートされた原作(川口俊和)を基に作ったということで、まあまあ好評のようなので、消去法で見ることになったが・・・選択ミス。

4度泣けるというふれこみも白々しい限り。ウルウルも来ず。自分がこの手の作品を見る層からは大きくはずれていたということだろう(と、自分を納得させる)監督:塚原あゆ子

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⬆︎幽霊となってこの椅子にずーっと座り続ける有村の母、石田ゆり子。彼女がトイレに立つ時しか、他の客がここに座るチャンスがない。有村の幼少時代に病死したこの母とは、ずーっとわだかまりを残したまま。最後にやっと和解するチャンスが。

「フニクリフニクラ」という名の喫茶店。一定の条件下、この椅子に座って、コーヒーが冷めないうちに飲み干せば、タイムスリップして、一度でもこの店に来たことのある人になら、会えるという仕掛け。まあ、この時点で見続ける興味を失った。

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対象になったのは4組。波瑠林遣都は、仲違いをするものの、米国駐在になった相手と一緒に。

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認知症が進行するまえの妻に会おうと過去に戻り、いい関係を取り戻せた初老の夫婦、松重豊薬師丸ひろ子

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地方の老舗旅館の後継を嫌って東京に飛び出した長女、吉田羊を説得にかかる次女、松本若菜、仲の良い姉妹だが、妹が交通事故に。妹の願いを無視してきた姉、生前の妹に詫びて、後継者となり、旅館を盛り立てる。

全体に時間の関係だろうが、1話1話の掘り下げ方不足で、意図がよく伝わって来ない。脚本力の問題か、よくわからない。これは小説で読んだ方がいいのではと思った。

出演者は一様にいい演技をしていた。中でも有村架純は見直した。それと一匹の猫が!

#74 画像はALLCINEMA on lineから

「散り椿」

180928 原作:葉室 麟(「蜩ノ記」など。昨年末、66歳で没しており、エンドロールの最後に、原作者に捧ぐという字幕が)撮影・監督:木村大作

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佳作。いかにも木村大作好みの、美しい四季折々の風景が随所に織り込まれ、静謐な画面構成に惹かれる。雪のシーンで始まり、同じく雪で終わる。雪を踏むザクザクした音、風になびくススキの穂、紅葉する山々、遠くに残雪の残る山襞、そしてもちろん大きな椿の木である。また、場面に寄り添う加古 隆通奏低音のごとき音楽も深く印象に残る。

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原作は読んでいないが、藤沢周平が好んで描いた世界観に似ている。享保15年(1730)の扇野藩(架空)での話。よくある話で、城代家老の悪事に下の者が気づき、藩が真っ二つに割れての騒動に。そこに男女のワケありの愛、家族愛などを絡ませ、犠牲者多数出るも、最後は勧善懲悪でジ・エンド。

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かつて四天王の言われた剣の達人同士、1人の女性を巡って因縁あるものの、どうした真剣で斬り合わねばならないのか。散り始めた椿の木の前でのこのシーンは、本作最大の見せ場の一つ。

岡田准一はこうした役がすっかり板に付いた。殺陣のスタッフとしても、また撮影スタッフにも名が見える。

麻生久美子は初めて見たが、和服もよく似合うし、ぴったりのキャスティング!黒木 華は言うまでもない。

ラストでの殺陣のシーンには、木村大作自身も斬られ役で映ったらしいが、気づかなかった。それにしても自信満々の西島秀俊が、至近から弓を射られて、あっけなく死ぬシーンは、何か違和感が残った。血しぶきが凄まじかった。あれは黒沢流なのかも。

クレジットロールでは、すべて自筆の名前が並ぶが、まあみんな字が下手くそで笑える。達筆ではないが、デザイン的で味わいのあるのが木村大作加古 隆のみ。今の人は字を書く機会がなくなったから無理もないが、せめて自分の名前ぐらい立派に書いて欲しい。

#73 画像はALLCINEMA on lineから。